-身体各部の病症治療-
※例 経穴 百会 子午 内関 奇経 腕骨−申脈
【はじめに】
標治法総論として2004年5月、各論として 2009年12月に紹介したが、その後、それらを参考として実践している人は少ないように思われる。そこで今回は、前回より具体的に紹介し、臨床に取り入れ易いように、身体各部の病症を一つ一つ最も有効的な方法を紹介することにした。それにより術者も患者もはっきりと病症の改善が認識されるようになる。それを続けることで患者増に繋がる。以前よりT日5人取り扱えば一人前とされていたが、それでは人並の生活は維持できない。10人を目標にしなければいけない。技術向上のためには、本会で紹介されたことを何となく聞き流さないで治療室で明くる日より実践し、有効と思われる方法を何人かの患者に試すことで、有効であればそれを用いるようにするのがよい。経絡の流注では場所により複数の経絡が流れているので、臨床で有効と思われる経絡を示し、子午、奇経治療の応用し易くした。そして患部に対しての手技を具体的に紹介する。
なお、奇経治療は本治法の前に, 子午は後に行うのを原則とする。
【1.頭部】
@ 前頭部
流注では膀胱、督脈経だが胃経とする。治療は重いとか痛みには子午治療がよく、内関、軽い方から両側にやることが多い。患部には接触鍼で瀉的に速刺速抜で行い、強く長く行ってはいけない。
A 頭頂部
流注は百会穴より前を胃経とし、後ろは膀胱経とする。治療は浅く瀉法、抜鍼時に軽く加圧をかけることもある。百会は3ミリ程度入れることもあるが、ここは以外と敏感なので強く 長く行うと悪化しやすい。また痔の特効穴とされているが私は確認していない。子午では膀胱として左右列缺。
B 後頭部 流注は膀胱、督脈経とする。治療は基本的には瀉的に行うが、後頭隆起の周辺、特に下部は浅く軽く左右圧をかけるとよい。
C 側頭部
流注は胆、小腸、三焦経が通っているが全体的に胆経とする。そして耳の前は小腸経、後ろは三焦経とする。治療は浅く気を巡らす気持ちで瀉的に行う。こめかみの前部は目によい。顎関節症には耳の前の聴宮に2、3ミリ入れて軽く左右圧をかける。またTH7—9の患側の脊際に指頭を当て、棘突起の方向に押しながら上下に揉むように動かす。また上下の歯の噛み合わせの悪いときによい。加えて患側のC2の高さで僧帽筋前縁に指頭、指腹を当て、反対側前頭部と側頭部の間辺りに小指球を当て後側方に屈曲し、当てた指がC2に食い込むようにする。これらは野口整体の手技の一つである。顎関節症には奇経で腕骨−申脈に行うとよい。頭部に対する手技は浅く速刺速抜で瀉的に行うのが原則。脳の働きは肝と心が関与している。頭暈或いは頭のふらつき感には、かき針の先を45度程度の角度で当て、ひっかく感じで手前に引くように百会穴を中心に前頭頂部に多めに行い、後頭部にも軽く行う。このかき針は前田豊吉商店製で長さ8cm、巾3cmのもの。
【2.顔面部】
流注では鼻翼より上部は胃経、下部から下顎にかけては大腸経とする。
@ ニキビ、吹出物
場所により胃経か大腸経かを判断し子午治療がよい。内関或いは大鐘。25才以下の女性に顕著。リアルタイムに小さくなり消失することもある。残った際は その周囲に2、3鍼1ミリ程度入れ左右圧をかける。大きめのものには鍼先を中心部に向け2、3ミリ入れ左右圧をかける。知熱灸も効果がある。電気温灸器を使うと煙くなく喜ばれる。
A 化粧かぶれ、肌荒れ トラブルを起こしやすい所は承泣より鼻のわき鼻翼にかけてと、頤部から下顎にかけてが多い。子午がよい。内関或いは大鐘。接触鍼で補的に行う。先に紹介したかき針の頭の部分で擦ると有効。顔面部のトラブルは多いが安易に触れないようにする。了解を得てから行うようにする。触れられるのに抵抗感もある。化粧との兼ね合いもある。
B 目(ドライアイ、涙目)
