「HydroFoilSailBoadχ」の開発


2.基本設計

2.1 翼型

 水中翼には半没翼型と全没翼型の2種類がある。半没翼型は制御がいらず構造が簡単なので、当初の構想の第一候補であったがセールに作用する横方向の力に対して安定を保てるか疑問であった。また海面の波をまともに翼に受けてしまうなどの問題もあるようだ。今回の設計開始の後押しになった「ツインダックス」は全没翼型であり簡単な機構で十分な制御ができると思われる。よってHFSBxは翼型を全没翼型とする。

     →翼型:全没翼型

2.2 翼配置

 世にある全没翼型水中翼船を調べると、現在多くの航路で運航されているボーイング929(現在は川崎重工製造)や「ツインダックス」、および競技用人力ボートなどほとんどのものは、主翼が後ろにあり尾翼が前にあるタイプである。また、ヨットのスピード記録を更新したものが全没翼型水中翼でこれは前に主翼、後ろに尾翼の通常の飛行機に似た配置である。主翼はボードの左右に大きく張り出す形になるので、ウィンドサーフィンの場合これが後方にあると非常に支障をきたす。セーラー(乗員)がボードに乗降するときはボード後方寄りの傍らに立つ。また走行中落水することも常にあり、低速時だと翼の上に落ち破損させるだろうし高速時は翼にセーラーが接触し負傷することも考えられる。よってHFSBxの翼配置は主翼が前、尾翼が後ろとする。

     →翼配置:前に主翼。後ろに尾翼。

2.3 浮上高制御

 全没翼型は常に安定した状態で翼が水中になければならない。つまり、ボードの浮上高度を一定に保つ仕組みが必要である。「ツインダックス」などでは簡単な機構でこれを実現しており、HFSBxでも同様の機構を採用する。また、この機構を主翼の左右に独立して取り付けることによりヒール(セールが風を受けて風下側に傾くこと)やセーラーの移動による左右の傾きが自動的に修正される。尾翼についても制御機構を設けるのが理想かもしれないが、作成や運用の煩雑さを考えて固定翼とし、尾部の浮上高度はセーラーの前後の重心移動で調整する。また尾翼は尾部を浮上させることだけに使用するためボードの中心線上に一枚設置する。

     →浮上高制御:主翼左右に独立した制御機構。尾翼は固定。

 浮上高制御の構造を説明する。


@滑走板:水面を滑走することにより水面位置のセンサーとなる。
Aアーム:水面位置を取りつけ軸を中心とした角度としてストラットに伝える。
B取りつけ軸:この位置に取りつけ、自由に回転できるようにする。
Cストラット:水中翼の揚力をボードに伝えるのと直進安定を図る。
      また、水面に対する角度を水中翼に伝える。
D水中翼:揚力を発生させる翼。

 浮上高制御の仕組みを説明する。


@浮上高度が低すぎる場合
  水中翼の迎角が大きくなり揚力が増し浮上させる力が強くなる。
A正常翼走状態
  適切な迎角で浮上高度を保って安定した状態。
B浮上高度が高すぎる場合
  水中翼の迎角が小さくなり揚力が減少し浮上させる力が弱くなる。
  場合によっては負の揚力を発生し沈めようとする力が働く。

2.4 全体構成

 これまでの設計をまとめ、全体構成をイメージしたスケッチを示す。通常のウィンドサーフィンに新たに付加する構造物として、マストジョイント付近の左右に張り出したビームとその両端に取り付けた主翼、およびボード尾部の下部に取りつけた尾翼である。


全体構成イメージスケッチ

2.3 速度域と翼面積

(1)想定速度域

 翼走状態(水中翼に揚力を得てボードが浮上し水面から離れて走行している状態)になると抵抗が大幅に減少し速度増加が期待できるが、通常のウィンドサーフィンと比べて最もその性能を発揮できる速度域(風速域)を想定速度域と位置付ける。下表に各風速域における状態の予測と評価を示す。

