50歳前後に、肩の関節が痛み、次第に動きが悪くなってくることがあります。
四十肩とか、五十肩とか呼ばれていますが、医学的には、肩関節周囲炎といいます。
原因ははっきりしませんが、多くは老化によって、関節の周囲の組織が変化し炎症が生じたり、肩を挙げる筋肉や、靭帯などの血流障害によって起こると言われます。急に冷えたり、ぶつかったりしたことが誘因となって起こる事もあります。
五十肩の症状は半年から、長くて2年くらい続く事もあります。痛みは肩を中心として上腕、頸のあたりまで人様々です。 はじめは、肩を動かすと痛い程度で症状は軽いのですが、痛みのため、夜眠れなかったり、肩が挙がらず、日常生活に支障をきたすケースも多々あります。その後は徐々に症状が軽くなり、肩も動くようになります。
鍼灸治療は、五十肩の症状の緩和をはかり、回復を早める効果があります。鍼灸の保険治療の対象にもなっています。
予防としてはからだを十分に動かして、関節を柔軟に保つことです。入浴で温まったあとなどに運動を行うのが効果的です。
<症例1>
患 者、60才、材木商
初 診、7月17日
主 訴、右肩(自発痛、挙不可)と右肘の痛み
現 病、重いはり材の両端を息子と持ち、運んでいて、それを下ろそうとした時によろけて、肩に衝撃が走ったと言う。すぐに放せばよかったが、そうすると息子が怪我をすると思い、ぐっと堪えたところ痛くなったという。
望 診、168cm、61kg、わりと筋肉質。
問 診、仕事柄、時々腰痛、生来丈夫。
切 診、ナソ部は生ゴム様所見があり、肩では肩髃、肩髎に著名な圧痛、肘は尺沢付近に強い痛みあり。
脉 診、脉状は浮、数、実、比較脉診では肝、腎虚、大腸実。
腹 診、肝の診所ざらつきあり虚。
弁 別、痛みは腱の炎症とみて肝の変動。また肩髃付近の痛みは大腸の変動。
証決定、以上のことより肝虚証、適応は左。
本治法、銀鍼で左曲泉、陰谷に補法、検脉すると大腸経に虚性の邪が触れたので、コバルト鍼にて右偏歴に枯に応じる補中の瀉法。
標治法、腹部の中脘、天枢、関元に補鍼。ナソ部の処置。右肩周辺の虚の所見に対し浅く補鍼を数ヶ所、痛みは大腸経とみて左大鍾に金30番で子午。気を巡らす目的で適宜散鍼。座位で肩髃、天髎、膏肓、曲池にゴマ灸3壮、確認の検脉をして終了。
3回目、7月19日、やや軽減
4回目、7月21日、急性の強い痛みはとれたが、動作痛あり。
6回目、7月26日、動作痛軽減し挙上可。通常の仕事に復帰。
7回目、8月1日、動作痛なくなり、全治。
<症例2>
患 者、57才、型枠大工
初 診、11月6日
主 訴、右肩挙上痛(前挙時)
現 病、3週間前に右肩を打撲、その後、前挙すると痛みが出るようになったという。
望 診、165cm、64kg、筋肉質。
問 診、鍼灸は初めて。頸から肩にかけて凝り、仕事柄、時々腰痛。
既 往、5年前に両足首骨折。
切 診、ナソ部はゴム粘土様所見があり、後頸部から肩甲間部にかけて強い凝り所見。肩では三角筋下部の臂臑付近に違和感あり。腰部に疲労の色、足関節は変形がみられ余り動かない。
脉 診、脉状は浮、数、虚、比較脉診では肺、脾の虚、大腸実。
腹 診、肺の診所ざらつきあり虚。
弁 別、肩こり、前挙痛は肺の変動。また臂臑付近の違和感は大腸の変動。
証決定、以上のことより肺虚証、適応は左。
本治法、銀鍼で左大淵、太白に補法、検脉すると大腸経に虚性の邪が触れたので、コバルト鍼にて右偏歴に枯に応じる補中の瀉法。
標治法、腹部の中脘、天枢、関元に補鍼。ナソ部ムノ部の処置。右肩周辺の虚の所見に対し浅く補鍼を数ヶ所。気を巡らす目的で適宜散鍼。天髎、膏肓、手三里、腎兪、右天宗にゴマ灸3壮、確認の検脉をして終了。
3回目、11月10日、症状軽減
5回目、11月15日、肩こりは軽減し、動作痛はなくなったので治癒。
<考察>
五十肩は老化の一つの現象で、原因がハッキリしないものが多いのすですが、今回の症例は外傷が原因とはっきりしていて、しかも新しいもの、病巣が浅いということもあり、比較的短期に治癒しましたが、一般には中々治らずに苦労するものもあります。
いずれにしても本治法により生命力を強化し、標治法に工夫をすれば、好い成績を上げられると思います。
治療のポイント
症状の本治法では証を確実に立てることはいうまでもないことですが、そのためには症状の弁別、切経、腹診、脉診を綿密に行う事が重要です。
標治法のポイント
1 患部にはけっして深く刺さない、また強い刺激は与えない。
2 ナソ所見を捉え、的確な処理をすれば非常によい効果が挙げられる。
3 灸は炎症を抑え、鎮痛に効果的である。
4 子午治療も経絡がはっきりしていて症状が実的な場合は効果がある。
5 中々治らない場合は右なら左に(巨刺)を行うのもよい。