・自動車、航空輸送は大量の温室効果ガス(二酸化炭素)を排出する
温暖化を進行させる主因は、人間の活動です。その中でも特に、石油・石炭などの化石燃料を燃やす行為が、温室効果ガスである二酸化炭素を多量に発生させます。日本では、産業界の努力や不況による生産活動の低下もあって、製造部門での温室効果ガス発生は漸減しています。民生部門でもさほど増加しているとは言えません。しかし、大きく温室効果ガスを増大させているのが、「運輸部門」、すなわち交通機関です。この部門の排出量は、全体の2割ほどであり、その増加はとどまるところを知りません。その主因は、自動車交通の増加に他なりません。10年足らずの間、自動車交通がどのくらいエネルギー消費を拡大、すなわち二酸化炭素の発生を増大させてきたかは、以下の図より明らかです。

また、輸送分担比率はまだ少ないものの、航空輸送の増加も、温室効果ガスの増大を助長しています。伸び率では、自動車を上回ります。輸送シェアとエネルギー消費量の関係は、以下のようになっています。

自動車交通は、旅客輸送比率の6割を占めていますが、運輸部門で発生するほとんどの温室効果ガスの原因です。また、航空は輸送分担比率では少ないものの、その割には多くの温室効果ガスを発生させていることがわかります。ここで鉄道に注目して下さい。輸送分担比率にしては、二酸化炭素の発生が少ないことが分かります。人ひとり、あるいは荷物1トンを1km運ぶのに発生させる二酸化炭素の量を比較すると、以下のようになります(平成11年度運輸関係エネルギー要覧より)。