緑内障、飛蚊症等の目の疾患、結膜炎、眼瞼下垂等でその周囲の症状には胃経と診て子午がよい。内関。上眼瞼と下眼瞼の中央部辺りにフワッとした反応を見つけ接触鍼で左右圧をかける。下眼瞼の方がより効果的だが、鍼先が目に当たらないように拇指背面を瞼に向けて拇指頭を当ててガードする。
C 鼻炎、副鼻腔炎
奇経治療で照海−列缺を左右に行う。寛骨臼の下縁を内側にずらして鼻に当たった所と、そこより外方にずらして窪んだ所に1、2ミリ程度入れ左右圧をかける。鼻詰まりの強い人には自宅でタオル、ハンカチをお湯につけ、絞ったものを当てるように指示する。温まるのと蒸気の作用で通りがよくなる。
D ドライマウス
近年唾液の分泌が少なくなり、口腔が乾いて食べたものの呑み込みが悪くなったり、つっぱり感、喉まで詰まって痛みを訴えるケースが増えている。奇経で左右の照海−列缺。下顎骨の下側から喉にかけ顎下腺の周囲に2ミリ程度入れ左右圧をかけると唾液の分泌が起こり潤ってくる。左側に反応が強くでていることが多い。
E 歯痛、歯肉炎、歯周病
患側の女膝(踵後方中央部で赤白肉の間)に鍼先を上に向け行う。敏感で痛みを与え易いので管鍼がよい。5ミリ〜1センチ程度入れるとリアルタイムに緩解する。敏感な人には撚鍼で1、2ミリ入れ左右圧をかけるとよい。上より下の方が有効的。下顎骨の内側に沿って上に向け患部を見つけ鍼をする。歯肉炎の際は下顎骨の前面にフワッとした反応を捉えるとよい。上は寛骨臼の下縁に沿って反応点を見つけ処理するとよい。
F 顔面麻痺
眼瞼下垂とドライアイ等の目のトラブルには胃経、唇の緩みには大腸として子午がよい。内関或いは大鐘。頬の中央部は効果はない。フワッと鬱血したり、力なく窪んだ所を見つけ接触鍼で補うようにする。
G 口内炎
子午治療で多少の効果はある。頬の辺りは胃経、下顎は大腸経とする。内関或いは大鐘。頬から上顎にかけては皮膚が凹まない程度に軽く摩って、フワッとした反応を見つけ接触鍼で左右圧をかける。下顎部の際は下顎部底部から喉頭部にかけて、皮膚の緊張或いはフワッとした反応を捉え1,2ミリ程度入れ左右圧をかける。
H ものもらい 子午がよい。内関の後、豊隆にも行うと殆ど消失する。希に取りきれない時は、患部の下際に鍼を接触して軽く補いながら左右圧も軽くかけるとよい。
【3 頚肩部】
頚肩部には全ての経絡が巡っており、頭部と体幹を結んでいて重要な働きをしている。ここの部分にトラブルを生じると全身に影響を及ぼすことになる。外傷性頚椎症(むち打ち症)がよい例である。しかしこの部分は軽視されているように思われる。私は全ての患者に対し治療している。またこの部は経穴の数が少ない。そこで考えを変え、全体を治療対象として、特に重要な所を経穴と見るのが合理的。経絡の流注としては大まかに後頚部は督脈、膀胱経とする。側頚部は胆経、前頚部は下顎藕から喉頭隆起を結んだ所より上、下顎三角の部分までを大腸経とし、その下から鎖骨上窩までを胃経とする。
@ 寝違い
膀胱経、小腸経として先に蠡溝、後から列缺、支正、飛陽も行うとよい。天柱から僧帽筋前縁に沿って緩め、肩甲間部まで緩める。症状が強ければ接触鍼、軽くなるに従い深く入れるようにする。
A 頭重痛
子午で左右の列缺、側頭痛は通里、前頭部痛は胃経として内関。頭頂、後頭部は奇経で腕骨−申脈でも影響するが子午で十分。天柱、風池から側頚項、肩甲間部、膈兪、肝兪付近を緩めるとよい。治喘(C7脊際)に2、3ミリ程度入れるとよい。
B 眩暈、ふらつき 一般的には内耳の故障、血圧の異常とされているが100%
C2の周囲の筋緊張が原因として対処する。奇経より子午の方が無難、列缺、蠡溝で後頚部、肩甲間部を緩める。胃経も関係することもあり、内関にも行う。鍼はそれらの部分を緩めるようにする。症状が重ければ接触鍼から始め徐々に深く入れるようにする。
C 喉
痛みとか詰まる感じ、そこから咳がでる時に奇経で照海−列缺、左側がより悪いケースが多いので、右側から始め、左を重点的に行う。患部には下顎三角から鎖骨上窩にかけ接触鍼で軽く左右圧をかけるようにする。
