おいしくないし、劇的に健康を増進させるわけでもない「健康食品」を奨励する一方、百害あって一利なしの喫煙は容認。
これが今回国が公表した、地球温暖化対策要項が国民に訴える内容の本質のたとえである。テレビを見る時間を減らし、シャワーを使う時間を短くし、暑いのや寒いのを我慢してエアコンを調整することを要求する一方、運輸部門では17%もの排出量増大を容認することを指しているのである。
運輸部門での増大のほとんどは、自動車交通が占める。現在の実績でも、すでに運輸部門の排出の7割以上が自動車由来である。加えて、それは劇的に増えている。しかし、総人口が頭打ちになり、特に少子化でマイカー利用世代の人口比は今後低下し、高い経済成長率も見込めないのに、そこまで自動車交通の増大を見込む理由がどこにあるのか?これでは、将来にわたっても、積極的に自動車利用を奨励し、逆モーダルシフトを推進しているのと同じである。
単なる数字あわせで、全く実効性が期待できないだけではない。もし中国やインドで、今の先進国並みにモータリゼーションが進んだら、日本の努力など消し飛んでしまう。モーダルシフトは人類生存のための至上命題なのだ。これを積極的に織り込まない「要項」など、何の意味もなさない。どれだけ意味をなさないかは、下の数字を見れば明らかだ。
生活改善の「効果」については、たとえばA紙では以下のように報道された。()内はそれによって削減される炭酸ガス量である。
・白熱灯を電球形蛍光灯に(70万〜140万トン) ・省エネ型電子レンジ普及(40万〜70万トン) ・節水シャワーヘッド普及(80万トン前後) ・同じ部屋での家族だんらん(340万〜470万トン) ・1日1時間、テレビ視聴を減らす(20万〜40万トン) ・シャワーを1日1分減らす(90万トン前後) ・炊飯ジャーの保温を止める(40万〜90万トン) ・歯磨き、洗顔中に水道水を止める(10万〜20万トン)
家族だんらんが削減効果がある、というのは、エネルギー消費を家庭の一部屋に限定するからであり、定性的には理解できるが、テレビ(一般的には消費電力200〜350ワット)の視聴を1時間減らす効果が最大40万トンである一方、家族だんらんで最大470万トン、と見積もるのはあまりにも過大あり、これ自体に『特定の思想』が介在していることを疑わせる。
ところで、1999年度の炭酸ガス総排出量は11億8000万トンであるから、家庭で上記の努力をしても、最大で1000万トン未満、すなわち、総排出量の1%未満を削減できるに過ぎない。
さて、自動車交通を、もし10%削減したら、どれだけの効果があるだろうか。自動車の排出した炭酸ガスは、同年度で2億100万トンであった(全体に占める割合の大きさに留意すべきだ)。その10%では2000万トンを上回る計算になる。しかし逆に、運輸部門全体で今2億5700万トンのものを、17%増の容認をしたら、増分は4370万トンとなる。家庭で努力した分の4倍超を、自動車交通の増大が喰ってしまうのだ。
つまり、どれだけ生活の質を改善しても、自動車交通を減らさなければ、量的にはとても効果が薄いということである。逆に自動車交通をほんの少しでも削減すれば、効果はかなりのものである。『おいしくない健康食品』と『喫煙』に例えた所以である。タバコの量を増やして健康を維持しようとしても、不味くて仕方のない食生活には誰も耐えられない。何しろ全体としては、炭酸ガスの排出量を減らそうというのが「要項」の趣旨であるから、家庭での努力以上に、産業界・電力業界に大きな負担を強いることになる。それは所詮不可能である。政府はその不可能を、国民に対して、やれ、と言っているのだ。
たしかに「要項」では、「公共交通利用の推進」が盛り込まれている。しかし、自動車交通の負荷の大きさを訴えることなく、国民に公共交通を利用してくれ、では全く説得力がない(それを論じないA紙もA紙だが・・・)。自動車交通の抑制を明言する以前に、いつ効果が浸透するか分からない「低公害車の導入促進」を先に口にするのは、政府が問題の本質と、事態の危急性を全く理解していないからだ。