五十肩という言葉は古くから用いられ、肩の痛み、動きのわるさを表現する用語として使われています。江戸時代後期の漢学者・太田全斎(1759〜1829)が編集した俗語集「俚言集覧」に記載があり、「凡、人五十歳ばかりの時、手腕、骨筋痛むこと有り、程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり、俗に之を五十腕とも五十肩ともいう」と述べられています。
誰でも知っている言葉にもかかわらず、五十肩の意味は必ずしも明確ではありません。この不明確さの原因はこの言葉が医学的な疾病を表すためにつくられた技術的な用語ではないからです。
現在、医学的に「五十肩」の同意語として、肩関節周囲炎、凍結肩(frozen
shoulder)、デュプレイ病(Duplay disease)、疼痛性肩拘縮(症)があります。このように五十肩には様々な見解があり、概念は一定ではありません。
*肩関節周囲炎には、肩の痛みと運動制限を主徴とする種々の疾患を含んだ概念であり、単一の疾患ではありません。その中には、腱板炎、肩峰下滑液包炎、石灰沈着性腱板炎、腱板断裂、上腕二頭筋腱炎、五十肩などが含まれています。
肩の関節は、上腕骨と肩甲骨で構成され、筋肉や腱板、靱帯が取り巻き、複雑な構造になっています。それそれの組織が円滑に動くことで、肩は前後左右大きく回すことが可能になっています。この肩関節にある滑液包や関節包という袋のなかには滑液という液体があり、関節の動きを滑らかにしたり、クッションの役創をしています。
<原因及び誘因>
肩関節は複雑な構造のために、周辺の組織は無理をすると傷みやすくなっていて、炎症をおこしたり肩の腱板などが傷ついたりして痛みが生じ発症します。
(1) 肩に突然衝撃が加わったり、外傷(ケガ)を受けて発症することがあります。
(2) 40代・50代になると、肩周辺の筋肉が衰えたり、血行が悪くなって、筋肉や鍵盤が傷つきやすくなることから起こります。
(3) そのほか日常生活の中でもちょっとした肩の動作で発症することがあります。 また五十肩の誘因となるものとして考えられるものには、過去に比較的大きな外傷をした場合、職業・スポーツによる使い過ぎによるもの、手術後やギプス固定などの安静によるもの、心因性障害や、糖尿病、高脂血症、心疾患、肺疾患、等の疾患によるものなどがあります。
一般的な考えとして、五十肩とは、中年以降の初老期の肩関節に起こり、肩関節周囲組織の変性を基盤として発生し、他の明らかな病因を求めることが出来ない、疼痛と可動域制限をきたす障害で、一定期間内に自然治癒するものとして理解されています。
<病状>
五十肩は一般的には体力の衰えを基として発症するという観点から、その潜在的な期間を考慮すれば慢性症と言う診方も出来ますが、表面に現れた症状から分類した場合、病状の経過により、3つに分けられています。
急性期 3つの期間の中でもっとも疼痛が強く現れます。動かした時の痛みとして、衣服の脱着、入浴(体や髪を洗う時)、大便の始末、高所のものを取る時などに困難を生じます。安静時の肩の痛みがあって、特に夜間に、血液循環障害により、症状が悪化し、睡眠障害をきたすことが多く、通常、患側(痛い側)を下にして眠ることはできません。 痛みは、一般に三角筋部にありますが、上腕の外側あるいは肘関節橈側に訴えることもあります。肩を動かすと痛みが強くなるため、この痛みにより肩の動きは著明に制限されます。(患者は痛みのため肩関節を内転内旋位におきます。)この期間は2〜9ヶ月続きます。
慢性期 この時期には疼痛は軽快しますが、運動制限(可動域制限)が著明となります。上肢を動かすために肩甲骨が代わりに動くようになり、大きな回旋運動は殆ど消失します。このため、結髪(髪をとかす)、結帯(エプロンのひもを結ぶ)などの動作が障害されます。運動時の痛みは肩の後面部や前面部に強く出ます。また、筋萎縮も出現することがあり、三角筋、棘下筋などに多く廃用性筋萎縮がおこります。この期間は4〜12ヶ月持続します。
回復期 関節可動域が改善する時期です。拘縮が自然に徐々に改善し、これに伴い疼痛や不快感が減少してきます。
完全に症状が消失するまでは、6〜9ヶ月かかることもあれば、もっと早いこともあり、必ずしも一定ではありません。 予防としてはからだを十分に動かして、関節を柔軟に保つことです。入浴で温まったあとなどに運動を行うのが効果的です。
東洋医学では、肩関節の痛みのことを、肩前臑痛、肩臂痛(けんぴつう)と呼んでいます。また、運動障害を伴うことから、肩不挙、肩臂不挙ともいいます。
上肢を巡る経絡は陰経では肺・心包・心経、陽経では大腸・三焦・小腸経があります。
経絡病証としてみた場合、筋の病変とみれば肝、関節面の津液や骨の病変とすれば腎、体重節痛とみれば脾の変動となります。
また前挙痛は肺、側挙痛は大腸、髪を梳かす時の痛みは三焦、後へ廻すと痛むは小腸の変動と診る事が出来ます。
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