フェイク



 好きだ、とか・・・そんな感情ではないと思う。
 ただ少し気になってしまう、それだけだ。
 なにせあいつは初対面の時から、俺に強烈な衝撃を与えたのだから。
 くだらない理由で自分の殻に閉じ籠もっていた俺を、無理矢理孵化させる程に・・・
 あいつとルフィは。
 己の力では到底破れなかった堅い堅い殻に、いとも簡単にヒビを入れていきやがった。

 そして、その時同時に知らされた。
 彼奴らの絆の深さ。
 何人たりとも近寄れない、二人だけの空気がある、ということを。
 その刹那、心臓に細い針で刺し貫かれたかのような痛みが走った。
 何だ、この痛みは・・・
 分からない。
 でも、知りたくない。
 考えたくもない。
 いや、考えてはいけないのだ。
 何故か・・・その答えを出してはいけない、そんな気がした。


 ああ、頭が痛い。
 目眩がする。



 「サンジ〜〜!腹減った!!おかわり〜〜っっ!」
 キッチンにルフィの喧しい声が響き渡る。
 俺はこめかみを引きつらせながら、お玉でルフィの頭をどついてやった。
 「テメェな・・・今の状況が分かってンのか!?」
 そう・・・ハッキリ言ってしまえば食糧不足。
 先日チョッパーが仲間に加わって、船員は8人に増えたのだ。それでなくても人の5倍は軽く食べる船長が、俺の食糧配分を狂わせているというのに。
 「イテェな!何すんだ!!」
 「うるせぇ!これ以上お前に食わせる物はねぇつってんだよ!」
 「こんだけじゃ全然足りねぇよぉ!肉は!?」
 なおも言い淀んでくるルフィに、俺は頭を抱える。
 客に満足いくまで腹一杯食わせてやりたい、というのはコックの心からの願いなのだ。だからそれを叶えてやれないのは俺にとって何よりも辛いことなのに・・・
 「ルフィ、いい加減になさい。サンジ君を困らせちゃ駄目よ」
 ナミさんが見かねて俺に助け船を出してくれる。
 さすがのルフィもナミさんの言葉には逆らえないのか、しゅんとして下を向いてしまった。
 「ルフィ、これ食え」
 ルフィの隣に座っていたゾロが、言葉少なに皿を押しやる。ほとんど手を付けていなかったようで、まだ料理が温かいままのっている。
 「良いのか、ゾロ!!」
 ルフィがバッと顔をあげて嬉しそうにゾロを見る。
 「ちょ、ちょっと待てよ、お前ら!それはクソ剣士の分だろ!こっちが考えて配分した物を、勝手にやったりするんじゃねぇよ!」
 俺は慌てて言い募る。
 当たり前のように自分の分の食い物を船長に譲ろうとするゾロに、何故か腹が立った。そしてそれを当たり前のように受け取ろうとするルフィにも。
 これは今日に限ったことではないのだ。
 昨日もそうだった。確かその前も・・・
 ルフィが欲しいという物を、何の未練も無いかのように、躊躇無く差し出すゾロ。
 腹が減っていないはずがないのに。

 どうしてお前がそこまでする?
 どうして、だって?・・・そんなこと、答えは言われなくても分かっている。
 だからこそ余計に腹が立つのだ。

 「テメェは黙ってろ。俺が俺の取り分をどうしようと勝手だ」
 更に言葉を発しようとした俺を遮るかのように、ゾロは冷たく言い放った。
 口を挟む隙も与えないかのような、残酷な言葉。
 和やかな雰囲気で食事が行われていたキッチンが、一瞬静まり返る。
 「・・・本当に良いのか?ゾロ」
 沈黙を破ったのはルフィの声。探るようにゾロを上目遣いで見上げる。
 「ああ、食えよ。俺は酒があればそれで良い」
 ゾロはあっさりと、しかし優しげに答えた。まとっていた冷たい気配は、一転して柔らかい雰囲気のそれに変わる。
 ルフィはニカッと笑うと、凄い勢いで皿にかじり付いた。
 急激な空気の変化に慣れていないビビちゃんとチョッパーは、少し気まずそうにこちらの様子を伺っている。
 ゾロとルフィの関係を知り尽くしているナミさんとウソップは、肩を竦めて溜息をついた。

 俺は・・・。
 何も言い返すことが出来ず、だた立ち尽くすのみだった。
 ルフィとゾロはそんな俺を気にする様子も見せず、楽しげに笑いあっている。
 俺はギュッと拳を握り、唇を噛みしめた。
 ひどく疎外感を覚えた。



 食事を終えた皆が出ていったキッチンで、俺は一人後かたづけに追われていた。
 頭が真っ白なままだ。
 俺に向けられたゾロの冷たい表情と、あいつがルフィへ向けた穏やかな笑顔とが、綯い交ぜになって俺の脳裏にちらついた。