D 目、鼻
胸鎖乳突筋の後縁は目、中心部は鼻、前縁部は耳とされているが、鼻は確認できない。後頚部を緩めるのは当然だが、側頚部は全体的に表面部を緩めるように浅鍼で多鍼する。頸部の緊張を緩めるにはストレッチが短時間で広い範囲に有効。胸鎖乳突筋は胸鎖関節の前縁に母指球を当て後側方に屈曲する。側頚部斜角筋は肩鎖関節の上縁に母指球を当て側屈する。僧帽筋では肩甲骨上縁に母指球を当て前側方に屈曲する。頸椎部を緩めるには拇指或いは示指、中指を側頚溝に当て、その方向に側屈したり、側後方に屈曲する。特にC2の緊張を取るのに有効。これは野口整体の手技の一つである。大椎は熱を下げるのによい。また寒気とか全身が冷える。特に温灸するとよい。治喘(C7脊際)は1、2ミリ上に向け入れ左右圧をかけると目、頭重痛によく、下に向け1、2ミリ程度入れ左右圧をかけると呼吸が深くなり咳によい。また頭重痛、目には天柱、上天柱もよいが、C2の脊際に上に向け行うと一層効果的。これらには左右圧を強めにかける。頚肩部の緊張を最終的に確認するには座位で左右に回旋させると捉えやすく、適宜その部分を緩めると患者に満足感を与えられる。頚肩部を緩めるのに三角筋、特に停止部を緩めるようにすると効果的である。頚肩部全体を緩めるのに菱形筋(肩甲骨内角よりTH5の方向に向かっている)を摘まみ上げるようにするとよい。これは按摩術で腱引きと言い、他にも肩井の所で僧帽筋を摘まみ上げるのと、肩甲骨外縁で大円筋を摘まむ術式がある。
E 滲出性中耳炎、耳鳴り、難聴
滲出性中耳炎はアレルギー性のもので現代医学では治らない。酷くなると鼓膜を切開するため難聴になることもある。奇経で腕骨−申脈がよい。翳風から胸鎖乳突筋前縁に沿って鎖骨までを緩める。2、3ミリから5ミリ程度入れ、奥の緊張を緩めるようにする。翳風には強くし過ぎると耳に痛みを生じることがあるので注意する。耳鳴り、難聴は軽減するが完治するのは難しいので安易に引き受けないようにする。
【4 背部、腰殿部】
この部は最も治療する所であり、術者によってはここのみで済ましていることも多い。経絡としては膀胱経であるのでそれのみで治療していることもある。しかし各経の兪穴があるので他の経絡を考慮にいれる必要もある。曲垣穴からTH5の高さ迄は小腸とする。TH7〜9迄を肝とする。TH10〜l1迄は脾とする。それより殿部迄を膀胱とすると臨床的に有効。
@ 肩甲間部痛 小腸であるので子午で蠡溝、慢性的なものには奇経治療で腕骨−申脈でよい。
A 膈兪、肝兪の痛み
肝と診て子午で支正。
B 脾兪、胃兪付近の痛み 脾として子午で外関。
C 神経症
督脈経は精神障害に用いるとよい。特に大椎から筋縮迄の反応を捉え処理するとよい。身柱は小児の疳虫の特効穴となっている。この際、大椎から下方にずらして棘突起間に捉われないで適宜反応を捉えるようにするとよい。
D 咳、呼吸困難 奇経で左右の照海−列缺がよい。その後、脊際でTH7迄2、3ミリから1センチ程度入れ左右圧をかける。
E 頭重、不眠
膈兪、肝兪の部分は硬く盛り上がっており、直接鍼をしても効果は殆どないので、2側線の膈関、魂門、陽綱辺りを軽く補い、その高さの脊際を5ミリから1センチ程度入れて鍼を確り置きながら左右圧をかける。奇経で左右の照海−列缺がよい。
F 胃痛及び重い等の違和感 左意舎、胃倉、志室にかけて深めに補う。
G 急性腰痛(ぎっくり腰)
脇から胆経上の痛みには子午で通里、膀胱経上では奇経で申脈−腕骨がよい。痛みが酷く横になれない場合は座位で行っても楽になる。2側線から接触鍼でごく軽く左右圧をかけ、1側線にも同じようにする。様子を観察しながら1、2ミリ程度入れるようにする。速刺速抜を基本とする。
H 慢性腰痛
