ここは、かつて土地不足のために上へ上へと建増しを続けた街。

人口が激減した今も、取り壊すのが困難という解かり易い理由で、半廃墟な高層アパートや雑居ビルがそのままになっている。

動力資源不足でエレベーターは動かず、人々は下の階に固まって暮らしているのが現状だ。

最上階から見える景色を知らず、それを不満とも思わず、住処が風に少しずつ削られるように、いつか、自然に朽ちて崩れ果てるまで。
修理屋と客
まるで、ロールプレイングゲームだ。

『修理屋を捜しているのなら、虫屋に聞いてみな』 と、虫屋の居場所を教えてくれる。

『修理屋を捜しているのなら、配管屋に聞いてみな』 と、配管屋の居場所を教えてくれる。

そんなことを六回も繰り返して、ようやく挽屋にいた男が先へ進める情報をくれた。

『修理屋を捜しているのなら、旧憲兵司令部下士官アパート前に行ってみな』

少し聞き取り難い話し方だったけれど、わたしが広げた地図にマルを打ってくれた。渡したペンは先が潰れて返ってきた。

呆然として裂けたペン先を見つめたが、当然、元には戻らない。

ヒヨコ模様が可愛いお気に入りのペンだったので、すぐ捨てる気にはならず、またペンケースにしまう。



アパートはよく知っている道沿いにあった。

門柱に彫られた文字は、溝に塗られた色が殆ど剥げていた。勿論、当時のままだから、旧という文字はない。

鉄柵はコンクリートの門柱に蝶番だけを残してなくなっていた。人が住まなくなったアパートのひとつだろうか。

敷地の中を覗くと、正面玄関前の階段に彼がいた。



「ようこそ」



わたしは、ここに来るまで、修理屋がどんな人間であるかを想像したつもりはない。

老人であろうが、中年であろうが、学生であろうが、今、目の前にいるような子供であろうが、噂が本当ならそれでいいのだ。

修理屋は片方の目が緑色である他は、これといって特徴のない顔立ちをした男の子だった。

「あなたが修理屋なら、これを直せる?」

「直せというなら直すよ。ただし、これは難しい仕事になるから、それに見合う料金を取るよ」
修理屋はカゴの中で動かない小鳥を、一目見るだけでそう言った。

青い宝石と金で作られた小鳥の中身は精密機械。細工師は百二十年も前に亡くなっていて、今ではこれを作れる職人はいない。

けれど、機械なら何でも直す男の話を耳にして、わたしはその噂を追いかけた。

わたしは彼が必要なのだ。どうしても、どうしても、必要なのだ。



やはり、ロールプレイングゲームだ。

修理屋に解体屋の所で鍵を借りて来るよう言われた。どうして、こう、いちいち手順を踏まないとダメなのだろう。

解体屋は何処かと訊ねると、修理屋はわたしが最後に会った男だと答えた。いいや。最後に会ったのは挽屋にいた男だ。

そう言うと、昔は持ち込まれた肉を挽くだけの商売をしていたのでそう呼ばれたが、今は違うとの事。

思い出した。それは教えられた場所の、わたしが知っていた呼び名だ。

「ああ、五番目の人も解体屋って言ったっけ」

「そう。あんた、されないように気をつけなよ」

にこりともしない子だ。冗談を言うタイプには見えないので、どう反応していいのかわからなかった。
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集合住宅の一階にある店の奥で、さっきの男が大きな肉の塊を解体していた。

前髪を小さな女の子がするように横で結んでいる。

邪魔だというなら、もっと他にやりようがあるだろうに。

窓ガラスを叩いて呼ぶと、男は特徴ある眠そうな目をこちらに向けた。

妙な形の包丁を手にしたまま出て来られたので、思わず後ろに下がってしまった。

「鍵?・・・へぇ、あいつ仕事受けたんだー」

解体屋はそう言って配電盤の扉を開けると、中から鍵束を取り出した。

直径五センチ程のくすんだ色をした金輪に、大小十以上の古鍵が付いている。

「それ、全部持って行って。好きに使えって言っといてよー」

どうやら、解体屋は修理屋が仕事をする場所の持ち主らしい。

管理人かもしれない。仕事を兼ねるのはよくある事だ。

だけど、そんなことは、わたしにはどうでもいいから考えない。

じゃらりと重い鍵束を手に、わたしは急いで修理屋の所へ走った。




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