Tarumi's書籍


宮部みゆき「模倣犯」(ネタバレないよう努めて書いてます)

半年も前に読んだ本の感想を今さら。今さらなので、あまり大したことは書けない。
1500ページにものぼる大長編ですが、それを感じさせない面白さがあります。3部に分かれていますが、1と3は推理小説としての謎解きの面白さがあります。2部はかなりグロいです。いやになるくらい。この人の小説の中でもトップにのぼるグロさ。
話は連続殺人事件を取り扱っていますが、それを被害者の側からと犯人の側から(それぞれの家族を含む)の両側面から描くことによって、主題を描こうとしています。2部のグロさがきいて、殺人という行為がいかに非人間的で許されるべき行為ではない、ということが伝わってきます。
そして、それに対する社会のありようというのも問われます。被害者へのケアは社会的にきちんとなされているのか、加害者を安易に社会復帰させてしまうようなシステムとしての弱さはないか、加害者の家族までもが犠牲になってはいないか。
1部では読者を被害者の側に寄り添わせ、加害者の家族に対しても憎悪の念を抱かせるのですが、2部になると、加害者にされてしまった無実の家族のことを描きます。読んでいると、自分の思い込んだ憎悪というものに疑問が湧いてきます。ここらへん、さすがこの人は組み立てがうまいなあと思いました。
蛇足ですが、初版のせいなのかやたら誤植が目立ちました。せっかくのめりこんで読んでいても「あ、まちがってる」と思うと途端に現実に引き戻されてしまうので、小学館さん、もう少し何とかしてね。
それはともかく、ストーリー的にも十分面白く読む価値のある1冊(上下2冊)だと思います。

2001/10/4


宮部みゆき「夢にも思わない」

宮部みゆきは本当に面白い、特に長編。この本も400ページ近くあったけど、読み出したら止まらず二日で読んでしまった。
「今夜は眠れない」に続くこのシリーズ、中学生第1人称の文体はやたらいいかげんでニヤニヤしながら読めてしまう。おそらく作者も相当楽しみながら書いているのではないかと思われる。
今回は推理ものの本編に恋愛が絡めてあって、それがまた行く末を案じさせて一気に読まされてしまった。いいかげんな文体の中にも伏線がいっぱいあって、このストーリーのテーマは充分伝わった。最後には充分すぎるほど裏切られてしまった。
我々は身の回りの友人には優しくできるくせに、見ず知らずの人たちには無意識のうちに冷たく接している。残酷なふるまいでさえも、知らない人にだったら平気でできてしまう部分を持っている。確かにそう思う。そしてそれは、「自分に降りかかる火の粉をふるい落としただけ」とか「食っていくためには仕方がない」とかいう言葉で正当化されてしまうのだろう。
作者はそうしたことへの問題意識をこの軽いタッチの物語の中で訴えたかったのだろう。そのテーマを伝えるために、最後にはちょっと悲しすぎる結末が用意されており、胸には響いたのだが落ち込んでしまった。前編通じる軽いタッチからは想像できない寂しい読後感であった。テーマはいいけど、もう少しさわやかに終わらせてくれよ、と少し思ってしまった。
いや、よくできています。面白いです。

2000年12月7日


「永遠の仔」を読む

天童荒太の「永遠の仔」読みました。いやあ、よかったっす。こんな壮絶な物語は味わったことがない。
前から読みたいと思ってはいたのですが、なかなか手が出せずにいました。しかし、テレビドラマの第1話を見た時点で、「これはテレビで見てしまう前に読まんとあかん」と思い、早速買いに行きました。読み始めたらあっという間で、もう暇さえあれば読んでおり、10日間ぐらいで読み終わりました。
家族、個人が抱える心の病気、それは決して個人だけのものではなく、この社会が持つ集団の病気であるということを思いました。「運がよかっただけ」という言葉がありましたが、確かに今幸せに生きている私たちは運がよかっただけのことで、一つ間違えばこの物語の中の3人のような境遇だったのかもしれない。そして、そうした社会の暗部に、社会自体が見てみぬふりをしている限り、負の遺産は受け継がれていくのでしょう。
最後はやはり泣けました。幸せになってほしかった。

2000.4.24


宮部みゆき「理由」を読む

これもすっかり過去のことなのですが、「理由」を読みました。日路が生まれた頃の話。
いつもと違う文体にちょっととっつきにくさを感じましたが、読み出したら一気です。さすが直木賞といった内容でした。
この作品ではとにかく登場人物一人一人を丁寧に描きこむということがされています。突然登場したわけではなくて、その人がどういう生活背景を持っていて、どんな事情でここにいるのか。そのおかげで、物語に非常にリアリティが感じられて、受け取ることができるのです。

物語中、バーチャルリアリティという言葉が出てきます。テレビやラジオを通じて日常に入ってくるニュースは、実感を伴わないまま僕たちの生活をすり抜けて行く。それは事実であるはずなのに、まるでバーチャルな物語のように受け取られては忘れられて行く。たぶん、宮部みゆきはそうしたマスメディアに警鐘を鳴らしながら、自分自身の小説(もちろんバーチャルなものですが)が、同じようにすり抜けて行くことを嫌ったのだろうと思います。
それは見事に成功して、この小説は本当にそこに人が生きているような錯覚を覚えます。そして、最後はその人の生きる姿そのものに涙が出てしまうのです。

1999.11.7


宮部みゆき面白い

あまりに面白いので,「火車」もあっという間に読んでしまい,続けて「魔術はささやく」も読んでしまった.この人本当に面白いので,しばらく読みつづけようと思う.
「火車」はとにかく,導入部を読んだら最後まで読まずにはいられないような構成になっているところにまず感心します.とにかく結末が気になって仕方ないって感じになっちゃうもんね.で,徐々に確信に迫っていくところなど,中だるみもなく,ワクワクしながら一気に最後まで行っちゃうよね.最後なんか,あーこの後どうなったのかなっと,続きを読ませてほしいような結末.いやあ,久々によい長編を読んだーって感じ.
「魔術はささやく」も面白かったです.SFじみた題名ですが決してそうでもなく,いろんな複線が張ってあって,なるほどって思わせるような謎解きでした.ミステリーには違いないのですが,単なるそれでなく,何か人間的な優しさがこの人の作品の根底にはあるような気がします.
さあ,次は何を読もうっかなあ.やっぱり長編が楽しいので「龍は眠る」かな?

1999年3月29日


久しぶりに文学

なんかここ数年,文学らしい文学を読んでいなかった.2年ほど前に「大地の子」と「ワイルドスワン」を読んだんだけど,大作過ぎて非常に疲れてしまい,その後は何も読んでなかったんです.そうねえ,日常的にはビジュアルベーシックマガジンとかサウンド&レコーディングマガジンとかの雑誌.あと電気,コンピュータの専門誌.そんなものばかりでした.

で,最近出張も続いたため,列車の中でと思い読み始めたのが,宮部みゆき.この人面白いねえ.はまっています.といっても読んだのは「とりのこされて」(中編7作)と,今「火車」を読んでいるところ.「とりのこされて」は全体にSFですが,単なるSFに終わっていないところが面白い.特にラストの「たった一人」は秀逸.心にずっしーんと響くねえ.とにかくどの話も先へ先へすすみたくなるような書き方がうまいことされていまして,あっという間に読んじゃうんですよ.
現在読んでいる「火車」は,社会派ミステリーですが,面白いっすねえ.たまりません.

1999年3月19日