頭痛 【ホーム】【戻る


    ●症例 1  ●症例 2  ●考察

 頭痛を東洋医学の観点からみると、
 鍼灸重宝記に「頭は諸陽経の首也、風寒の頭痛は鼻塞り、悪寒発熱す。湿は頭重し、食滯は額の正中痛む。左辺痛は気虚、右は血虚、夜痛み苦し、眉輪骨痛むは痰火なり。真頭痛は脳巓の底にとをり、痛み甚しく手足冷、臂と膝より上迄冷え上るは、半日に死す。」とある。
 頭は諸陽経のはじめ也とは、顔面を含む頭部には手足の六陽経が全部循っており、特に下肢の三陽経は頭部から始まって、頭部を循って下方に下っているとの意である。
 風寒の邪に侵された頭痛は、鼻水が出たり塞ったり、悪寒発熱する。
 *所謂、風邪引きのこと
 湿邪に侵された場合は、陰邪であるから頭が重い。食滯、即ち胃に食物が滯ってなる頭痛は、胃経が前額部を支配している為に頭の真中が痛むのである。
 左は気の主る所である為、左の頭痛は気虚であり、右は血の主る所であるから、右の頭痛は血虚である。これは夜特に痛みが激しい。
 眉輪骨とは、上眼窩縁の事で、その部が痛むのは痰火のためである。
 *痰は津液の滯り化してなるも、又熱により津液が化して痰となるとも云う。この痰が体に生じこれが気血の行りを障害することによりさまざまな患をなす。痰火とは痰による熱のこと。
 真頭痛とは、脳内が甚しく痛んで手足の冷えが肘や膝の上迄冷えのぼるものは命久しからずと云って重篤の症であり、くも膜下出血や脳膜炎等の時に起こる激症であって治し難い症である。こういうものは我々の所に来ることは滅多にないが、来た時は脳外科に行ってもらったほうが無難である。
 それに対しては厥頭痛といい、これは日常よくみられるもので比較的治し易い。
 さて、頭部には次の様に経絡が循っている。正中線には督脉が、その両傍には膀胱経が循り、側頭部には胆経が三転して後頭部に至っており、三焦経は耳の後から側頭部に上っており、胃経は耳の前から下関、頭維穴と経て督脉の神庭に至っている。
 従って痛む部位によってどの経が病んでいるかが分かる。前頭部から後頭部にかけての膀胱経上に痛みがある場合には、内傷としては腎虚証が最も多く、次いで脾虚証が多いが、外邪性のものでは、膀胱経の脉は実脉を呈していて腎虚陽実証、或いは肺虚膀胱、大腸の実の脉証を現わしている事が多い。
 側頭部の痛みは、胆経、三焦経、胃経何れかの変動であるが、そのうち胆経の病として扱う場合が最も多い。
 前頭部の痛みは、胃経の変動が最も多く、時には膀胱経の変動の場合もある。上眼窩縁の痛みは胆経或は膀胱経の変動として肝虚、或は腎虚の場合が最も多く、又後頭部の痛みも、胆経或は膀胱経の変動として、肝虚或は腎虚又は肺虚の場合もある。
 但し、随伴症によっては変動経が虚している場合もあれば、実している場合もあり、診断にあたっては、よくよく注意する必要がある。

 標治法
 *重宝記には百会、風池、風府、合谷、攅竹、曲池、腕骨、京骨、合骨、衝陽、風市、三里。頭重く鼻塞るには、百会に刺すべし。目眩き、頭のかわ腫るには前頂に刺す。項強り、悪寒せば、後頂に刺すべしとある。
 頭痛は何れの場合でも、天柱・風池附近の反応点に対する補鍼と側頚部、肩凝りを除く処置を忘れてはならない。
 子午治療も適応する事があり、後頚部から後頭部、頭頂部は膀胱経とみて肺経の絡穴・列欠。また側頭痛は胆経とみて心経の通里、これも膀胱経とみた方がいい場合もある。前頭部は膀胱、胆経が通っているが胃経とみて心包経の内関。また頭全体が重いときは膀胱経とみる。患側がはっきりしない場合、膀胱経の経路上、例えば天柱等の凝り所見の強い方か、或いは絡穴の左右を比べ反応を見て取穴する。

