軌跡の果て 第三章 |
「なんだよお前っ!放せよッおれは、ゾロ捜すんだからッ!」 「イデデデッ!このクソガキがぁっ!」 ルフィを担いでいた男は、噛まれた手の痛みに逆上してルフィを冷たい床に叩きつける。 その勢いで、ルフィは後頭部を強打してしまった。脳味噌が激しく揺さぶられ、目の前に黄色い火花が散る。 「おい、ハチ。乱暴に扱うんじゃねェ。一応商品なんだぜ?」 「チッ、見ての通り生きの良さは抜群だよ!クソッ血まで出てやがる」 ハチと呼ばれた男は、涙目になって滲んだ血を舐めた。 突然闇から伸びてきた腕にさらわれたルフィは、必死の抵抗も空しく、何処か地下室のような場所に連れて来られた。 そこが、ここ数ヶ月で強大化してきた闇組織のアジトだなんて、当然ルフィの知るところではない。 光の届かない牢のような場所に閉じ込められて、初めてルフィは身の危機を覚えた。 「お前ら誰だ?おれをどうするつもりだ」 必死に虚勢を張った言葉は、しかし男達の耳には入らなかった。 「あぁ?なんだコイツ、傷モンか?」 代わりに、やはりと言うべきか、ルフィの眼帯に注目がいったようだ。 男は黒い布の眼帯を掴むと、力任せに引き千切ってしまう。 「やっ、やめろよ!ダメだッ!」 ルフィはまさかそんなことをされるとは思いもせず、酷くショックを受けた。 これをはずすと、ゾロが怒るんだから! ゾロと二人きりの時以外ははずさないって、約束したのに! ルフィが大人しく眼帯を着けている理由は、ただそのためだけだった。 「おい、見ろよコイツ・・・」 「スゲェ・・・眼の色が左右違ってんぜ」 「金の瞳なんか、初めて見たぜ」 その場に数人いた男達が、こぞってルフィの顔を覗き込んでくる。奇異なものを見る目で。 その時、ルフィは初めて知った。 この眼が、普通ではないという事実に。 「ゴッド・アイ・・・」 誰かが、そう呟いた。 「何だそれ?」 「ああ、俺も聞いたことあるぜ。神の眼を持つ人間の話だろ?」 「五年くらい前に、神官狩りに雇われたことがあったんだ。神殿でふんぞり返ってやがる奴らの頭に、ゴッド・アイを持つ神子ってヤツがいるんだと、その時耳にした」 「まさかこいつが?なんで、そんなヤツが夜一人で街をウロウロしてたんだよ・・・」 ルフィを置き去りにして進んでいく話に、ついていけない。 ゾロは、確かにこの眼を「大事な物だが、他人に見せるべきじゃない」と常々言っていたけれど・・・ 「こいつァ金になるな」 ニヤリと、男達がいやらしい笑みを浮かべた。 「ああ、こんな珍しいのは高く売れるぜ」 「最近街のヤツらも用心深くなってきて、商売あがったりだったからな。アーロンさんも喜んでくれるだろう」 こちらの意思とは無関係に、勝手にまとまっていく話に、ルフィは次第に焦りを感じる。 「ちょっと待てよっ、おれをこっから出せ!売るってなんだよ!そんなこと聞いてねェぞ!」 「バァカ、誰もお前の意見なんて聞いてねェよ。お前はこれからどっかのお屋敷に売られていくんだ」 「ははは、お前は相当な高値がつくだろうからな〜〜、きっとどっかの成金ヘンタイじじいが買ってくれるだろうよ」 「良かったじゃねェか、可愛くしてりゃ大事にしてもらえるぜぇ」 「そうそう、多分『ペット』として、な」 がははは、と下品な笑い声が上がった。 幼く無垢なルフィには、男達が言っている話の意味は解らなかったが、このままではゾロと引き離されてしまう、ということくらいは分かる。 そんなことは、絶対に許せないことだ。 「いやだ!ゾロんとこ返せ!ヤダッ!出せーーッ!」 突然闇雲に手足をバタつかせて暴れ出したルフィに、男達はうざったそうに遠巻きになった。 たいてい、自分の行き先を知った者は、ショックに泣き崩れるか、それともこんな風に騒ぎ出すかだ。 「暴れるな小僧!所詮お前はこの運命から逃れられやしねェんだよ!」 暴れるルフィの頭を押さえつけて、男達のうちの一人が鼻で笑う。 その手を、ルフィはピシリと振り払った。 「おれの人生はおれが決める」 突然人が変わったように言い放ったルフィに、その場は一瞬静まり返る。 「お前らなんかに、おれの生き方を捻じ曲げさせたりしない」 迷いのない、真っ直ぐな視線に貫かれて、男達はその言葉を笑い飛ばすタイミングを失った。 透き通った蒼と金の瞳に、畏怖すら覚える。 「あ、甘くみるんじゃねェぞ!」 最初に身体の硬直を解いたのは、五人いた男達のうち一番ガタイの良いハチだった。焦ったように、ルフィの横っ面を殴りつける。 「ぐ、うっ!」 軽いルフィの身体は、その攻撃に簡単に吹っ飛んだ。壁に叩き付けられて、そのまま床に這いつくばってしまう。 ルフィの視線から解放されたことで、男達はようやく息を吐けた気がした。 こんな子供なぞの眼力に怯んだなどと、認められようはずもない。男達の心には、焦りと怒りが渦巻いていた。 「この世界、力が全てなんだよ!思い知らせてやるっ」 「お、オイオイ・・・顔はやめておけよ。大事な売りモンなんだからな」 「チッ、テメェは良い金ヅルだからな。コレ一発でカンベンしといてやるよ」 そう言い捨てて、今度は長髪の男が床に転がったルフィの腹を蹴りあげた。 「がはっ!」 いまだ未完成である幼い肉体にとって、腹に食い込んだ一撃は強烈にこたえた。痛みと息苦しさに、涙が滲む。 身体を丸めてうめく姿からは先程垣間見せた畏怖なぞ感じられなくて、男達はそれで満足したようだ。 「ここでおとなしくしてろ」 そう言い捨て、五人は穴倉のような暗い牢にルフィを置きざりにしたまま、何処かへ立ち去って行った。 足音が遠ざかっていく。 ルフィはそれを意識の奥で聞き届けると、堪えていた涙の堰を切った。 「ゾロ・・・ゾロォ・・・」 両眼からどんどん溢れてくる涙に、呼ぶ声も掠れてくる。 強くなろうと誓っても、結局はゾロを頼ってしまっている自分が、酷くもどかしい。 だから、「助けて」とは口に出さなかった。ルフィの、せめてもの意地だ。 「うっ・・く、ゾロ・・・ゾロ」 唯一の守護者《ガーディアン》であるその名を、ただルフィは呼ぶだけ。 でも、この声が届いたならば、きっと・・・ |
| 続く >> |