同居人 〜ずっと二人で〜



「11月11日は絶対休み取れよ!?」

 そう、ずっと前から強く言い聞かされてきたから、ルフィの言いつけ通り、何とかやりくりしてその日は予定を空けた。
 引越し、コンビニ、家庭教師・・・今や三つの定番バイトをかけ持ちしているゾロにとって、完全フリーの日を作るのは結構難しい。それに、その日は一応大学の講義も入っている。
 しかし、自分だって大事な語学の授業が入っているのに休むのだから、ゾロだって1日くらい平気なはずだ!と、無理矢理な論理でねじ伏せられてしまった。
 実際、ルフィはその日休むためにと、それまではずっとサボらず真面目に出席していたようである。
 だから、ゾロも代返の手配だけは念の為にしておいた。

 ルフィがその日にこだわる訳は解っていた。
 11月11日。
 それは、ゾロの21歳の誕生日なのだ。



 普段どちらかというと寝起きの悪いルフィが、その日はほぼ目覚ましが鳴ると同時にムクッと起きた。
 そして、隣でまだぐっすり眠っているゾロをちょっと乱暴に起こしにかかる。
「ゾロ!朝だ!起きろよ!!」
 耳元で怒鳴られた上に肩をグイグイと揺らされたら、いくら寝汚いゾロと言えどもさすがに目を覚ます。
「何だよ・・・まだ外は暗いじゃねェか・・・」
 ぼやけた眼で時計を確認するが、まだ朝の六時前だった。
「早く起きる方がいっぱい一緒に居られるだろ!?」
 いいから起きろ!と、今度は布団を引っぺがされて、ゾロは仕方なく身体を起こす。隣で寝てるんだから、起きなくても一緒に居ることには違いないだろう、などと思いながら。
 ルフィはこのところよくこうして、ゾロの布団に潜り込んで来る。夜中、トイレに起きたついでにこっそり忍び込んできたのか、朝起きたら横に居た、なんてこともあった。
 随分、そばにくっつかれるのにも慣れてしまったものだ。

 慌しく準備して、二人はようやく空が明るくなり始めた頃に家を出た。
 これから何処へ行くのか、ルフィは何も言わないから、ゾロは知らないままだ。
 しかし黙って付いて行く間に、新幹線も止まるような大きな駅に連れて来られ、そこで「はい」と、特急券を渡されたところで、さすがのゾロも一言問うた。
「これに、乗るのか?」
「おう」
 見れば、いくつも先の県へ行く切符ではないか。
「どこ連れてく気だよ」
「まぁ、任せろって」
 にししっと、悪戯っ子のような笑みを浮かべるルフィに、ゾロは溜息を吐く。
 まぁいい。
 どうせ、ルフィが行く所なら、何処へでも付いて行くと決めているのだから。


 乗客もまばらな特急列車で三時間ほど揺られ、その後単線の私鉄に乗り換えたら、とある辺鄙な駅に着いた。
 終点の二個手前くらいの寂れた駅で、そこで降りた客はルフィとゾロの二人だけだった。
 しかしそこに降り立った瞬間、ルフィがこんな所へ連れてきた真の目的を知る。
「綺麗だろ。子供の頃に来たことがあるんだ」
 目の前の景色をただ呆然と見つめるゾロに、ルフィが得意げに言った。
 確かに、『綺麗』だった。そうとしか言いようがない。
 そこは完全に、『赤』と『黄』の世界だったのだ。
 鮮やかな色彩に染まった木々が、一面に広がっている。
「ああ、凄いな・・・」
 自分達の住んでいるところは、まだ紅葉には時期が早い。けれど、いくらか北に位置する此処は、今がまさに紅葉狩りの旬だった。
 とはいえ、こんな辺鄙な場所では、訪れる人も少ないだろう。

 踏むのも惜しまれるような美しい落ち葉が、道を一面に覆っている。
 まだあまり踏み荒らされていないその絨毯の上を、二人は手を繋ぎながらゆっくりと進んだ。
 すれ違う人はなく、まばらだった民家もそのうち見えなくなる。
 そこはあまりにも静かで、幻想的で、まるでこの世界には自分達以外には、他に誰も存在しないのではないかと、錯覚するほどだった。
「金で買えねェモンをプレゼントしたかったんだ」
 ルフィが前を見つめたまま言ったのに、ゾロも穏やかな声で返す。
「ああ・・・スゲェ嬉しい。ありがとう」

 そしてまた、静寂が落ちる。
 この、沈黙さえも酷く愛おしかった。

 そうして、何も言葉を交わすことなくしばらく歩き続けていた時、不意にルフィの足が止まった。
 ギュッと、繋ぐ手に力が篭められる。
「なぁ・・・ずっと一緒に、居ような」
 囁くように。
 だが、強く言い聞かせるように、ルフィは言葉をつなぐ。
「離れても、一緒に居よう」
 きっとそれは。
 この先何かがあって、二人の居る場所が少し離れてしまったとしても、心はずっと共に在り続けよう、と。
 そういう意味だったのだろう。

 だからゾロは、素直に「ああ」と答えた後、こう続ける。
 でも・・・な。
「離さねェよ」
 そして、ルフィの身体を強く抱き締めた。
 離さない。
 一生、離してやるもんか。
 もうこの体温を知らない頃の自分には、戻れないのだから。

「・・・うん。おれも」
 泣きそうな、けれど幸せに満ちた顔で、ルフィもゾロを抱き返す。


 二人きりの静かな空間で、彼らは抱き合い、口付け合った。
風に舞い上がる赤や黄の木の葉が、二人を優しく包み込む。
 世間の雑踏から切り離されて。
 この世界でならば、他の全てを忘れることができた。
 ルフィはゾロを、ゾロはルフィだけを見ていられる。
 今の、この瞬間だけでも。
 どうか何もかも捨てて、自分だけを見て欲しい。

「ゾロ・・・愛してる」
「俺もだ、ルフィ」
 二人の想いは同じなのだと知って、どちらからともなく笑みが洩れる。
 こんなにも、自分達は相手しか見えていない。
 それを確かめることができただけでも、今は満足だった。

「行こう、ゾロ!」
「ああ」
 二人はまた手を取り合って、紅葉のトンネルを歩み始めた。

 別に今、立ち止まる必要はない。
 この道は、まだ始まったばかりなのだから。







長かった『同居人』シリーズも、これにて遂に完結です!
最後までルゾロなんだかゾロルなんだか、微妙なお話でしたが
お付き合い戴きました皆様に、感謝いたします!
本当にありがとうございました!

さ〜〜これでまた新しいシリーズを始められるわ〜〜(笑)