奇経で申脈−腕骨、中心部痛には左右行う。2側線から行い5ミリ程度から始め1センチから1寸でめいっぱい入れる。慢性症では深鍼をしなければ治癒させるのは困難である。
I 殿部痛
殆どが梨状筋(大転子から後上腸骨棘)であるのでその両サイドに1センチ程度の深刺しで、電気温灸器を当てる。知熱灸より長い時間行えるので効果的。患部を捉えるには、膝蓋骨の少し上に手首を当て軽く股関節を伸展させると、つっぱり感を感じるのでその部分を処理するようにする。また仙腸関節の外縁に指を当て、股関節を外転したり伸展する。静かに行い、抵抗を感じた所で留め、何回か繰り返し行う。それにより仙腸関節が緩み、腰から下肢が伸びたように感じられるようになる。
J 生理痛
腹部に対し奇経がよいが、腹部で後述する。仙骨部特に次に1センチ程度入れ左右圧を確りかけ、電気温灸器を用いる。背腰部では鍼先は殿部に向け行う。無意識に上に向ける術者もいるがそれでは気は殆ど動かない。しかし腰部2行線では脊柱方向に行うこともある。
【5 胸部】
胸部の治療は殆ど行われていない。近年、精神不安定とか鬱等で呼吸が乱れ、深く吸えない人が増えている。これらには胸部の治療が必要である。
@ 過換気症候(過呼吸症、パニック症)
奇経で照海−列缺で呼吸を深くし、時にはその後、腕骨−申脈がよい。背部の治療の後、中府、雲門から腎経を上部から切経し反応を捉える。フワッとしたものが触れられる。その際、肋間に拘らないで肋骨上にもあるので注意する。接触鍼か1、2ミリ程度入れ軽く左右圧をかける。
A 咳 奇経で照海−列缺、腎経に上の要領で行う。
B 乳腺症、乳腺炎
奇経で陰陵泉−内関から行い、陥谷−合谷にも行う。炎症が酷い時は直接行うのは困難なので非常によい。乳腺症で手術した後、傷口が痛んだり引きつれたりして汗をかき痒い時には子午で公孫か内関にするとよい。
C 乳頭の痒み痛み 乳頭は肝なので子午で支正がよい。
D 側胸部痛
大包(脾経)付近が重いとか痛みを訴えることがある。側胸部は胆経と診て通里に子午を行う。接触鍼で少し左右圧をかける。
E 嚥下困難
食べ物、飲み物等が飲み込み難い時は奇経で照海−列缺。廉泉より中にかけ反応を捉え接触鍼で軽く左右圧をかける。特に中の上部に反応が多い。
F 胸部下部の陥没
胃経上で肋骨弓の少し上部に3センチから5センチ程度の大きさで陥没してフワフワした所がある。虚弱者に多く、特に女性に多い。子午で内関が幾らかよいようだがあまり変化はない。患部の周囲に接触鍼から1、2ミリ程度入れ軽く左右圧をかける。深く吸い込むのが困難で重苦しかったり痛んだりする。左に多く温灸をするとよい。胸部には接触鍼か1、2ミリ程度で浅く入れ軽く左右圧をかけるのが原則。
【6 腹部】
現在腹部治療を行っている人は殆どいない。按摩術では按腹といって内臓疾患を始めとして全身の病症に応用していた。経絡治療では関元で先天の元気を補い、神闕で後天の元気を補っている。初心者でも腹部治療を応用することで幅広い病症を取り扱うのが可能になる。内臓疾患では正経の流注に合わせ奇経治療を行うことで対処できる。
@ 胃
中、上辺りにしこりがあり、鳩尾辺りが重苦しかったり痛んだりして吐き気等がある時は、奇経で左右の照海−列缺、時には左不容から梁門にかけ緊張がある。左陥谷−合谷、これらに緊張が残ったり自覚症状がある際は神闕に温灸を行う。温灸を行う際は穴所にただ当てるのでなく、左示指、中指で温度の状態とか緊張状態を観察し、変化の状態も捉えるようにする。これにより気の動きがよくなる。
A 十二指腸
食後2、3時間して違和感とか痛みを感じる。機能低下とか粘膜がただれたり潰瘍により生じる。左梁門辺りが硬くなる。奇経で左陥谷−合谷。
B 胆嚢
脂肪を取るとしくしく痛んだり、激痛し吐き気をもよおしたり下痢しやすくなる。右梁門辺りにしこりが現れる。奇経で右陥谷−合谷。
C 肝臓 右悸肋部が重かったり痛んだりする。奇経で右陰陵泉−内関の後、右陥谷−合谷。
