+++ 時は、流れて +++ 












「わたし、その、男の人とおつきあいするのって初めてだから、よくわかんなくって、そしたらニナちゃんが、

 最初はお弁当を作ったり、そういう事から始まるんだって、あの、だから、これ」


やたらと言葉を区切りながら、一生懸命に話すナナミは可愛かった。

しかし、その気持ちだけを受け取っておきたかった心底に。

弁当箱は妙にずっしりと重く、ルックは開けてみずとも中身の普通でなさを感じ取った。


「・・弁当は飛ばしていいよ。次の段階に行って。で、次は何をすればいいって教えてもらったの?」

「あ、まだ聞いてないの。きっ・・聞いて来るねっ」


くるりと背を向け、駆け出そうとするナナミの腕を掴む。

「冗談だよ」

「・・えへへ。ルックくんも冗談言うんだ」


手は、すぐに離した。

こういう場面を 『たまたま』 通りかかり 『タイミングよく』 見てしまう 『生と死を司る紋章』 の所持者を警戒して。




+++




湖からよせる風は、いつも強く吹いていた。

沢山の洗濯物が旗のようにはためく中、すっかり渇いたそれを取り込みつつ、ナナミは小柄な友人に聞いて見る。


「アンネリーちゃん、あのね、体重聞いていい?」

「わたし?この前測ったら四十一キロだったけど」

「・・・だったら、シロウさん軽々ね」

「?」


突然、何を聞いて来るやらなナナミに、アンネリーは首を傾げた。


「あのね、昨日、サウスウィンドゥでウェディングドレスを着た女の人を抱っこして家の中に入る男の人を見たの。

 わたし、結婚式って見た事なくて、変わった服を着ているなあと思って、一緒にいたテンプルトンくんに聞いたの。

 そしたら、そう。あの人たち、今日が結婚式だったんだよって。

 とても幸せそうだったのよ。だから、いいなあって。でも、わたし、重いから無理かも・・・」

「ナナミちゃん。問題は、相手がそういう事をやってくれる人かどうかなのよ。

 お姫さま抱っこで新居入りは段取りとして絶対必要なわけではないもの。いわば、オプションよ」


確かに、シロウなら穀物袋を肩に担ぐ要領でアンネリーを運びそうだ。

ならば、ルックならどうか。ナナミは目を閉じその図を思い浮かべようとした。


「・・・・・・・・・」


がっくしと地に両手をつくナナミとアンネリー。

そんな二人の後ろから、我慢できずに噴出してしまったという笑い声。

振り向くと、緑のバンダナをした少年が、お腹を抱えるようにしてうずくまっていた。


「ご・・ゴメン。立ち聞きするつもりはなかったんだけどね」

「やっ・・やだっ!ルックくんには・・あの、絶対っ」

「うん」


少年は唇に人差し指を当て『言わないよ』と片目を瞑った。




+++




人は増え、様子がだんだんに変わる城の中で、嘘のような、夢のような、そんな日々を過ごした。

矢がその身を貫き死ぬなんて事もよくある、まあ、そんな時を生きていた。


風は、いつも強く吹いていた。




+++





「キャロまでいけるか?」

「いけるよ」

「手を」

「いい。もう、誰も触らないで」


ルックはシュウの手を拒み、ナナミを抱きかかえると、すぐに転移魔法を使った。

一瞬にして、人がしばらく住んでいなかった家の気配につつまれる。

二人分の体重を受けて、床が鳴った。




ギシッ・・ギシッ・・




「わたし、重くてごめんね」

「軽いよ。あんた」

     

ギシッ・・    
     


「最後の言葉を、考えていたの」

「あんたは、助かるんだよ」

「うん・・だけど、さよなら」



さよなら。

この瞬間を知ってた。


本当は、知っていた。




恋をしたあの日から、ずっと、その覚悟を黙ってた。





+++







十六歳の普通の女の子でしたよ。

おしゃれに興味をもって、友達と遊んで、好きな人がいて。


十七歳の、普通の男の子でしたよ。

一番に思い出すのは、遠くから見た時の、少し癖のある歩き方です。

何故、そんな何でもない事なんでしょうね。


あの頃、わたしの周囲にいた人々は、皆、最後に見た姿のまま記憶に残っています。

何人かは、今も当時と変わらないのでしょう。

ただ、皆に等しく過ぎた十五年という歳月が、それぞれに幸せなものであった事を願うばかりです。


ええ、今も何処かに、少年の姿でいるだろうあの人にも。











あなたは、誰ですか?









++++++++

(2002.10.25作品)


3のゲームの直前だと思って頂ければ。セラがナナミを訪ねて来たという設定でした。
ルック編やってないので3絡みな話を書くのは危ない(笑)んですけどね。
以下は当時のコメントです。

キリリクはルクナナSSで『お姫様抱っこ』モノでした。
問題はどうやってルックにお姫様抱っこをさせるかでした。
足を挫いてとかはイヤだったんですが、結局ありがちな展開に(汗)
甘々は苦手なものでスミマセン。あと、趣味でアンシロ入れてしまいました。
実力不足には素直に頭下げるとして、楽しんで書かせて頂きました。
・・・・そろそろ坊ちゃんに名前つけようよ私(笑)

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