 先程からずっと耳鳴りが止まない。
 頭が痛い。


 と、急にキッチンのドアが開く音が、耳鳴りに混じって飛び込んできた。
 そこにいたのはゾロ。
 振り向いたまま、動きの止まってしまった俺を気にするでもなく、テーブルについて酒の瓶を傾けている。
 その視線がゆっくりと俺に向けられようとしたのを見て、俺は慌てて中断していた洗い物の仕事に戻る。背中にゾロの視線を受けて、何故だか俺は冷や汗を流した。
 どうしてまた此処に来たりしたんだ。
 俺を笑いにでも来たのか。
 俺は居たたまれなくなって、言うつもりもなかった言葉を投げかける。
 「テメェ、さっきのあの態度は何だよ。いくらキャプテンが大事だからって、俺の食事配分予定を狂わせるんじゃねぇよ。」
 言いながら自分でも声が震えているのが分かった。
 こんな俺をゾロに気付かれるのは、堪らなく嫌なのに・・・
 
 少しの間をおいて、ゾロが口を開く。
 「同じ事を二度も言わせるな。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
 俺にとっては永遠とも思えた僅かな沈黙を破って発せられた言葉は、再び俺に頭から冷水をぶちまけられたかのような、ショックを与える。
 畜生!言うんじゃなかった。
 俺はひどく情けない気持ちになった。
 この場から、ゾロの前から逃げ出してしまいたい。
 ゾロの一言一言に、これほどまでに影響を受けてしまう自分が悔しくて堪らなかった。

 「それに・・・」
 再びゾロの低い声が聞こえてきた。
 それに?・・・まだ何か言うつもりか?
 やめろ!
 もうこれ以上、俺を追いつめないでくれ!


 「・・・お前だって、最近食ってねぇんだろ?」
 フッとゾロの口調が柔らかなものに変わる。
 「え?」
 俺は一瞬何を言われたのか分からなくて、思わず後ろを振り返った。
 その瞬間、ゾロと俺の視線が絡み合う。
 ゾロは少し照れくさそうにそっぽを向いた。

 いま・・・何て言った?
 このところ俺が飯を食ってないってこと・・・なんでゾロが知ってるんだ?
 誰にも言っていないはずだ。
 皆には先に食べた、と言って・・・
 「見てりゃわかるよ、ばーか。プライドの高いお前が、いかにもやりそうなことだ」
 俺の顔に書いていた疑問符が伝わったのか、ゾロはニヤリと笑った。
 ゾロに、気付かれていた?
 俺のコックとしてのプライド。皆を飢えさせるくらいなら、俺は何も食わねぇ、という馬鹿みたいな意地。
 コイツには知られていた?
 「この船ン中じゃ、テメェが一番働いてんだからよ。ちゃんと食うモンは食いやがれ。いつか倒れちまうぜ」
 仕方ないな、という風な笑顔を向けられた。それはゾロがいつもルフィに見せているのと同じ笑顔。
 今、それが俺に向けられている。
 ゾロが俺を・・・


 ドクン、と心臓が荒く脈打つのが聞こえたような気がした。
 ああ・・・これが、長い間目を背けてきた答え。
 本当は少なからず気付いていたのだ。
 俺はこの無愛想で無神経なクソ剣豪に、どうしようもなく惚れちまってる、ということに・・・
 でもこいつの心には既に住みついている男がいて・・・
 ルフィとゾロの間に、入り込める隙間は全くない、ということは既に思い知らされていて・・・

 畜生・・・
 こんな感情・・・気付きたくなかった。
 気付いてしまっても、結局俺にはどうすることもできないのだ。
 それならばいっそ、知らないままの方が良かった。



 甲高い音が鳴り響いている。
 頭が痛い。
 苦しい。
 誰か・・・この警笛を止めてくれ。


 耳の奥で鳴り響く、この警笛を・・・



  END


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 以上、初めて書いたサンゾロSSでした。何処が!?(がぼーーん!)
 はい、言い直しましょう。ルゾロ前提のサンジ→ゾロSSでした(笑)
ルゾロ前提、というところがいかにもアタシという感じですが、
サンジ君はなんにせよ片思いが似合うので、これはこれでアリかな、と。
 元々は、自分の食べ物をルフィに譲っちゃうゾロ、というのがやりたかったんです。
それで、どうせならサンジも絡めちゃえ〜vと思って書き始めたモノでした。
ほら、ゾロはやっぱり船長命だから!(笑)
 あと、サンジ君が食糧危機の中では自分は作るだけで食べない、
というのも書きたかったことです。
コックとして、皆を飢えさせることが何よりの苦痛だろうから。
サンジ君ってホントに食糧なくなったら自分の肉そぎ落としてまで、
食わせてやろうとすると思いませんか?
え?そぎ落とすような肉付いてない?って(笑)そりゃごもっとも(爆)
過去のトラウマもあって、食糧不足と言う事態には、
物凄く神経質になりそうな気がするのです・・・
これはサンジ受け派の友人と話していた事なのですが・・・(汗)
 わわ!怖い話で締めてしまった(滝汗)



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