デビル


「・・・何だ、こりゃあ・・・」
 甲板に立ったゾロの、第一声がそれだった。
 何故なら、そこには人相の悪い見知らぬ連中が、数え切れないほど居たからだ。
 ただし、彼ら全員が顔を腫らして甲板にぶっ倒れている。中には、首の骨が折れているのか、ビクビクと痙攣している者もいた。
 おそらく、このうちの半分はすでに息絶えているだろう。
 血生臭い雰囲気の似合わないG・M号は、今まさに『地獄』と化していた。
 とにかく、この地獄の何処かに、船長がいるはずなのだ。探さなければならない。


 久しぶりに島に着いたその日は、船長のルフィを船番にして、皆で買い出しに出たのだ。
 停泊した港はかなり発展していて賑わった感じの街だった。とはいえ、どう見ても同業者といった雰囲気の船が多く寄航していたから、船を空にするわけにいかなかった。
 さてここで、誰が船番をするか、という話になる。
 いつもなら真っ先に街へ走っていくルフィが、今日だけはそわそわした素振りも見せず、軽く「ああ、おれが残るよ」と言った。
 皆驚いてルフィを見たが、別に何か悪巧み――食糧を根こそぎ食うとか、そういう話だ――をしている風でもなかったし。
 何よりルフィの瞳が、否とは言わせない威圧感を帯びていたから、皆素直に従ったのだ。
 ルフィは、この事態を予測していたのだろうか。
 この船が、何者かに襲われるということを。
 彼がその襲撃者によって危機に晒されているなんて、ゾロは微塵も不安を感じたりはしなかったけど、でも歯噛みしてしまう。
 それは、俺の役目だから、船長は手を汚す必要なんかないのに、と。
 一番に戻ったのが自分で良かったと、ゾロはこの時心底そう思った。

 目的の人物は、すぐに見つかった。
 垂れ流しになっている気を辿れば、容易なことだ。
 船前方の格納庫に、ルフィは居た。見知らぬ男達数人と一緒に。
 奥でふんぞり返っているルフィ以外は、皆床に血塗れで転がった状態だった。
「・・・おいルフィ、こいつら誰だ?」
「いや、それはおれのセリフだ」
 顔を顰めて問うたゾロに、ルフィは逆に質問を投げかけてくる。
 そんなことを聞かれても、ゾロは何があったのかも解っていない状態なのに。
 しかし、転がっていた男達はゾロの顔を見るやいなや、慌てて起き上がってこんなことを言った。
「ロロノア・ゾロ!?たす、助けてくれェ!」
 助けてくれと言われても、一体何から?
 馬鹿じゃねェのかこいつらは・・・と、ゾロはすっかり呆れ返ってしまった。
「やっぱりゾロ、こいつらと知り合いなんだろ?」
「・・・知らねェよ」
「あれ〜?おっかしいな〜〜どういうことだ?」
 ルフィは一番近くにいた男の髪を掴んで、上を向かせる。
 能天気そうな口調の中にも、ちゃんと説明しろという『命令』の色を滲ませて。
「ヒッ!オ、オレはお頭の仇を取ろうとッ・・・だけどもう止めた!改心したからッ、だから、見逃してくれェ!」
「だってサ。海賊狩り時代の獲物だろ?」
 船からルフィ以外の人間が居なくなって暫く経った時、突然海賊と名乗る男達がG・M号に乗り込んできたのだ。
 ロロノア・ゾロへの復讐だと宣言して。
 ルフィは解っていて、ゾロに聞かせるために説明をさせた。
「おれを人質にしてお前に仕返しするつもりだったかな?」
 刹那。
 バシュッ!と。
 肉の裂ける音がして、一人の首が落ちた。
 ゾロだ。
 ゾロが、抜いた刀を振るったのだ。
 真っ赤な鮮血が噴水のように一気に噴き出し、首を失った身体はその場にくず折れる。
「ひ、ひぃぃ〜〜!!」
 それを目の当たりにした男達が、情けない悲鳴を上げた。
 一方、ルフィは赤いシャワーを浴びながら満足そうな笑みを浮かべる。
「そうだな、ゾロ。一人残らず殺しといた方がイイ。後で面倒なことになるからな」
「や、やめてくれっ!勘弁してくれェっ!!」
 ゾロは容赦しなかった。
 そうだ。こいつらはここで全員殺しておかなければならない。
 こんな馬鹿げたことが、二度と起こらぬように。
 海賊狩りだった頃は、こんな恨みを抱かせるようなことを、もう嫌と言うほどしてきたゾロだ。
 けれど、そんな過去がこの船を脅かすのならば、自分は『鬼』にでもなろう。
 逆上して掴みかかって来た者も、這って逃げようとする者も、ゾロは皆一様に切り捨てた。
 情けなど、そこには存在しない。

 断末魔の悲鳴を上げ、次々と絶命していく肉塊を冷ややかに見下ろしながら、ゾロは思った。
 無知で、救えねェ馬鹿どもだ、と。
 この俺に復讐するために、アイツを盾に取ろうとするなんて。
 あの童顔に騙されたな。
 天使のような眩しい笑顔の裏側は、猛獣さえも跪かせる最凶の悪魔だ。
 俺なんかより、ずっと残酷だぜ。
 俺だけを狙ってきたならば、もっと別の未来があっただろうに。
 これは、あいつの本性を知らなかった、お前らの無知が招いた結末だ。
 そして、俺の唯一の男を盾に取ろうとした、お前らへの罰―――だ。


 甲板に残っていた者も全ての息の根を止めると、船上は血生臭さで満ちた。
 わざと、血が大量に出るような斬り方をしたからだ。
 後で掃除が大変だとか、ナミやウソップ辺りにハデにどやされるだろうとか、そんな考えは何処かへ追いやってしまった。
 船長が、それを望んだからだ。
 剣士にとっては、無言の『船長命令』こそが、第一優先事項だ。
 生温かい生き血を浴びたゾロの身体に、背後からルフィの手が絡みついてきた。
 真っ赤に染まった互いを寄せ合い、肌に飛んだ血糊を塗り伸ばす。
「たまに・・・すげェ血を浴びたいって思うことがあるんだ」
 ルフィが、場にそぐわないほどの穏やかな声で、言った。
「おれも、剣を覚えようかな」
 剣は良い。
 一閃するだけで、真っ赤な体液がたくさん飛び出してくる。
 とても、爽快だ。
 ゾロはそんなルフィの台詞に、真面目に返した。「やめとけ」と。
「・・・俺が、隣でいくらでも振るってやる。お前が望むだけ・・・」
 だから、そんなもの、お前には必要ない、と。
 ルフィはもちろん本気で言ったわけではなかったから、素直に「それじゃあまぁいいか」と笑う。
 そして、代わりとばかりに、ゾロの唇を貪った。

 甘くて濃厚なゾロを味わいながら。
 そうだな。
 こっちで満足できるうちは我慢しよう。
 そう、ルフィは思った。



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イタタ・・・(汗)
痛いモン書くのはやめようっつった直後にこんなモン書いてるし(汗)
えっと、これは同人界ではお約束な『大事なアイツを盾に取られたら』という
シチュエーションをルゾロに当てはめて生まれたものです。
ゾロへの見せしめにルフィを捕らえようとしたら、
捕らえることすらできませんでした、テヘ。
と、まぁそんな話です(笑)
時々タガが外れたように凶暴なルフィって、好きなんだけど・・・
ダメかな?(苦笑)
これの逆バージョン(ルフィへの見せしめにゾロ捕らわれる)も考えております。
近々納入予定です。



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