ムチ打ち症 【ホーム】【戻る


   ●症例  ●考察

<症例>
 患 者、38才女性自営業の事務(不動産)
 初 診、4月13日
 主 訴、左顔面の腫脹痕痛と後頚部の痛み
 現 病、2週間前にバイクに乗っていてワゴン車と出会い頭に衝突し左顔面を強打(ワゴンの前の右角にぶっかる)、横転して手足にも軽い打撲を受ける。この時、意識はしっかりしていたが、気が動転してどんな状況だったかよく覚えていないという。すぐに救急車で病院に運ばれ手当を受け、全治2週間と診断され帰宅。2、3日すると左後頚部から肩背部にかけて凝り痛みが出てきて、また左顔面も紫色に腫れ上がり眼も充血してきたという。通院して手当てを受けるも一向によく成らず来院。尚、鍼灸は始めてとのこと。
 既 往、以前に2、3回ぎっくり腰をやり、それ以来疲れてくると腰が痛くなるというが、生来丈夫である。
 望 診、中肉中背、尺部の色は黄色味をおびた白。
 聞 診、やや低い声で静に話す。
 問 診、事故以来、腰が少し痛み、よく眠れず、食欲もあまりないという。便通は正常。また、仕事上接客するので仕方無くサングラスを掛けているという。
 切 診、左顔面部では、眼の下から頬にかけて(胃経の承泣・四白、巨膠)紫色に腫れ上がっていて細絡が児られる。顎には三針の裂傷、眼は赤く充血している。欠盆を中心としたナソ部は左にゴム粘上様所見。頚肩部では天柱・左風池・肩井・膏盲に凝り所見、腰部では腎愈・志室に圧痛、硬結がある。その他左の手足に数箇所軽い打撲。
 脉 診、脉状はやや浮、数にして実。比較脉診では肺最も虚、大腸ややあり。脾虚、胃実。三焦実。肝実。他は平。
 腹 診、皮膚は全体的には張りと艶があるが、肺と脾の診所共にやや陥下して力なく虚、肝の診所、按圧すると深部に硬結を触れ、鈍い痛みがあり実。
 弁 別、頚肩部の凝り痛みは肺金、食欲がない、よく眠れない脾土、顔面の腫れ痛みは胃、目の充血、腰痛は肝木の変動。
 証決定、以上のことより肺虚肝実証、適応は右とした。
 治療方針及び予後、本症は交通事故による打撲とムチ打ち様症状が主であるが、比較的新しいのと、患者は実体であり、年齢もまあ若いほうなので、本治法により治癒力を高め、補助療法を適宜用いたならば、比較的短期間に治癒に導けるものと思わる。
 本治法、金寸3-3番鍼で右太淵、太白に補法、ステン1寸2番鍼にて左太衝に補中の瀉法。陽経では左偏歴、豐隆、外関に枯に応ずる補中の瀉法。
 検脉すると浮脈は沈み、数も収まり陰陽の釣り合いの取れた脉になる。
 標治法、左顔面の腫れ痛みは胃経とみて、子午治療(胃一心包として右内関に金30番鍼)を行う。腹部の中脘、天枢、関元に補鍼。ナソ部のゴム粘土様所見に対して、左に3ヶ所、右に1ヶ所、静かに接触し、鍼尖がすべりこんだならば指先を締めて抜鍼、するという手法を行い、左右のバランスを整える。左頬部の
腫れの周囲に数ヶ所潟的接触鍼、左攅竹・眉中・糸竹空に気を流すように接触鍼を行い、仰臥位で頚肩部の左天柱・風池肩井・天膠に2〜3ミリの潟法、右天柱・肩井・膏肯に1〜2ミリの補鍼、腰部では腎愈・志室・大腸愈に1〜2ミリの補鍼、続いてに天柱・左風池・膏肓・手三里に3分の1米粒大で3壮灸をすえ、最後に検脉し確認して1回目の治療を終了。
 2回目、4月14日
 ぐっすりと眠れ、身体が楽になったという。
 本治法、標治法ともほぼ前回同様に行い、細絡に対して1ヶ所、手持ち三稜鍼にて点状刺絡を行う。
 3回目、4月15日
 標治法で前回に加え腎愈と足三里に3壮灸をすえる。
 4回目、4月17日
 左頬部の腫れのうち紫色と細絡は消失、眼の充血、頚肩部の凝り痛み症状、腰痛も軽減。
 本治法は肺虚肝和法に変わり、右太淵・太白に補法、左太衝に和法、陽経では左偏歴・豊隆に枯に応じる補中の瀉法を行う。子午と刺絡は中止、以下前回に同じ。
 6回目、4月21日
 眼の充血が無くなり、左頬部の腫れも小さくなる。また腰痛もなくなったという。
 本治法は肺肝相剋に変わり、右太淵・太白・左太衝に補法、陽経では左豊隆に補中の瀉法。標治法ではナソ治療と頚肩背部に適宜散鍼を行い、天柱・天膠・膏肓・手足三里・腎兪に灸を3〜5壮すえる。
9回目:5月2日
 左頬部の腫れ、ムチウチ様症状とも殆ど無くなり、サングラスをしなくてもすむようになったとのこと。
 治療は前回にほぼ同じ。今回を以て治癒とする。
<考察>
 交通事故の場合、ムチ打ち症に限っても、その殆どがまず最初に病院にいき手当を受ける。そして多くの患者は中々治らないにも関わらず長期間通院している。また後遺症に苦しんでいる人も多い、咋今は鍼灸が見直され、その中の一部の患者が我々の治療室を訪れるようになったとは言え、それもしばらくして、或いは、かなり経過した後のことで、その為慢性化し治癒までにかなりの時間を要するのが現状である。
 本症が比較的短期間に治癒したのは、事故後2週間ほどで来院したこと、割と軽傷であったこと、患者がまだ若く実体であること、また治療に於いては補鴻を使い分け、浅鍼に徹したこと(本治法での金鍼による補法は接触鍼)、補助療法の子午、刺絡治療を活用したこと等が効を奏したものと思,われる。尚、鍼灸が初めてというには、用鍼もやや太く、またドゼも少し多いように思えたが、膚の艶、脉状等からみて患者は実体であり、生来丈夫であるのでこの程度が適当であると判断した。


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