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まるで機関車のような、という言葉がぴったりの黒々としたこの自転車は、かつて銃器を造っていた男が趣味で制作したものだ。 フレームのパイプは銃身と同じ方法で鋼の丸棒をくり抜いて作ってある。 ブレーキレバーを引けぱ弾丸の二、三発も飛び出して来そうで、配管屋は少女が乗り回すにはどうかといった顔を崩さない。 「これに乗るのはやめとけ。だいたいなぁ、お前はスピードを出し過ぎなんだよ」 「大丈夫よ。もう一週間になるけど、まだ転んだ事だってないわ。じゃ、行ってきまーす」 道具屋に配達の仕事を任されて、レンレンは上機嫌で出発する。横を走るトラックと並んだまま小さくなる後姿を、配管屋は不安げに見送った。 レンレンは機械であるから、大男の配管屋よりも重い。レンレンを乗せて、更に荷物も積んで耐える頑丈な自転車など、すでに凶器だ。 「あいつが一人で転ぶ分にはかまやしねぇんだけどよ。人にぶつかったらケガさせるぜ?全く・・また余計なモンをやりやがって」 「心配ないネ。レンレンに轢かれるとしたらあんただけだヨ」 「俺もそんな予感がするさ。だから嫌なんだ・・」 |
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| 電気パルス | |||||||
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街の南北は緩い坂になっていて、工場区のある南へ進むならペダルも軽い。 橋を渡り、コンクリート塀に囲まれた道路を走ると、すぐに修理屋の工場に着く。 本当は解体屋の工場であるのだけれど、そんな事は本人も忘れているのではないかとレンレンは思っている。 自転車は正門にとめて、守衛室横の物置からキャリーカートを出して来て、荷物を積み代えて奥に進む。 裏門にはいつも太い鎖が巻かれているので、解体屋が来ている時でないと使えない。 通路の鍵も持っていないので建物の外を行き、最後の角を曲がると、暖かい湿気を含んだ空気が流れて来て、レンレンの体に纏い付いた。 ふわり、ふわり。焼けたコンクリートが濡れた時に立ち昇る匂いがする。 白い帽子を被った解体屋が、足洗い場の水道を全開にして水を撒いていた。 「・・・何だ。裏門から入れたんだわ」 そう呟き、窓から修理屋の姿を捜すが、部屋の中はさっきまで人がいた気配もない。 工場の中でもここは一番古い建物らしく、木造校舎のような造りで壁一面が窓であるから、修理屋がいればすぐにわかる。 「ねーっ!修理屋あーっ!」 呼べば通路側の扉が開くのではないかと思い、窓に張り付いて待ってみる。 ぴしゃりと足に水滴がかかったので振り向くと、解体屋がホースの先をレンレンに向けて立っていた。 ホース口を指で潰せば、水は痛いほどの勢いでレンレンにかかるだろう。 レンレンの体は濡れても大丈夫なのに、まるで銃口を向けられているような心地悪さを感じた。 |
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「修理屋はいないよ」 「・・これ、修理屋が道具屋に注文していた物なの。中に入れていいかしら?」 そう言い終わる前に、重い鍵の束を投げて寄越された。レンレンにはどの鍵を使えばいいのかわからない。 聞こうにも、解体屋はもうレンレンを見ていない。目の前に立つのも躊躇われたので、何本も鍵穴に入れてみてようやく中に入る事が出来た。 「ふぅーっ・・重かったあ」 型番らしき番号が黒マジックでかかれたダンボール箱をどすんと机に置いて、手首を振った。 背負っていたリュックも箱の横に置いて、ちょっと一休みだ。 さっき自分が覗いたとは逆に部屋の中から外を見ると、解体屋がホースを持った腕を空に伸ばして立っていた。 打ち水とか、草木に水をやるとか、そんな目的はなく、体にかかる水の感触を楽しんでいるだけのようだ。 しばらくそうしていた後、彼は水を止めて雑にホースを片付け出した。 そして、外扉を開けてレンレンを呼んだ。 「待ってんだけどー」 「え?」 「受領書かして。ハンコ押さないと、俺、帰れないじゃん」 「あ、えと」 レンレンの反応が鈍いので、解体屋は勝手にレンレンのリュックを開けると、濡れた手で受領書を取り、修理屋から預っていた判子を押した。 「金、貯まったー?」 レンレンのリュックにくしゃくしゃと受領書を突っ込みながら、解体屋が聞いてきた。 「え?」 「あんた、よく聞き返すねー。俺、発音悪い?」 「ううん。わたしの事を聞かれると思わなかったから・・。あら?」 裏門の扉が動いて、そこから誰かが手を振っている。 門に背を向けていた解体屋も、レンレンの視線を追うようにして振り向いた。 「まだあーっ?」 短い髪をプラチナブロンドに染めた二十代半ばの女の人だ。解体屋のバイクのそばでずっと待っていたらしい。 中へは入るなと言われたのか、彼女は上半身だけを乗り出して一生懸命に手を振っている。 その様子はレンレンから見ても可愛らしい。なのに、解体屋は 『忘れてた』 そんな顔をしただけだった。 「どうして、大切にしてあげないの?」 思った事を、つい口にしてしまった。同時に、前にもこんな事があったと思い出した。場所もここだ。あの時は修理屋がいた。 そして、今日のサングラスは色が薄いので、何処を見ているかわかる。 「何?見えなかった。もう一度言って」 解体屋はレンレンを見てはいなかったけれど、レンレンの口が動くのを目の端でとらえたのだろう。 「・・・どうして、大切にしないの?」 レンレンは言い難そうに、プラチナブロンドの美人を指して言った。 言って、まともな答えが返ってくるとも思わずに聞いた自分の質問は、やはり、無遠慮だったような気がした。 解体屋はレンレンが指した方向を見て、少し目を細めた。 「ああ、あれは誰でもいいんだよ。女といるのは好きだし。すぐにいなくなるけどねー」 そして、話は終わったか?というように首を傾げてレンレンを見下ろした。 解体屋は人の話なんか聞かない。そう思い込んでいたレンレンは、呆然とするばかりだ。 「あ・・ありがと」 この場合、ちょっと違う。レンレンだってそう思ったけれど、適当な言葉が見つからない。 その様子が可笑しかったのか、解体屋は噴出すように笑った。 道具屋には一時間と経たず戻った。 「はい。受領書ね。くしゃくしゃで濡れているのは解体屋のせいよ・・・って、どうして修理屋がいるのよ!」 「仕事の報告。道具屋の紹介でやった修理がさっき終わったから 」 配管屋の大きな体が邪魔だったとはいえ、レンレンが自転車を止めた横に修理屋のバイクが置いてあったのだから、 もう少し早く気づいても良さそうなものだ。 いずれにしても、修理屋が他のメンバーと一緒になってボロ机を囲んでいるのは珍しい。 「何だ。ここへ寄るなら自分で荷物を運べたんじゃない」 「重いから」 「わたしだって力は人並みなのよ。まだ修理屋のほうがあると思うわ」 「お前なぁ・・せっかく修理屋が」 「配管屋。余計な事は言わなくていい」 このところ、レンレンは一日中道具屋にいて、配達の仕事を待ち構えている。そうしていても、全く仕事がない日だってある。 ヨシザキの遺産を使わないで買いたい物というのが何かは知らないが、修理屋はレンレンの稼ぎに協力してやっているのだ。 それは、仕事が上手くいかない娘の手助けをしてしまう父親のようで、十三歳の少年としては不本意といえよう。 ■NEXT (電気パルス 2)■ ■オリジナルTOP■ |
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