軌跡の果て 第五章
〜エピローグ〜




「ルフィ!何処だ、ルフィ?」

 ゾロが呼んでいる。声変わりを未だ済ませていないそれは、少し高くて良く通る。
 それを、ルフィは木陰に寝そべったまま、声をかけるでもなく聞いていた。
 ここに居る。早く気付け、と。心で呼びかけながら。
「ルフィ?」
 そうするとゾロはすぐにこちらを振り返って、影に隠れていた探し人を見つけ出した。
 視線の合ったゾロを見て、ルフィは満足そうに口の端を吊り上げる。
「居るんなら返事してくれ」
 ゾロは仕方ないな、という風に溜息を吐いて、木陰に歩み寄った。

 ルフィはしばしばこんなことをしてゾロを困らせる。悪戯っぽく笑うルフィは、五つも年上なのにまるで子供みたいだとゾロは思った。
 こんな時は、ルフィが甘えたがっているのだということも、知っている。
 けれど、とりあえず用件は伝えなければならない。
「ウソップとカヤが来たんだ。久しぶりに皆でお茶でもどうだって・・・神官長が呼んでる」
「ああ、ウソップにはさっき会ったよ。頼んでたモノ、持って来てくれたんだ」
 手の中で何かを転がしながら、ルフィは嬉しそうに言った。



 ゾロが一度死んだあの後、ルフィはカヤの導きによってこの神殿に辿り着いた。
 海を越えた遥か彼方の大陸に在ったここは、以前ルフィ達が居た神殿と同じく、過去に迫害を受けたのだ。カヤは、生き残って世界に散った神官の一人だった。
 国を治めていた王朝の入れ替わりに伴い、力を取り戻した神殿の立て直しを図り・・・
 今、ルフィはこの神殿の神子として、君臨しているわけである。


「それよりもサ、こっち来いよゾロ」
 起き上がる気配も見せず、来い来いと手招きするルフィに、ゾロは少し困りつつも素直に従う。
「何だよ・・・わっ!」
 不意に腕を引っ張られて、ゾロは抗う間もなくルフィの胸に倒れ込んだ。まだ少年の域を出ていないゾロの身体は細くて軽くて、ルフィがそのまま身体を反転させてしまうと簡単に組み伏せられてしまう。
「ルフィ!」
 木陰とは言え昼間っからこんな風に押し倒されて、ゾロは顔が熱くなるのを感じた。そんな真っ赤になった姿が、またルフィの愛しさを増幅させるということに、ゾロ自身は気付いていない。
 我慢出来ずに、ルフィはゾロの唇を己のそれで塞いでしまった。しかも、最初から舌を絡める深いキスだ。
 ゾロは息苦しさと気持ち良さが同時に襲いかかってくるこのキスに、めっぽう弱かった。熱いルフィの舌が口内を荒らしてくるたび、頭の奥がフワフワとおぼつかなくなってくる。
 ゾロが十二歳を迎えてしばらくした頃、ルフィはしばしばこんなキスを仕掛けてくるようになった。それ以上はさすがに手を出しては来ないけれど。

 緑の芝生に押さえ付けられるまま、抵抗も出来ずに熱いキスに酔わされきった頃、ようやくルフィはゾロを解放した。「ごちそうさま」と意地悪く笑って。
「バカ・・・ルフィ」
 ゾロは乱れた息を整えながら、それでも幸せだと感じてしまっている自分に呆れ果ててしまった。
 そんなゾロの目の前に、ルフィは金色の何かをちらつかせる。
「・・・何?」
 身体を起こしてよく見てみると、それは細い雫形をしていた。
「ピアス?」
「そう」
 下方に紅い宝石が埋め込まれたそれは、ゾロが今左耳に装着している二つとお揃いのように見える。
「ウソップに頼んでたんだ。あの街で・・・無くなったんだけどサ。ようやく見つけたんだ」
 そう語るルフィは、何かを懐かしむように遠い目をしていて。ゾロは、昔ルフィが話してくれた『前世のゾロ』のことを思い出しているのだろうと思った。
 ルフィに、こんな優しげな目をさせるなんて・・・ちょっと妬ける。

「なぁ、おれが着けても良いか?」
 でも、嬉しそうなルフィの、蒼と金の瞳に映っているのは、今は自分の方だ。
 コクリと頷くと、ルフィはにしししとはにかんで、ゾロの耳朶をひと舐め。そうして、驚くほどの手際の良さで、ピアスを通してしまった。
 初めて開けられた三つめの穴は、少し痛くて血が滲んだけれど、ルフィが満足そうに笑うから、ゾロも三つ揃ったピアスを揺らして、「どうだ?」とおどけて見せる。
 そうすると、ルフィは「最高だ、よく似合ってる!」と親指を立てて。
 笑い合いながら、また二人はキスを交わした。




 ルフィ十七歳。
 ゾロ十二歳。

 運命に弄ばれた二人は、それでも幸せだった。
 魂は、ずっと隣に在ったから。




 END



お疲れ様でした・・・長かったですね。。。
編集してみて、改めて感じました(汗)
でもWEBならでは!ってことで、壁紙で色々遊べたのが楽しかった♪

03年の1月発行『ひとつなぎの空』からの再録でした。
とにかく『ルフィを命懸けで護るゾロ』が書きたい!
という欲求から生まれたお話です。
ハッピーエンドですが、途中死にネタを挟んでしまって
ニガテな方が知らずに読んでしまったなんてことがあったらスミマセン(汗)
しかし個人的にはとても満足でした。
設定がハチャメチャでも、目的だけは達成できてますから♪(笑)
貴方の心に、何か残すことができたなら、幸せです。