早川義夫


ぼくが初めて聴いた早川義夫さんの歌はジャックスの「からっぽの世界」でした。
正直、その時は暗い歌だなあと思いまして、何か深いものがありそうな気もしましたが、積極的に聴くこともないと思いました。
早川さんのソロ作品はは友だちがはまっていたのでそのうち聴く機会があるんだろうなあと思っていました。
ぼくの心に初めて響いたのは、TV番組で大槻ケンヂさんが早川さんの歌に合わせて歌ってるのを見たときでした。
そのとき歌った歌は「この世で一番キレイなもの」という歌でした。

「この世で一番キレイなもの」

弱い心が 指先に伝わって
痛々しいほど ふるえてる
みんなの前で 裸になって
縮こまってる みじめな僕

なぜに僕は 歌を歌うのだろう
誰に何を 伝えたいのだろう
もっと強く 生まれたかった
しかたがないね これが僕だもの

この世で一番 キレイなものは
あなたにとって 必要なもの
僕らを包む 壮大な宇宙
ひとしずくの泪 求めあう命

キレイなものは どこかにあるのではなくて
あなたの中に 眠ってるものなんだ
いい人はいいね 素直でいいね
キレイと思う 心がキレイなのさ

それ以降、早川さんのいろんな歌を聴き、心に響く歌がたくさんありましたが、「この世で一番キレイなもの」だけでも充分でした。
くよくよしないで元気出そうぜ!という励ましの歌はけっこうありますが、早川義夫さんの歌は弱いのなら弱い所を、情けないのなら情けない所をそのまま出してきます。

「この世で一番キレイなもの」は同名のアルバムの最初の曲ですが、そのアルバムの最後に入っている「いつか」は早川さんの歌、生きること、に対する姿勢が表れています。

「いつか」

誰もが 心の中で 歌を歌ってる
本当のものをつかむため

沈黙の中で 血が騒ぐ
空にいっぱい 夢を描き
僕はじいっと待っていた あふれてくるのを
まっすぐな声で 歌うことを
生きてゆく悲しみ 生きてゆく喜び

いつだってひとりなんだ 涙を落とせ
終わってはいないさ もっと叫べ もっと歌え

何も変わらない 時が流れて行く
弱さが 素晴らしいのさ

どんなに飾っても 隠しきれない
心の底が 見えてしまう
人は見えた通りの ものでしかない
弱い心が 痛みを感じて
やさしさはそこから 生まれてくるのだ

みにくさやいやらしさを 素直にあらわせ
やさしさを歌おう もっと見つめろ もっと歌え

心を立たせろ 虹を立たせろ
言葉を立たせろ 音を立たせろ
足りないのではなくて 何かが多いのだ
愛を歌え 願いを歌え
美しいものは 人を黙らせる

大空に映し出せ 鏡に向けて吠えろ
それが生きること もっと身を削れ もっと捨てて行け
もっと突き詰めろ もっと歌え

早川義夫さんはジャックス解散後から二十数年間、早川書店という本屋さんを営んでいました。
早川さんは、歌を歌わなかった二十数年間も「歌っていたんだね」と思われるように今歌いたい。
今、輝くことができれば、過去も輝くことができる。とアルバムの中に書いています。
そして「この世で一番キレイなもの」で復活後はたくさん歌っています。

恋をしていいのだ。叫んでいいのだ。歌を作っていいのだ。恥をかいていいのだ。答えはなくてもいい。答えを出すために生きているのだ。僕たちは生きている最中なんだ。

好きな人の前では本当のことを言おう。好きな人の前ではいっぱい恥をかこう。

伝えたいことと、伝えたい人がいれば、才能がなくとも、歌は生まれると、僕は、今でも、思っている。