入り口に立たれたままで、他へ通じる扉はなし。シードは、いざという時は窓から逃げようと思った。




「だから、ね?こーんなジュースみてーな酒で酔うなんて思わねーじゃん?」

机の上に置かれた瓶は、クルガンにも見覚えがあった。遠方からの客にもらった土産だ。
梅の実で作ったというその酒は、酒としては物足りないけれど、夏場は冷やしてシードのジュース代わりになっていた。


「ナナミサンにさあ、『あ、懐かしい。それね、ヤム・クーさんに少しだけもらった事があるのよ。美味しかったなあ』って言われたらさあ、
 『んじゃ、少し飲むか?』って勧めるだろ?人としてさあ」

ヤム・クーがナナミに飲ませたのは薄くして本当に子供でも飲める程のものだった。
やはり夏で、冷やしたそれを、小さなコップに一杯だけもらった。
そんな事をシードが知っているはずもなく、水で割りはしたけれど、ナナミには濃かったのだ。
くたりとソファの背もたれに体を預けているナナミは、眠い子供のようにほんのりと頬が赤く、目がぽうっとしている。


「おかえりなさいぃーませっ」

きゃはははは!という甲高い笑い声が続く。
泣くか、笑うか、絡むか、どのパターンであるにせよ、酔っ払いというのはろくなもんじゃない。


「・・・さっさと寝かし付けましょう。寝て、目が覚めた時には酔いも覚めているでしょう」

腕を引っ張り、立たせようとするが、足に力が入らないのか床に座り込んでしまった。
仕方なく抱き上げる。


「オマエね、それ、お姫様抱っこじゃなくて、子供抱きだから・・」

何を言っているんだかという目でシードを振り返ったその時、ナナミは両手でクルガンの頭を自分の方にぐいっと向けた。






「はい、ちうして」






ゆっくりとシードに顔を向けるクルガンと同じ速度で、シードは彼から視線を逸らす。


「・・・お前、これ、言われたんですか?」
「してないから」

言われたんだなと、眉間に手をやる。
そしてその手でシードの襟を掴んだ。いつもいつも逃がしてたまるかというように。


「ちうはぁー?」

ぺちぺちとクルガンの顔を叩き、自分の方に向かせようとするナナミに、溜息をつき答える。


「とりあえず、寝なさい。寝て、起きて、それでも同じことを言えるならその時に」


(2003.9.28作品)

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