D 膵臓
急性症は取り扱ってはいけない。慢性症は左悸肋部が張って苦しかったり、痛んで吐き気する。食べ過ぎたり脂肪を取ると症状が強くなり下痢しやすい。奇経で左陥谷−合谷。その後、左陰陵泉−内関、神闕の温灸もよい。
E 過敏性腸症候群(下痢、便秘)
下痢、便秘を繰り返す。奇経で左陰陵泉−内関、左天枢から水道にかけ緊張のある時は左陥谷−合谷。神闕の温灸は必ず行う。
F 虫垂突起炎
急性症でも可能だが、鍼灸師のおかれている立場等を考慮し行ってはいけない。この際、患部の表面が異常に突っ張っている時は化膿性の疑いがあるので絶対に治療してはいけない。慢性症はかなりあるが、医師も見落すことが多いので確りと観察するとよい。右天枢から上前腸骨棘を結んだ線上で脾経に反応がある。奇経で右陰陵泉−内関の後に、右蘭尾(脛骨外縁を上にずらして脛骨粗面に当たった所)に鍼先を腹部に向け1センチ程度入れる。
G 膀胱炎 子宮筋腫 奇経で左右の照海−列缺。膀胱炎は症状が激しい時は神闕と膀胱付近、慢性的なものには関元、中極に温灸をする。
H 卵管、卵巣 水道付近に反応がでるので、奇経で患側の陥谷−合谷。
I 生理痛
痛んでいる時に行うとよい。完全に無くすのは難しいので安易に引き受けてはいけない。水道の反応で患側を決め、奇経で陥谷−合谷。腹部は行わないのが無難。次を中心に腰仙部に5ミリから1センチ程度入れ左右圧をかける。神闕、次に温灸。
J 陰部の痒み、痛み
奇経で患側の照海−列缺。はっきりしない時は左右、補助的に上前腸骨棘の内側から鼠径部にかけ突っ張りがある時は子午で外関か奇経で陰陵泉−内関。
K 出産後の陰部の痛み 奇経で左右の照海−列缺。
L 妊娠末期の腹部の突っ張り、痛み
表面部の異常なので子午で外関、内関。奇経では影響力が強過ぎるのでやらない方が無難。標治法は接触鍼で速刺速抜で軽く左右圧をかけ膨らんでいる周囲に行う。
M 大腸ガス症
S状結腸より下行結腸にかけガスが溜まり、心窩部を圧迫し心臓部にかけ重苦しく息切れ動悸を呈するので、心臓の異常と間違えること多い。左陰陵泉−内関、陥谷−合谷に奇経。左肋骨弓下部に沿って2、3ミリから1センチ程度入れ軽く左右圧をかける。
N 子宮内膜症
子宮粘膜の破片が卵管、腹膜を始めとしていろいろな所に付着し、その部分が炎症、出血を起こすことで生じる。下腹部全体特に上腹部にかけ痛み熱感を呈する。現代医学では摘出手術か消炎鎮痛剤で対症治療しかない。触覚所見に従い適宜奇経治療。陰陵泉−内関の後、陥谷−合谷、照海−列缺。下腹部を中心に腹部全体を緩めるようにする。奇経の後、神闕に温灸。炎症、内出血のため他の所には行わない。標治法は5ミリから1センチ程度の深めに行う。
O 腹膜癒着
開腹手術後、腹膜と大腸の癒着が起き、冷え、疲労等により痛む。時には転げ回るほど痛むこともある。以前は剥離手術を行っていたが、癒着の範囲が広がってしまうことが多いので1980年代以降は行われていない。左下腹部の痛みが多い。奇経で陰陵泉−内関、陥谷−合谷の後、神闕、腰仙部に温灸。標治法は5ミリから1センチと深めに行う。
【7 上肢】
上下肢を動かすと脾の働きがよくなり食欲が出てくることから脾土経とされている。
@ 肩関節周囲炎(五十肩)
肩関節の周囲の筋炎だが、三角筋の炎症が主要をなしている。特に中央部から前縁に強い炎症がある。陽虚、陰虚の状態のため表面部を冷やしたり、深部を温めても増悪する。中央部と前縁部の炎症が激しいため、ここの筋線維を伸ばす姿勢を取ると増悪する。つまり、仰向けの状態で肘を下につけると痛みのため眠られなくなる。痛みを軽減するには肘の下に枕とか座布団を半分に折り置くようにするとよい。表面部の緊張を取るために子午治療がよい。肩甲間部大円筋辺りを緩めるために蠡溝、三角筋後部の上腕三頭筋を緩めるために公孫、中央部と前縁部を緩めるため大鐘を用いる。標治法は小腸経、三焦経、大腸経の順に離れた所から緩めるようにする。最初は接触鍼で行い、緩解するのに従い深鍼で行うようにする。最も悪い所は肩付近で最後の段階でそこを緩めるようにする。温灸も行うとよい。