鉄道やバスの効率の良さが一目瞭然です。超高速で突っ走る新幹線は、一見いかにも電気を喰いそうですが、自動車や航空に比べれば遙かに優秀であることが分かります。

貨物輸送を見てみると、鉄道に加えて船の効率の良さも素晴らしいですし、周りを海に囲まれた日本は、実際船舶による貨物輸送に大きく依存しています(シェア41%)。一方、トラックや航空の効率の悪さは、大変なものであることが分かります。
地球に人類の生存を脅かすほどの危機が迫っている今、私たちが何をしなければならないのかは明らかです。より環境に優しい交通機関を使うようにするのです。
・このまま石油を使い続けることができるの?
さて今まで、温室効果ガスの悪影響と交通機関別の排出量についてのみ論じてきましたが、化石燃料の消費が仮に環境に悪影響を及ぼさないとしても、このまま使い続けるわけには行かない、ということを忘れてはいけません。現状の使い方を続けていれば、石油資源はあと100年も持たない(50年、という人もいます)、ということは広く知られています。おまけに、日本は石油のほとんどを輸入に頼っています。これが途絶えれば、国家の命脈が絶たれるのと同じです。輸入元の中東の政治状況に依存し、価格も大きく変わります。これは即、経済活動に影響し、国民生活が大きく左右されます。これは既に経験済みのことですが、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」のたとえ通り、この事実を意識している人はほとんどいません。
・次世代超音速ジェット機の懸念
航空輸送にはもう一つ、成層圏オゾンの破壊、という大問題もあります。対流圏上部を飛行する一般の亜音速ジェット機がオゾン層にもたらす影響についてはまだ確固たる結論は出ていませんが、成層圏下部を飛ぶ次世代の超音速ジェット機によって、オゾン層の破壊は深刻になるという予測があります(気候変動に関する政府間パネルIPCCリポートより。日本の某航空会社は、オゾン層破壊を止める因子=航空による二酸化窒素排出 のみを取り上げて自らのHPに記載し、後のレポートには頬かむりしています)。
・そして、「モーダルシフト」へ。世界は既に動き始めている!!
もちろん鉄道も、二酸化炭素を排出し、現状では化石燃料を消費することには変わりありません。ですが、人間は必ず移動するものであるし、荷物も運ばれるものです。なるべく環境に優しく、かつ化石燃料に依存しない輸送機関を利用しなければならないのは当然のことです。電気で動く鉄道は、まだ将来性があります。電気は必ずしも化石燃料に依存しなくても生み出せるからです。しかし化石燃料が無ければ飛べない飛行機は、巷に溢れるイメージとは逆に、「お先真っ暗」なのです。
これが、「モーダルシフト」(modal-shift)です。世界の国々では、既に実践に移しているのです。特にヨーロッパではその動きが盛んです。都市内ではクルマに代わって低コストの路面電車を、そして都市間では飛行機に代わって超高速列車を、というのが潮流です。ドイツでは戦後、路面電車が撤去された街も少なくなかったのですが、多くの街では行き残り、現在では改良を重ねて都市交通の主役として活躍していますし、フランスでは一時壊滅状態であったものを、各地で次々と復活させています。アメリカの都市でも1980年代以降、続々と路面電車の導入が進行しています。都市間輸送でも、ボストン〜ニューヨーク〜ワシントンの北東回廊でついに最高速度240km/hの超高速列車が走り出しました。輸送見込みはせいぜい千人単位であり、日本の新幹線路線よりも桁が一〜二つ小さいものです。ヨーロッパの超高速鉄道の路線でもこれは似通っており、輸送人員が4万人未満、つまり上越新幹線の北端程度の輸送量しかないものもありますが、それでも建設・供用され、国土の幹線としての重責を果たしているのです。アジアでも、韓国、台湾で超高速鉄道の建設が進んでいますし、中国でも計画が進行中です。超高速鉄道の、技術的・経営的成功を保証したのは、日本の新幹線であることは触れておかねばなりませんね。
・鉄道整備は、長い目で見れば低コスト
世界の動きは、当然環境悪化や化石燃料枯渇に対する危機意識が反映されたものですが、もう一つは財政支出削減という大きな要請もあったはずです。空港の整備には莫大な資金がかかります。もちろん新幹線の建設も同じですが、輸送効率は桁違いに大きい上、所要面積は少なくて済みます。次ページで触れますが、新聞の活字の大きさとは違い、新幹線の建設費などは微々たるものです。羽田空港の面積が、東海道新幹線約500kmのそれを上回る、という意外な事実もあります。航空輸送需要が増えているという理由で空港建設計画が目白押しですが、需要が増えるから作る、というのでは、国土の狭い日本はたまったものではなく、将来的にいくら空港建設のために税金を払わなければならないのか見当もつきません。
・道路建設に日本が費やす税金
自動車の走る道路建設も大変です。渋滞発生箇所があるから、ということで、バイパスを作り、さらにそれも飽和しているから、という理由でそのバイパス路線まで作る。自動車の数はそれをあざ笑うかのように増えて行きます。さらに、増加した自動車の乗り入れに対応するように都市を作り替えるのも大変です。どんなに駐車場を整備しても、そこに入るのを待つクルマで周辺の道路は渋滞してしまいます。大都市では、昔はバスや路面電車で10分で行けたのに、渋滞のために30分もかかった、というのはよくある話です。それほど道路容量が不足しているというのに、日本ではすでに毎年15兆円前後もの税金を、道路建設のためだけに投資しています(ここ4年間の実績平均・国土交通省道路局より)。これは、他のどんな公共投資よりもずば抜けて大きい額です。自動車は便利ですが、一体これは社会の進歩なのか?もはや手詰まりであることは、誰の目にも明白です。そして、そうやって増えた自動車交通がもたらす環境に対する悪影響は、もはや金銭では計算できないのです。温室効果ガス問題を持ち出す以前に、我が国は廃車のゴミすら満足に始末できません。
・そして、日々路上で繰り返される凶悪殺人事件
自動車交通がもたらす経済的損失よりも先に、本当はこちらを語るべきでしょう。交通事故で失われる人命は、年間約1万4000人(警察庁発表資料では、1万人前後。事故後24時間以内の死者だけを公表するため)。毎日40人近くが殺されています。刃物や拳銃を使って人を殺せば、大きく報道されます。しかし、クルマによる殺人は、遙かに扱いは小さいのです。私たちは、この大量殺戮に感覚が麻痺しているのでしょう。
これは、人類が生き残るため、そして日本が財政破綻から立ち直るための、唯一絶対の処方箋です。