演習室27 グローバリゼーションと国際システム

Seminar27 Globalization and International International

2001/12/18 第1稿

 

【テクスト】

 

山本吉宣「国際システムの変容−グローバリゼーションの進展」『国際問題』2000年12月号、2−21ページ。

 

【目次】

 

はじめに

1 経済、政治、社会、文化−1つの枠組み

2 グローバリゼーションの位相

 (1)経済

 (2)価値体系、文化

 (3)「社会」、制度

 (4)政治

 (5)四つの分野の相互作用

3 グローバリゼーションの歴史的位置−新段階、長期的な趨勢、長波、変化なし

コンテナを超えて−むすびに代えて

 

【内容】

 

はじめに

 

 本論文の目的は、グローバリゼーションの進展に伴う国際システムの変容を考察することである。

 

1 経済、政治、社会、文化−1つの枠組み

 

 アルブロウ、ギデンズ、ショルテ(国際化、自由化、普遍化、西欧化、非領土化)などの議論に見られるように、グローバリゼーションの定義は多種多様である。グローバリゼーションを体系的に把握するために本稿では、パーソンズの社会システム論におけるAGIL図式を利用する。

 

 パーソンズのAGILとは、第一に「体系の統合:system integration(I)」、すなわち「社会」、あるいは制度、第二に「潜在的なパターンの維持及び緊張の処理latency (L)」、すなわち文化、価値体系、第三に「目標達成:goal attainment (A)」、すなわち政治、第四に「適応機能:adaptation (A)」、すなわち経済、である。社会システムはこれらの四つの機能によって維持されるのである。国際システムは社会システムの一つであり、その階に位置する国家や企業などもまた社会システムと見なすことができる。

 

2 グローバリゼーションの位相

 

 (1)経済

 

 経済が地球規模で一体化していくことによって、生産/販売システム、貿易、国際金融、情報などの分野において、超領域的なグローバルなシステムが成立してきており、そこではグローバルなスタンダード化が押し進められている。国家や企業は、グローバル・システムに対峙しつつ、自由化・効率化を進めて競争に適応しようと努力している。

 

 マーケットを主な舞台とするグローバル・システムは、不安定性も抱えており、国際レジームは経済の自由化と同時にシステムの安定性を確保するためにも形成される。グローバリゼーションが進展することによって経済攻勢は全体として増大するものの、国家間、国内格差は拡大する可能性を孕む。

 

 グローバリゼーションが進展することによって、第一に集団間の格差がますます拡大する。第二に、格差の構造としての中心−周辺構造が国家単位ばかりではなく、トランスナショナルな階層によっても構成される。第三に、第三世界が冷戦期と異なり、貿易先・投資先としての魅力を持たない場合、単に援助の対象となるか、もしくは「法規」の対象となってしまう可能性がある。さらに、国家が「情報国家」と「身体国家」に分化する可能性があるが、途上国などはそうした分化にさえ適応できない場合もありえる。こうした格差の増大に取り組むためのグローバルな再配分システムの構築も必要となる。

 

 グローバリゼーションの進展によって、工業化が地球規模に拡大することで環境問題の深刻化、資源の枯渇などといったグローバル・イシューが課題となる。

 

 (2)価値体系、文化

 

 価値・規範・文化の面に関するグローバリゼーションは、まずネオ・リベラリズム(自由主義市場経済、経済効率化、規制緩和)、民主主義、人道、人権、ジェンダー、環境、グローバリティという地球意識の現れ、などが代表的である。

 

 しかし、それらの価値の普遍化に対しては妥協や抵抗があり(「アジア型人権」、伝統の崩壊とアノミー状況、「文明の衝突」など)、必ずしも安定的ではない。さらに、(1)ネオ・リベラリズム、(2)人権/人道、(3)環境という価値は相互に整合的ではない。こうしたそれぞれの価値や信条体系の葛藤や対立を緩和・管理するシステム(たとえば対話、議論、相互理解)が必要となる。

 

 (3)「社会」、制度

 

 国際レジームの形成やいわゆる国際システムの「法律化(legalization)」に見られるように、国際システムの制度化は様々な形で浸透している。それは国家間に限らず、国際組織、多国籍企業、NGOなどの主体が絡み合っている。特にNGOの量的増加、役割の活発化は近年の傾向で(たとえば知識共同体(epistemic community)の形成など)、国際的なNGOのネットワークとしてのグローバルな市民社会が成立しつつあるという議論もある。また、NGOだけでなく、国家も含めた様々な主体がそれぞれの問題領域における役割、ルール、慣行を作っていくというグローバル・ガヴァナンスも展開されている。