各風速域における状態の予測と評価

速度(風速) 状態の予測 評価
微速(軽風) 翼走できず水中翼が余計な抵抗になり通常のボードより遅い。 ×
中速(中風) 離水し翼走に入る。ボード本体の抵抗がなくなって水中翼のみとなり大幅に抵抗が減るため通常のボードより速くなる。
高速(強風) 翼走状態では速度が増加すれば抗力係数は若干減るとはいえ抵抗は速度の2乗に比例して増える。しかし通常のボードはプレーニング(滑走)状態になると急激に効力係数が減少する。よってプレーニング状態の通常のボードの方が早くなる可能性がある。

上表により中速域(中風)において素晴らしい性能が発揮されると予測される。

(2)想定離水速度

 想定速度を中速域としたことから翼走できる最低速度つまり離水速度(失速速度ともいえる)を中速の少し手前にすればよい。しかし、離水速度を遅く設定すれば微風から翼走することができるがそのためには翼面積を大きくしなければならずそのぶん抵抗が増し速い速度域での性能低下を招く。逆に離水速度を速くすると高速性能に優れるが実用性に欠ける。このあたりの兼ね合いは感覚に頼ることにし筆者がこれまでウィンドサーフィンに乗ってきた経験から離水速度を4ノット(約秒速2m)と決める。

(3)翼面積

 離水速度4ノットから必要な翼面積を割り出す。つまり4ノットのときに揚力がボードとセーラーの合計重量と等しくなるような面積である。具体的な数値は「ツインダックス」の例から導き出すことにする。以下に「ツインダックス」のデータを示す。

 「ツインダックス」のデータ(ただし設計時の数値)
  ・翼面積 :前翼0.04u×2枚+主翼0.08u×2枚=0.24u
  ・重量  :120s(乗員含む)
  ・翼面荷重:120s÷0.24u=500s/u
  ・離水速度:5〜6ノット(平均値を取り5.5ノットとする)

つまり、5.5ノットのとき、1uあたり500kgの揚力を発生することになり、1uあたりの揚力と速度の関係は以下の式で現される。

    公式:揚力 = 揚力係数 × 1/2 × 海水密度 × 速度 ^2 × 翼面積 (^2は2乗)
   ここで「揚力係数 × 1/2 × 海水密度」を a とする。また、翼面積は 1 である。
    公式:揚力 = a × 速度 ^2
       1uあたりの揚力500s = a × 5.5ノット ^2
       a ≒ 16.5
    「ツインダックス」の式:揚力=16.5×速度^2

これを元にHFSBxの場合を計算する。

   離水速度4ノットのときの1uあたりの揚力は
    16.5 × 4ノット ^2 = 264s
   重量の想定は
     重量:ボード・セール20s+水中翼セット想定6s+セーラー70s=96s
   として、この全重量を浮上させるために必要な翼面積は

    重量96s ÷ 1uあたりの揚力264s ≒ 必要な翼面積0.36u

   となる。

(4)主翼尾翼比

 主翼と尾翼の面積比、すなわち重量配分は、通常全重量の大部分を占めるセーラーが中央よりやや後ろに乗ることから、主翼:尾翼=2:1程度とする。つまり、主翼は2枚あるので各翼の面積は等しくてよく、工作には好都合である。翼1枚あたりは、

   0.36u ÷ 3枚 = 翼1枚あたり0.12u

である。同じ面積でも縦横比(アスペクトレシオ)の違いにより様々な形状がある。一般的に細長く翼端の前後方向の長さが短い翼の方が翼端渦が発生しづらいため誘導抵抗が少なく効率が良いが、取り扱いや強度の面で問題がある。現段階では縦横比の設計は行わないが、あまり細長くできなかった場合翼端にウィングレットを取り付けるなどして誘導抵抗の低減を図る必要があるだろう。

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