A テニス肘(ボールペン病)
曲池付近の痛みでテニスラケットを振ることで発症することが多いので俗称として言われている。ボールペンで字を書くのに筆圧を強くすることからも言われていた。以前はカーボン紙に数枚複写していたことからもボールペン病と言われた時もあった。曲池付近の痛みから始まり、無理をして使うと肘の先の三焦経上に痛みだす。子午で大鐘、公孫。標治法では三角筋中央から前部を緩め、二頭筋と三頭筋の間大腸経を緩め、腕橈骨筋の両サイドを緩める。そして前腕後側中央部を緩める。最初は浅鍼で症状の緩解に従い深鍼で行う。
B 肘内側痛
小指、薬指の負荷と重い物を持つことでおきる。左の場合はゴルフの上級者に現れる。小腸経より心経の緊張が強い。子午で少しはよいがすぐに戻ってしまう。標治法は小腸経、心経上に肘から腕関節まで浅鍼で行うが治り難いことを患者に伝えておくとよい。
C 腕関節内側痛
上記と同じ原因から起き陽谷、養老付近に起きる。左痛はゴルフの上級者に見受けられる。子午で蠡溝、光明、小腸経に緊張が強い。浅鍼で鍼を押し続け左右圧をかけ補法で行う。
D 魚際痛
魚際の痛みで美容師に多く見受けられる。拇指の使い過ぎで鋏を使うことから起きる。子午で飛揚。標治法は浅鍼で魚際から母指球外縁に行う。
E 手根管症候群(ばね指 そら手)
手掌部の痛みで指の屈伸が困難になる。前腕前側部の緊張が原因なので、そこを緩めるために子午で豊隆。標治法は前腕前側部全体を緩め、膨隆を少なくなるようにする。心包経上を中心に浅鍼で速刺速抜で多鍼。その後、アスター治療がよい。肘、手首を伸展し手掌部指の伸展が効果的。経絡として手掌部は心包経、手背部を三焦経として処理する。安易に上腕二頭筋は治療しない。柔らかく触れられても痛いだけで気持ちのよいものではない。実際にこの筋はトラブルを起こすことは殆どない。
【8 下肢】
下肢に対しても上肢と同様に症状がないかぎり行ってはいない。筋は第2の心臓と言われて おり静脈血を心臓に戻すのに筋収縮が必要となる。特に下肢は心臓から遠い位置にあり、下から上に押し上げなければならないので一層循環障害を起こしやすい。また老化は下肢から起こるとされている。そこで下肢の治療は必要で欠かせないものになる。
@ 股関節
股関節は日常生活だけでなくスポーツでも重要な働きをしている。しかしそれに気が付いている人は少ない。日常的に負荷がかかり故障を起こすケースも多いが、殆ど認識されていないのが現状。股関節の状態を認識するには外転するとよい。大転子の上下に緊張があれば子午で通里。上前腸骨棘の内側から大腿内側の付根に緊張のある時は外関。半腱様筋、半膜様筋から坐骨部にかけて緊張のある際は支正に行う。標治法としては大転子の上下に行い、上前腸骨棘の下際から胃経上に膝まで行う。
A 大腿後側部痛
スポーツで起きるのが多い。ハムストリングといって治り難い所。内側は半腱様筋、半膜様筋になるが、膝から坐骨部に向かい両サイドに5ミリから1センチ程度入れ緊張を緩める。外側は大腿二頭筋だが、ここは治り難い所なので患者に伝えておく。この腱はかなり硬いので膝から大転子後側に向かい2ミリ程度入れ、鍼を確り押しながら左右圧をかける。中央部は坐骨神桂痛でも用いるが1センチ程度と深めに行う。
B 膝関節
圧倒的に女性に多い。股関節と同様に、整形外科では手術をしなければ治らないと言われるのが多いようだが、絶対にやらないように勧める。そして必ず鍼治療で治ることを伝える。内側で脾経上に痛みが最も多い。子午で外関、次いで委中付近の異常を感じられる、列缺、次いで犢鼻とか内膝眼、外膝眼が感じる。内関。標治法は膝蓋骨内上角より上部にずらし5、6センチ程度の所で、最も低くなった所から1センチ程度膝に向かって数鍼行う。次いで半膜様筋の上縁に沿って数鍼行う。胃経上にも数鍼行う。大腿部の緊張を緩める。陰陵泉辺りと陽陵泉辺りも緩める。三里から豊隆辺りまで緩める。犢鼻、内膝眼、外膝眼の浅刺は殆ど効果はない。下腿三頭筋も緩めるとよい。
