研究ノオト50−2 気流の鳴る音(I)
2003/08/05第1稿
【テクスト】
真木悠介「I カラスの予言—人間主義の彼岸」『気流の鳴る音』ちくま学芸文庫、2003年。
【目次】
I カラスの予言—人間主義の彼岸
1 「世界」と<世界> 4つの象限
2 草のことば・魚のことば
3 おそれる能力
4 「擬人法」以前
5 バベルの塔の神話
6 <トナール>と<ナワール>
【内容】
I カラスの予言—人間主義の彼岸
1 「世界」と<世界> 4つの象限
カスタネダの4部作から析出される4つの主題は、
I 「世界」からの超越(彼岸化)&<世界>への内在(融即化)
カラスの予言—人間主義の彼岸
II 「世界」からの超越&<世界>からの超越(主体化)
「世界を止める」—<明晰の罠>からの解放
III 「世界」への内在(此岸化)&<世界>からの超越
「統御された愚」—意志を意志する
IV 「世界」への内在&<世界>への内在
「心のある道」—<意志への疎外>からの解放
として定式化できる。
2 草のことば・魚のことば
カスタネダとの初期の出会いにおいて、ドン・ファンはカスタネダが「あらゆるものから切り離された自分」しか見えておらず、「自分は世界で一番大事な物だなぞと」思っていると指摘し、草や鳥に話しかけ、声を聞くレッスンをする。ドン・ファンには共存する全体性へのバランス感覚があり、そうした感覚のないカスタネダとは根本的な価値感覚のずれがある。ヒューマニズムはヒューマニズムを超える感覚によって初めて支えられるのである。このずれは水俣の漁民とチッソや政府といった資本制との間のずれと相似形である。
3 おそれる能力
カラスの予言、を生みだす母胎は、すべての物事の調和的・非調和的な連動性であり、自己をその一片として感受する平衡感覚、<感覚としてのエコロジー>である。
4 「擬人法」以前
カスタネダとドン・ファンの「死」をめぐる問題から見出しうる<人物格区分政策>的な発想は、自然と人間とが透明に交流する世界に生きるドン・ファンにとっては最も縁遠いものである。
5 バベルの塔の神話
バベルの塔が示唆するように、文明人は言語へと疎外され、さらに言語から疎外されることで、感受性と交信能力を自己限定してしまっている。
6 <トナール>と<ナワール>
トナールやナワールに対する従来の文化人類学的理解はナンセンスであるとドン・ファンは言う。ドン・ファンによれば<トナール>とは「世界」、すなわち間主体的(言語的・社会的)な「世界」の存立の機制である。そして<ナワール>とは<世界>、複数の<トナール>(「世界」)、他者・自然・宇宙と直接に通底し「まじり合う」我々自身の本源性である。
【コメント】(後日まとめて行います)
(芝崎厚士)