神様のココア



 ゾロが風邪を引いた。
 なんと、あのゾロがである。
 しかし、何も不思議な事なぞない。
 この初冬の寒空に、凍えてマンションに帰りついたところを、風呂に湯が溜まるまでと、脱衣所でコトに及んだ後、湯船に浸かるのもそこそこに、シャワーの下で更に3ラウンド。その上、のぼせた脳を冷まそうと出たバルコニーで2ラウンド。そのままうっかり眠ってしまって・・・
 真夜中、ルフィが目を覚ましてようやく部屋のベッドに潜り込んだ時には、ゾロの身体は触れるまでもなく判るほどの熱を帯び、その身をぐったりとさせていた。

 ゾロは国体の剣道部門で大学から代表選手に選ばれ、昨日の試合当日までずっと合宿のために家を空けていた。
 「ゾロの夢のためだ」と我慢して大人しく留守番していたルフィだが、試合で疲れているであろうゾロを労わってやろうという当初の思いも忘れて、ちょっと・・・いや、かなり無理をさせてしまった。
 「ごめんな、ゾロ・・・」
 ベッドに沈んで熱い息を吐くゾロに、ルフィはとりあえず謝るしかない。
 ゾロはというと、無茶をされたことについては反省して欲しいと思いつつも、やっぱり自分もルフィが欲しかったのは同じだから。
 「いい、気にすんな。この程度で熱出しちまう俺も悪ィ」
 少し口の端を吊り上げて、そんな風に微笑った。
 「ゾロ、きっと疲れが溜まってたんだよ。ずっと練習でも無理してきたんだろ?」
 当然、大会では全て二本先取で勝利を収め、文句なしの優勝である。
 しかし生真面目なゾロは、そんな結果が見えていたとしても鍛錬には全く手を抜かない。そんな熱心な努力が強さに結びついていることも確かではあるのだが。
 「当分は休みも貰ってる。とりあえずゆっくり寝ればすぐ治るさ」
 それだけ言うと、ゾロはそっと目を閉じる。
 あっと言う間に眠りに落ちてしまったゾロを見取ると、ルフィは邪魔をしないようにこっそりと部屋を出た。


  ※

 「ゾロ」
 囁くような小さな声で呼ばれるのに、ゾロはゆっくりと目蓋を上げた。
 「ル、フィ・・・?」
 「うん、もう8時間も眠りっぱなし。寝顔見てんのも飽きた」
 そう頬を膨らませるのに、ゾロはぷっと吹き出しそうになる。
 「笑うなよゾロ・・・寂しかったんだ」
 「ああ、悪い」
 そういえば、締め切ったカーテンの隙間から、茜色の光が漏れている。もう、そんな時間なのか。
 「なぁ、コレ飲めよ。さっき淹れたところだから、まだ暖かいぞ?」
 そう言ってルフィがゾロに差し出したのは、薄緑のマグカップ。中には湯気を立てた、こげ茶色の液体が入っている。
 「ココアだ」
 ルフィが好きで、よく朝食に飲んでいるヤツだ。
 それが、喉に絡みつくような甘さであることを、ゾロは知っている。
 けれど、用意してくれたルフィの気持ちが嬉しかったから。
 「・・・そうか、ありがとう」
 と言って、素直に受け取った。
 身体を起こして、両手で持ったマグカップを覗き込む。温度としては、ちょうど飲み頃のようだ。
 「大丈夫だぞ、あんまり甘くねェように、ちょっと薄めに淹れたから」
 甘いのが苦手なゾロの好みを知っているルフィは、そう付け加えて安心して飲むように促す。
 「ココアはな、何処の国だったか忘れたけど・・・『神様の飲物』って言われててサ。栄養たっぷりのパーフェクトドリンクなんだぞ?」
 前に買ったココア缶に、そんなことが書かれていた。記憶を辿って、ルフィは得意げに話して聞かせる。
 美味いぞ?と笑うルフィに誘われて、ゾロはそっとマグカップに口を付けた。ズズズっと啜ると、口の中に暖かいココアの香りが広がる。
 ゾロを気遣って必要以上に薄くなったココアは、お世辞にも美味いとは言えなくて、ゾロはまた可笑しくて吹き出してしまった。
 「なんだよ、ゾロ。何かおかしいか?」
 眉を顰めるルフィに、飲んでみろよとマグカップを差し出す。
 訝しげな視線を送りつつ、口をつけたルフィの表情が、見る見るうちにしかめっ面に変わっていくのを見て、ゾロはまた肩を揺らして笑った。
 「うえ〜〜薄〜〜マズイ〜〜〜」
 「はははは!」
 「笑うなよゾロォ〜〜!」
 薄いココアほど不味いものはないとルフィは思いつつも、そんな風に大笑いされると、なんだか腹が立つ。
 「全部、飲ませてやる!」
 ルフィはぐぐぐっとその薄いココアを呷ると、ゾロに唇を押しつけた。
 「んんっ!?」
 突然両手で顔を押さえつけられて、口付けられるのに、ゾロは驚いて目を見開く。ぴったりと合わされたルフィの唇から、液体が流し込まれる。
 ココアが、口内にゆっくりと広がっていき。コクリと、ゾロの喉が鳴った。

 「・・・ばか、こんなことして・・・伝染ったらどうする」
 含んでいたココアを全て移し終えると、ゾロの困ったような視線とかち合う。ルフィはそれに微笑んで返して。
 「おれが風邪引いたら、今度はゾロがおれにココア飲ませて?」
 そんな怖いものなしのルフィに、少し呆れつつも、そんなところが非常に彼らしいと思う。
 まぁ、病気知らずのルフィのことだ。これくらいで風邪の菌をもらうなんてことは、万が一にもあるまい。そして、それは自分にも多分当てはまる。
 だからゾロも、それにニッと笑い返した。
 「了解」
 話がまとまったところで、再び唇を塞がれる。
 また、サラリとしたココアが流し込まれる。
 ルフィの口移しで飲まされるそれは、さっき飲んだよりもずっと甘く感じられて。
 ゾロはその蕩けるような甘さをもっとよく味わおうと、覆い被さってくるルフィの首に、腕を回した。




  <FIN>



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非常に寒かった冬のある日、突発的に書いたSSです。
この日、あんまり寒くてたまらないので、
朝会社に来て最初に購入したのは、ホットのココアでした。
「甘さ控え目」と書いてあるので、甘いのがダメなアタシでも多分大丈夫だろうと思って
飲んでみたら、やっぱりかなり甘かった(笑)
で、その缶に「ココアは神様の飲物」とか書いてあって
一気に妄想が膨らんで出来上がった突発SSがこれでした(笑)
たまに、自分の逞しい妄想力が空恐ろしくなることがあります。。。(遠い目)



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