C 下腿三頭筋
体幹を支えるのに最も必要とする筋でトラブルを起こしやすく、この筋は第2の心臓と呼ばれている。承筋、承山付近に症状が起きること多い。腓返りと言って強直性痙攣の際、最も痛み、その後しこりが残る。仰向けになり踵を殿部につける。そして痙攣が落ち着いたら立ち上がり、ふくらはぎを伸ばすように指示する。子午で列缺。標治法は承筋、承山に1、2ミリ程度入れ、その外側縁から飛陽にかけやや深めに行う。その後、承筋の上部から委中の下辺りまで深めに行う。委中付近の痛みしこりはしこりの周囲と下腿三頭筋全体を緩めるように行う。アキレス腱の痛みとか重く突っ張る時は内側か外側を確認して子午で偏歴、列缺。標治法は接触鍼か1ミリ程度で左右圧をかける。ふくらはぎの内側は痛いだけで効かない。
D 足関節
捻挫が最も多い。軽ければ外果付近、子午で通里。次いで、深く傷めると解谿付近、内関。無理をして動くと内果付近とアキレス腱内側部に痛みがでる。子午で外関、偏歴に行う。標治法は光明付近から外果に向かい症状に応じ接触鍼から始める。次いで豊隆付近から胆経と同じ要領で行う。内果の周囲は1、2ミリ程度入れる。足背部も適宜処理する。長く無理をすると足底部の異常がでてくるので、その処理にも留意する。ここの捻挫は刺絡が有効的なのでやってみるのもよい。
E 足底腱炎、筋膜炎
最も治り難い所は踵中央部、次いで踵前縁部土踏まずから湧泉の横のラインになる。ここは子午も奇経も効果なく、鍼も行うのは痛みが強く、鍼を刺すのも困難なのでアスター治療を行うとよい。劇的に緩解する。この他にも、手掌部とか手指の腱のトラブルには鍼治療よりアスター治療は有効。腱には血管が少なく血液循環も乏しい。気も流れ難いので行うとよい。
【9 全身症状】
@ 熱
有熱患者は一般には禁忌症とされている。気を調整する経絡治療では適応症になる。37度台の微熱は本治法が未熟でも適応としてよい。神闕、大椎に温灸。その後、頚肩背部に接触鍼で速刺速抜で行う。38度〜39度迄は左金門に瀉法。二間、三間と水かきの治療はあまり効果はない。標治法は上記と同じ要領で行い神闕、大椎に加え湧泉付近に行う。足底部が冷たく、そこを温めることで体温調節の機能が 働くことになる。
A 寒気
いくら厚着をしても寒気を感じる時は体温の調節機能が働かないからである。体温調節は手足の先で外気温をキャッチし行われている。冷たくなりその機能が衰えて起こるのでそこを温めるとよい。手足の先をお湯につけるのがベストだが、手袋をしたり厚い靴下を履くように指示する。大椎の温灸は最も有効で神闕にも行うと一層効果的。
B アトピー性湿疹
腎虚証が最も多い。腸の働きが悪いこと多いので神闕の温灸をするとよい。場所に従い子午治療もよいが、湿疹が広い範囲に存在する時は効果は期待できない。湿疹部の周囲に接触鍼で速刺速抜で多鍼の後、頭部の項で紹介したかき針で湿疹部を撫で擦るようにする。広い部分には横の縁を5、60度程度の角度で当てる。狭い 部分では頭の部分を用いる。施術中にリアルタイムに緩解してくる。手掌部、手指、足底部にも有効。
C 蕁麻疹
食物性のと薬性がある。部分的に現れたり全身に発する。熱を持ち痒み引きつり感がある。本治法を確りとやる。肝経がポイントになる。腸を調整するため神闕の温灸。標治法は接触鍼で速刺速抜で周囲に行う。
D 鬱症
