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どれくらいの時が経っただろうか。 先程力任せに殴られた頬は、まだ顎が引き攣れるほどに痛む。しかし蹴られた腹の方は随分と痛みも治まっていたから、もうかなりの間こうして眠ってしまっていたのかもしれない。 ルフィのいる牢の外が、何やら騒がしかった。その音で目が覚めたのだ。 ルフィが外の様子を伺おうと身体を起こしたのと、冷たい鉄の扉が開いたのは同時だった。 「出ろ、出発だ」 出てきたのは、さっきルフィを蹴りつけた長髪の男。 あの時の痛みを身体はまだ無意識に記憶しているのか、後ろ手に縛り上げられ足に枷を填められる間も、抵抗しようと奮起する精神に、身体が従ってくれない。 それにしても・・・ 「もう、行くのか?」 ルフィとしては、もう少しここに閉じ込めておかれるのかと思っていたのだ。 いや、むしろそうしてくれないと、ゾロがここを探り当てるための時間が少なすぎる。 「ああ、釣った獲物は新鮮なうちに届ける・・・漁ではそれが常識だろ?」 浚ったその日のうちに奴隷市場に出荷することで、被害者の行方も足取りも一夜のうちに消し去っていたのだ。この鉄則を守った狩りを続けてきたからこそ、この組織は強大化してこれたとも言える。 ルフィは得意げに言った男のセリフに、目の前が真っ暗になった。 本当に、自分はこのままゾロと会えなくなってしまうのか? でも、もしかしたら。 その方が、ゾロにとっては良いのかもしれない。 ルフィがいなくなれば、ゾロは自由な道を歩める。 足手まといな自分なんて、ゾロにとっては必要のない存在・・・なのだから。 ルフィは引き摺られるようにして、港へと向かう馬車に乗せられた。馬車は小さく車輪を鳴らしながらも、真っ暗な路地を闇に溶け込みながら走っていく。 絶望と悲嘆に押し潰されそうな胸を抱えながらも、しかしルフィは何故か冷静に見えた。 いや、一旦取り乱したら、そのままみっともなく泣き叫んでしまいそうだったからだ。 孤独と不安を、懸命にその小さな身体に押し止めて。 最後にしようと。 「ゾロ・・・」 力ある、その名を。 刹那。 馬車が大きく揺れた。 馬が暴れて嘶く声と共に、男の断末魔の叫びが上がる。 「な、何者だ!?」 「お前はっ!?」 問う男達の言葉も、次々と悲鳴へと換わる。 まさか。 ルフィが押し込められていたのは、黒い天蓋で覆われた馬車の荷台だ。 真っ暗なその中では、外の様子が分からない。 ルフィは腕を拘束する縄から何とか逃れようと、必死に藻掻いた。 その時、ガバッと天蓋が捲くられた。 「ルフィ!?」 目が合ったその人物は。 暗闇でも鮮やかな薄萌葱の髪。 「ゾロッ!!」 やはり来てくれたのだ。 ルフィを護るために。 しかし、ゾロはルフィの顔を見留めた途端、凍りついたように固まった。 いつもは優しい色を帯びている紅の瞳の奥。ルフィも見た事がないほどの、激しい炎が揺らめき立つのが見えて、ルフィはビクッと肩が震えるのが判った。 この朱金の炎が表すのは、『怒り』だ。 「テメェ!何のつもりだ!?」 その時、背後から野太い怒鳴り声が響いた。 ゾロは振り向きざま、ルフィの頭を荷台へと押しつける。 「伏せてろ!」 そう言って、黒い天蓋を掛け直す。 馬車を背後に護りつつ、声のした方へと対峙したゾロの前には、十人以上の男達が立ちはだかっていた。 「テメェ・・・よくもやってくれたな」 「商売の邪魔しようってんなら、命はねェ!」 男達は全員、手に剣やサーベルを持ち、怒りも露わに肩をいからせている。 ゾロはさっき、馬車を操っていた御者を含めて三人の男を斬った。一応、命に別状ない程度にだが。 手に握ったゾロの刀からは、未だ血が滴っている。 多勢で囲まれているにも関わらず、焦った様子など微塵も見せないゾロに、男達は逆に怒りを募らせていった。 更にゾロに向けて捲くし立てる。 「命が惜しけりゃそこをどきな!」 「そこに載せてんのはうちの『商品』だ!」 その台詞が、ゾロの内で燻っていた火種を一気に爆発させた。 「どかねェと・・・」 その瞬間。 男の首は宙を舞っていた。 彼らのうち、鍔鳴りの音を聞いたのは一体何人いただろうか。 何が起こったのかも判らないで、呆気に取られている男達の前に、ゴトンと首が落ちた。 一瞬の間を置いて、血の雨がそこら中に降り注ぐ。 ゾロは、馬車の前から動かずに、男の首を一瞬で斬り落としたのだ。 いや・・・本当に動かなかった訳ではない。刀を抜いてから仕舞うまでの動作が速すぎて、肉眼から取り入れたデータでは脳で処理しきれなかっただけだ。 状況を把握できずに怯んだ隙を、ゾロは逃さなかった。そのまま、再び構えた刀で男達に斬り込んで行く。 ゾロの剣技は常人とは異なり、三本の刀を使う、いわば『三刀流』だった。両手に一本ずつと、更に一本、なんと口に銜えるというスタイルだ。 神子の守護者《ガーディアン》として誰よりも強くなれるよう、ゾロ自らが編み出した戦法だった。 三本の刀を自在に操り、物怖じもせずに敵を薙ぎ倒していく姿は、まさに鬼神。 その場にいた男達は、ろくに応戦も反撃も出来ぬまま、次々と悲鳴をあげて倒れ伏した。 |
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