研究ノオト60 政治権力とは

2004/05/23 第1稿

 

【テクスト】

 

丸山眞男「政治権力の諸問題」『丸山眞男集』第6巻所収(初出1957年)。

 

※部分部分、とばしたりしているところがありますが、後日埋めたいと思います。

 

【目次】

 

00 (はじめに)

01 社会権力と物理法則

02 権力の実体概念と機能概念

03 権力状況の与件

04 政治権力の構成と諸手段

05 政治権力の発展傾向(略)

 

(以下略)

 

【内容】

 

00 (はじめに)

 

01 社会権力と物理法則

 

物理的な力の函数関係やそこから導き出される諸法則は、社会における力の均衡や力の作用に関しても当てはまることは少なくない。しかしそれはあくまで「示唆」であって、自然と社会の相違を前提に置いて、極端に当てはめるようなことは避けるべきである。

 

02 権力の実体概念と機能概念

 

実体概念とは、権力関係の背後にはなんらかの権力そのものという実体が存在するとみなす考え方である。関係概念(機能概念、函数概念)とは、権力とは特定の状況下の人間や集団の相互作用関係の中で生じるものであるとみなす考え方である。

 

実体的権力概念に依拠すると、権力のありようを抽象的、制度的に把握して、個別具体的な問題を離れてより一般的な権力論を社会全体、あるいは社会の様々な単位や分野に対して展開することが可能になる。

 

実体的権力概念の難点は、権力を行使し、権力を行使されるそれぞれの側の固有の状況や事情や価値によって、権力関係のあり方が変わってくるということを考慮に入れない傾向がある。これに対して関係的権力概念は、人間集団観の自己評価と他者評価の無限の往復過程を前提として、そこで多様かつ様々に展開される複雑な関係性を描き出すことが可能なのである。

 

マルクス主義的な政治の把握は、国家論においては実体論を超えた内容を持っているが、政治制度論においては実体論にとどまっているところがある。しかし革命的実践の組織論においては、指導と被指導の相互関係や大衆の動員などの面で関係概念的な考察もみられる。とはいえそれは微視的であり、国家論と政治過程論の総合も、権力論におけるマクロとミクロの総合も、十分にはなされていない。

 

制度や機構は人格相互関係をその根底に持っている形態化された循環過程に他ならない。しかし制度も機構も実体概念的に抽象的に把握し尽くせるものではなく、組織内外での公式、非公式な権力関係のダイナミズムを十分把握して分析しなければならない。

 

03 権力状況の与件

 

人格相互作用から権力を分断することによって、人間関係が権力関係に移行するダイナミクスを解明できる。その前提として、人間の価値が多様であり、その量が希少であるという基本的事実が存在する。つまり、希少である価値配分を行うために、人間関係を統率しなければならない必要が生じたときに、権力関係が生まれてくるのである。

 

権力は価値の配分をコントロールするものであると同時に、それ自体が価値である。したがって、他の価値を統率するための権力それ自体を獲得することが権力関係の争点になり、手段が目的化していくという現象が生じ、その結果として重大な価値が脅かされることで、さらに権力の凝集が強まることもあり、それを巧妙に利用する勢力も存在する。

 

政策とは、価値の生産、獲得、維持、配分に冠する目標と、その実現のための方とである。政治過程とは、広義においては政策一般、狭義においては政治政策が権力関係を通じて形成され実現される過程である。

 

政治過程は厳密には、権力価値の増大や配分を自主的に決定する議会、行政首脳部の行動のみをさす。しかし、外部の主体が政治過程に参与したり、政治団体と化して参加したり、あるいは政治団体に移行することなく、政治過程に参加することもあり、そうした社会集団が権力状況において様々に果たす役割を含めて、政治過程を分析しなければならない。

 

04 政治権力の構成と諸手段

 

政治における権力の単位とは、政治権力をめぐる闘争に日常的かつ主体的に参与する主要な組織集団をさす。それは具体的には国家、超国家組織、正当、政治的秘密結社などである。それらは、中枢の指導部、指導部を補佐するエリート、エリートに従うアクティブ、非日常的に参加する一般成員によって構成され、それらは内外における権力関係を持続的に再生産しようとする。

 

政治権力の機能は、三権分立といった伝統的区分よりも、政策やイデオロギー立案、戦略・先述立案、情報関係、資金調達、渉外、暴力、などに分類できる。それらが複合的かつ円滑に行動することによって全体のエネルギーが高まる。権力の手段は、通常社会的統制の手段と重複しており、暴力、経済、理性的合理などである。いかなる非暴力的な統制にも純粋なものはなく、その背景にはアメとムチが混在している。

 

(マニピュレーションとアパシー、「収穫逓減の法則」の話)

 

05 政治権力の発展傾向(略)

 

【コメント】

 

フーコー以後ということで杉田さんの論文を中心にやってきましたが、ここで一度先祖帰りということで、丸山眞男に戻ってみました。ダール以降の主体間権力概念、そしてナイのソフト・パワー論とのかかわりにおいて分析が必要なバクラッツ&バラッツなどが出てくる直前の時期の議論という位置づけから、植手さんの解説での議論などを併せて読んでいくと、示唆が多い論文です。同じ巻に収録されている『政治学事典』用の記述も重要かと思います。

 

 

(芝崎 厚士)

 

 

 

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