軽い幻覚、幻聴、被害妄想のあるのは治り難い。躁と鬱を繰り返す躁鬱踵は治らない。躁病は性格的な要素が多く治らない。幻覚、幻聴、被害妄想の強い統合失調症は治らないうえに、他の患者も気持ち悪く感じたり、恐怖感を与えるケースもあるので絶対に扱ってはいけない。時には患者に恨まれることもあり危険に晒されることもある。敏感過ぎて様々な症状を呈していたり、少し世間離れしているかのように感じられる人は左大陵に軽く行う。これらが酷かったり鬱症の人は左神門に軽く行う。標治法は接触鍼で全身の気を巡らす気持ちで速刺速抜で行う。頭重、倦怠を訴えるケースが多いので頚肩部、膈兪、肝兪付近を緩める。
E 乗物酔い
右築賓に皮内鍼、円皮鍼、粒を貼る。経絡治療的な考えでいくならば、左右を比較し反応の強い方にやることになるが左は効かないことが多い。人体は右半身と左半身が繋がったもので、右側は右に流れ、左側は左に流れているように思われる。症状が片側に偏っていると治りがよい。左側より右側の時は治りがよい。右は気が主り左は血が主るとする説もある。例として五十肩はこれが顕著である。乗物酔いが出ないようにするのは難しく、その都度、抑える気持ちで行うようにする。
F 不眠症
不眠症患者には胃腸の弱いケースが多いように思われる。経絡的には心包経、肝経が関わっている。標治法としては門から天柱、風池と後髪際で上に向け5ミリから1センチ程度入れ膈兪、肝兪付近を緩める。その後、神闕、大椎に温灸をする。
G 虫刺され
虫刺されは現代医学では短時間に改善するのは難しい。子午治療で短時間に改善させられる。対象となる穴を補った後に必ず経穴に補中の瀉を加える。患部の周囲に数鍼、中心部に向け接触鍼で補う。左右圧を少し強めにかける。その後、温灸をすると殆どのものわ平になり痛み 痒みがなくなる。虫刺されは蚊から蜂まであり 腫れ具合も異なる。皮膚の弱い人では蚊に刺されても大きく腫れ化膿することもある。これらに対しリアルタイムに緩解できる。
【10 まとめ】
標治法の目的は、本治法で十分に巡らなかった気を全体的に巡らすことにある。そして症状の緩解を目指すのである。手技では痛みとか違和感を与えないで気持ちよく感じさせ、治療後に満足感を得られるようにする。それにより、たとえ緩解しなくてもリピーターとなり通院してもらえる。治ってからも健康法として長く通院されることで営業繁栄に繋がる。患部に直接行う前に子午、奇経治療で改善させることで信頼感を与えられる。局部に捉われないでその周囲から治療する。例えば膝痛の際、大腿四頭筋と下腿三頭筋を緩める。患者によってはそれで緩解することもある。そして最後に、患部の治療をすることで失敗も少なく効率的に緩解に結びつけられる。患部には点として狭い範囲で捉えてはいけない。面として広い範囲で患部全体を認識する。左手は治療点を見つけるのに示指腹のみを使わないで中指、薬指も使って気を巡らす気持ちで、揉むように前後左右に動かすことで患者も気持ちよく感じる。その際、必ず患者の反応を観察し押す強さを調整する。敏感な人では皮膚面が窪むようにすると違和感を感じることもあるので注意する。
刺手は竜頭と鍼体の間で保持する。竜頭を感じる程度でぶつけたら落としてしまうほど軽く持ち接触する。基本は刺さないで押し続ける。鍼先の状態を感じながら行うことで気が動く様子を観察しながら徐々に入れる。この際、必ず 押し続けながら鍼先の状態を観察する。決して押したり引いたりしてはいけない。押すことで気が動くので引いてはいけない。抜き刺しすると深く入れやすいが押し続けながら刺せるように修練する。それにより刺手の気が入り巡りやすくなる。そして左右圧、加圧を適宜加えることで一層気が巡るようになる。特に左右圧はきちんと行う。基本的に経絡の端の部分で隣接する経絡との境の所は気が薄いので治り難い。例えば大腿二頭筋顴とか肘内側痛など。膈兪、肝兪辺りの治療は全身に影響する。三焦で考えると中焦にあたりエネルギーを作り全身に巡らす働きがある。特に上焦部に影響する。
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