症例1> 筋収縮性頭痛
 患 者、39才、男性、会社員
 初 診、5月8日
 主 訴、左目と頭痛(締め付けられるような痛み)
 現 病、分析の仕事でPCを1日6時間近く使うため、1ヶ月くらい前から左目と後頭部に痛みがでてきて段々強くなってきた。
 望 診、166cm、57kg、色白。
 聞 診、ぼそぼそ話す。
 問 診、目の疲れ、左顎に痛み、腰が重い、イライラ、慢性的な肩凝り。食欲、便通、睡眠は普通。
 切 診、ナソ部は生ゴム様所見がある。頭痛は主に後頭部で左風池に著明な圧痛、硬結。左頬車付近にキョロ、頸肩部に凝り所見。腰部には疲労の色がみられる。
 脉 診、脉状はやや浮、実。比較脉診では肺最も虚、次いで脾虚、肝実、胃、膀胱ややあり。
 腹 診、肺の診所力なく虚、次いで脾、陥下していて虚。肝の診所按じて牢、痛みあり実。
 弁 別、肩凝りは肺金、イライラ、目の痛みと疲れは肝木、顎の痛みは胃経、頭痛は膀胱の変動。
 証決定、以上のことより肺虚肝実証、適応は右とした。
 本治法、金1寸1番鍼で右太淵、太白に補法、コバルト1寸1番鍼にて左太衝に補中の瀉法。左豊隆、飛陽に枯に応じる補中の瀉法。
 標治法、腹部の中?、天枢、関元に補鍼。ナソ部の処置。左右の頸肩背部、腰部に適宜散鍼。左風池に4,5ミリ深瀉浅補、肩井、膏肓、神道腎兪、手足の三里にゴマ灸2〜3壮。確認の検脉をして終了。頭痛と目の痛み軽減。
 2回目、5月9日
 前回の治療後、頭痛はなくなったが、目と顎に違和感があるとのこと。本治法、標治法とも前回同様。
 3回目、5月11日
 仕事(PC)に支障がなくなったとのこと。治療は同様。
 以後月に2〜3回の割りで来院していて、証は主に肺肝相剋。

症例2> 血管性頭痛
 患 者、49才、女性、主婦(週2回、DM作りのパート)
 初 診、9月11日
 主 訴、右偏頭痛(ズキズキ痛む)
 現 病、1ヶ月前位から右偏頭痛が起こり徐々に酷くなり、頭痛薬も効かなくなり、痛みで夜眠れないことがある。
 望 診、158cm、45kg。
 聞 診、はっきりとした口調で話す。
 問 診、手足が冷たい、頸肩凝り、腰は重だるい、目の疲れ、食欲はあまりない。便通、月経は正常。
 切 診、ナソ部はゴム粘土から枯骨様所見があり、特に右の斜角筋は深部まで硬結がある。所謂血凝りである。後頸部の天柱・風池、肩背部の肩井から膏肓にかけて凝り所見、また脊際に索状の凝り。腰部には疲労の色がみられる。足先が冷たい。
 脉 診、脉状はやや浮、数。比較脉診では肝最も虚、次いで腎虚、胆ややあり。
 腹 診、肝、腎の診所ざらつきあり虚。
 弁 別、右偏頭痛、目の疲れ、肩凝りは肝木、手足が冷たいは腎水、食欲がないは脾土の変動。
 証決定、以上のことより肝虚証とし、適応は左とした。
 本治法、金1寸1番鍼で左曲泉、陰谷に補法、コバルト1寸1番鍼にて右光明に枯に応ずる補中の瀉法。
 標治法、腹部の中?、天枢、関元に補鍼。ナソ部の処置。肩背腰部に適宜散鍼。肩井、膏肓、腎兪、手足三里にゴマ灸2〜3壮。確認の検脉をして終了。やや軽減。
 2回目、9月12日
 ナソ部の処置後、子午治療を行なう。偏頭痛は胆経の変動とみて左通里に金30番鍼を接触。痛み軽減。
 4回目、9月15日
 偏頭痛は殆どなくなったが肩凝りがまだある。治療は同様。以後、月に1〜2回治療していて、比較的体調はよいとのこと。

考察
 症例1は長時間のPC作業から神経を使い、目の疲れ、肩凝りが強くなり頭痛が起こったと考えられる。気を労し、肺の虚に乗じ、労倦の邪が膀胱経を冒したもの、また内傷として怒(ストレス)が肝を実せしめたものと思われる。
 標治法としては左風池の刺鍼がかなり効果があった。これで目の痛みがとれた。
 症例2、右偏頭痛は重宝記に血虚とあり、実際にもそうみて肝虚で治療して効果があり、また右の肩凝りが強いことからこれは血の道症、或いは更年期障害であろうと推測される。胆経の変動としての側頭痛に対する子午治療も効果があったが、左の通里は心経なので接触とした。
 証決定にあたっては随伴症、腹証、脉証その他からよくよく見極める必要がある。これは頭痛に限らず、何にでも言えることではあるが。
 頭痛を訴える場合は多くは頸から肩にかけて凝りがみられるので、これを取り除く必要がある。天柱(膀)、風池、肩井(胆)、天りょう(三)、肩中兪、肩外兪(小)、大杼、魄戸、膏肓(膀)、身柱、神道(督)等、これらの中から圧痛や硬結を捉えて刺鍼、施灸し、或いは経穴にとらわれずに適宜散鍼するとよい。
 何れにしても正しい証による本治法が大事であるが、標治法もまた工夫する必要がある。


topへ戻る