「ゾロがおれのこと護ってくれんのってさ、おれが神子だから?」


 脳裏に、愛しく懐かしい声が響いた。
 ゾロと同い年だったルフィだ。

「おれさぁ・・・ホントはあんまり嬉しくねェんだ。護られる立場にいるっての」
 膝を抱えて背中を丸めた格好で、ルフィが珍しく愚痴を零した。
 いや、愚痴とも違う気がする。
「何言ってんだ、お前はこの神殿では神に次ぐ存在なんだから・・・護りたいと思うのは当然だろ?」
 あまり深く考えずに答えたゾロに、ルフィは「それだよ!」と指差してくる。
「そーゆーのがヤだっつってんだよ。なんか突き放される気がする」
「ルフィ・・・」
 ルフィは口を噤んでしまったゾロに、甘えるように抱きついてきた。腰に腕を回して、彼の膝に顔を埋める。
 こんなルフィは本当に珍しい。
「おれは別に特別な人間じゃない。たまたま目が片方金色をしてて、たまたま未来がぼんやり見えるだけだ。本当はこんな能力、欲しくもなかった」
 見たいモンばっか見える訳じゃねェし・・・と。

 ルフィが未来の映像を見るというのは夢の中が多い。時々寝所を共にしているゾロは、しばしばルフィが夢にうなされているのを知っていた。
 けれど、ルフィは絶対にその内容を語ろうとはしない。だからゾロはいつも、それを問い質したりせず、ただルフィの身体の震えが止まるまで、その身を抱き締めていてやるだけだった。

「俺は・・・お前が神子だから護ってるワケじゃねェ」
 ルフィの辛そうな姿に、ゾロの口から自然と言葉が零れ出た。
「お前がここを出て行くと言ったら、俺も一緒に行く。お前がもし神子じゃなかったとしても、俺はお前を護る」
 素直な想いが言葉となって。
 口下手で照れ屋で、いつも言いたいことが上手く伝えられない自分だけれど。
 今は、そんなもの全てかなぐり捨ててでも、言葉にしなければならない。そんな気がした。

「ルフィ、お前という人間を、大事に思っているからだ」
「それってさ。おれのことスゲェ好きってこと?」
 現金なもので、さっきまで眉間に寄っていた皺も伸びきり、今度は一転して嬉しそうに問うて来る。普段ゾロが恥ずかしがって言葉にしない台詞を、ここぞとばかりに言わせようという腹なのだろう。
 それに対して、ゾロはハッキリと答えた。
「『好き』なんかじゃねェよ」
「え?」
「そんなんじゃ足りねェ。ルフィ・・・お前を愛してる」
 そして、そのまま覆い被さるようにして口付けを。
 ルフィはそれに酷く幸せそうに微笑んで、ゆるりと起き上がった。その蒼と金の瞳にゾロを映したまま。

「ゾロ・・・『血の契約』って知ってるか?」
「ルフィ!?」
 ルフィの瞳に真剣な色を感じ取って、ゾロは目を見開いた。
「それを、交わしたいんだ。お前と」
 そう言って、ルフィは腰のベルトに指していた短刀を鞘から抜き放った。
「本気・・・なのか?俺で、良いのか?」
 声が震える。
 なぜならば、『血の契約』とは・・・
「おれはお前じゃなきゃ嫌だ」
 ルフィはニシャっと屈託のない笑みを浮かべて、そのままゾロを胸に抱き込んだ。
 ルフィの匂いがする。
 涙が、零れ出しそうだった。

「ゾロ・・・一つ約束してくれ」
 静かな声でルフィが囁きかけるのに、ゾロは耳を傾ける。
「おれは、何があっても逃げねェ。何かあったときは皆と一緒に戦う。おれを、ただ護られるだけの木偶にするな。おれだってお前を護りたいし・・・お前と一緒に生きたい」
 ルフィの声が徐々に涙に濡れてくる。
 ゾロは驚きと共に、心臓を握り締められたかのような痛みを感じた。
 ルフィは、また何かを抱えている。誰にも言えない苦しみを、胸に。
「これはおれの我侭だ。お前に、この先苦労をかけると思う。でも・・・おれは、それでもお前と・・・ゾロ」


 ああ、思えばこの時。
 ルフィは知っていたのだ。己の運命を。
 そして、俺が背負うことになるであろう未来を。

 俺は、なんて馬鹿なんだ。
 目の前に広がる現実しか、見ていなかった。
 死を控えてようやく、ルフィのあの言葉の意味を知るなんて。



続く >>