+++ 彼の知らない彼女の事情 +++


調理場の使用はハイ・ヨーに交渉了解済み。

紙袋を抱えた女のコたちが、ぱたぱたぱたと集まって来た。

『本日は勝手ながら休業致します』

レストランの入り口に立てられた案内には、そう書かれている。

にも関わらず、入って来た男が一人。

「あんたが空腹だろうが満腹だろうが知ったことじゃないわよっ!

 掲示板をちゃんとチェックしてないあんたが悪いんでしょ、二月十三日休業の事は何日も前から書かれてあったわよ。

 こっちはハイ・ヨーさんに許可もらってんですからねっ!ホラホラホラホラ、出て行った出て行ったあっ!!」

ニナが突っ張り突っ張り、ビクトールの巨体をレストランから押し出す。調理場まで入って来られては困るのだ。

「ニナさん・・すごい・・」

調理場から覗いていたアンネリーに、ニナは親指を立ててウィンクして見せる。

ここに集まったのは十代の少女たちを中心に二十八人。

戦闘員もいれば非戦闘員もいる。出身地に至っては見事にバラバラの彼女達に共通している事はただ一つ、

『本命チョコをあげたい人がいる』

だった。


「へへ・・バレンタインデーって、僕の故郷じゃ聞いたことないから、ヒックスも知らないだろうなあ」

パキパキと板チョコを割りながら、テンガアールが照れたように言う。

「大半は知らなかったみたいね。材料が足りないから義理抜き本命のみってコトにしたんだけど、よくこれだけ集まったわね・・・・・」

本日の主催者、ニナは周囲を見回し、そして言葉を続けた。

「ま、何事もきっかけが大事よ」

甘い香りと、時折、悲鳴。大騒ぎしているようで、皆、表情は真剣。勿論、その中にはナナミの姿もあった。




+++




その日、まず彼が思った事は、

(・・・・・?今日は随分と誕生日の者が多いな)

だった。



マイクロトフが妙な視線に気づいたのは、中庭に面した外廊下を歩いている時。

振り向くと、五本向こうの柱の影に、さっと隠れるナナミが見えた。

「ナナ・・?」

近寄ろうとすると、パッと走って逃げられた。

ひゅるるるる・・

絶妙のタイミングで、彼の足元に風が吹く。

無視された、というのとはちょっと違う、でも・・?

しばし呆然としてしまったが、いつまでも立ち尽くしているわけにもいかず、再び歩き出した。

こちらをうかがうナナミの気配は、同じ距離をとったままで、ついて来ているのが分かった。

用があるのに、話かけられない、そんな感じである。

彼女に警戒される覚えはないが、気づかぬ内に何かヘマをやらかしたのかもしれない。

(振り向いたら、また逃げられるか・・)

立ち止まったマイクロトフにハッとして、ナナミは彼の横に位置する柱の五本後ろに隠れた。

彼は自分の横の柱にもたれて、待つ事にした。彼女から寄って来る事を。

(俺は、何かしたか?最後に話した時から今日までに何かあったか?)

思い当たる事など全く無い。

彼女の気配は、柱一本ずつ、ゆっくり近づいて来る。 






すぐ後ろで、かすかな足音が止まった。



( 2001.2.13作品 )



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