 

 ただし、NGOのほとんどは(西欧)先進国発であり、NGOの隆盛は経済・価値体系における西欧先進国の優位性を裏書きしているとも言える。

 

 (4)政治

 

 グローバリゼーションと国際政治は相互作用的である。国際レジームの形成をめぐる国際政治は、従来の一国の国益追求の要素よりもむしろ、国際システム全体の目標追求という面が強い。その意味で、新しい国際政治のあり方が生まれつつあると考えることができる。もちろんそこで決定されることはさまざまな葛藤や対立を孕んでおり、そうした争点をめぐる角逐がグローバルな空間の中で展開される。特に問題になるのはいわゆる「民主主義の負債(democratic deficit)」、すなわち国際レジームの形成によって大きな影響を蒙る人々が政策決定・意志決定に関与できないという事態が生じていることである。

 

 伝統的な国際政治観は、国際システム全体の利益や目標という面からも、多様な主体の面からも変容を迫られており、さらには国家主権(クラズナーの研究ノオト参照)も部分的に溶解してきている。とはいえ、国家主権は完全には失われておらず、また開発途上国は主権を武器にしてグローバリゼーションに対抗しようとしている。

 

 国際的な安全保障システムも、グローバリゼーションの進展によって大きな影響を受けている。戦争のコストは著しく高まっており、「民主主義の平和(democratic peace)」といった議論はそうした認識にもとづいている。一国の個別の安全保障や友−敵関係に基づく安全保障から、関係あるすべての国を含んだ集団的・協調的安全保障への模索が進展している。また、戦争、特に内戦の形態は大きく変化しており、国内と国際の区別は不明瞭である。

 

 国際安全保障の世界的な構造は、

 

 第1層:「経済が高度に進み、権威が様々な主体に分散し、グローバリゼーションに柔軟に適応しており、相互の戦争がほとんど考えられない先進国の層」

 第2層:「国家はしっかりしており、経済的にも急速に発展する国々」

 第3層:「国家の機能が著しく弱く、経済的にも脆弱」「国内の不安定、内戦の可能性が高い」

 

 という見取り図で理解でき、現在はこれら三層すべてを取り込むような安全保障、経済協力が進められている。

 

 とはいえ、第二層の国家間、第一層と第二層の国家間、第三層の内戦、といった形で戦争の可能性は存在している。各国は武装権を持ち軍事力を整備し、情報革命は「RMA(Revolution in Military Affairs)」として大きな影響を与えている。確固たる集団安全保障が確立されるといった状況は未だに見えてこない。

 

 (5)四つの分野の相互作用(略)

 

3 グローバリゼーションの歴史的位置−新段階、長期的な趨勢、長波、変化なし

 

 国際システムの変容を捉える議論として、代表的な議論は4つある。

 

 第一の議論は「段階論」とでも言うべきもので、前段階と現段階の質的な相違を想定する。グローバリゼーションはまさに「新段階」であり、90年代の国際システムの特徴である、ということになる。

 

 第二の議論は「長期的趨勢論」とでも言うべきもので、技術革新や規範の拡大は以前から継続している傾向であって、グローバリゼーションは資本主義成立以降の長期的趨勢に沿った現象である、ということになる。

 

 第三の議論は「サイクル(長波)論」とでも言うべきもので、類似の現象が一定の法則性を持って現れるということになる。コンドラチェフの波などに見られるような、政治や経済の興隆や衰退のサイクルからみれば、グローバリゼーションは長波の上昇期にみられる現象の一つということになるし、今後下降する可能性も否定できないと言うことになる。

 

 第四の議論は「変化なし論」とでも言うべきもので、国際政治は依然として国家の国益追求であり、グローバリゼーションは世界資本主義の拡大であって、国際政治の背景要因の変化でしかない、ということになる。

 

 グローバリゼーションに関しては「新しい段階論」が主流ではあるが、実際にはこうした四つの要素を重層的・複合的に検討していくことが必要であろう。

 

コンテナを超えて−むすびに代えて

 

 ベックが「コンテナ理論」と呼んだように、パーソンズのAGILは国家という単位の中に閉じこめられていたのであるが、今日、グローバリゼーションによってそのコンテナは開かれている。コンテナ理論を超えることは、現実の問題を解決する上でも、学問的にも、われわれが引き受けなければならない要請である。

 

 

 

【コメント】

 

(芝崎厚士)

 

 

 

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