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高田渡
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高田渡さんの歌を聴いていたら涙が出そうになりました。 自分と直接は関係ないような世界の詩でも高田渡さんの歌を通して聴くと、 しみじみと心の中にしみ込んできます。 「ブラザー軒」 東一番丁、ブラザー軒 硝子簾がキラキラ波うち、 あたりいちめん 氷を噛む音。 死んだおやじが入って来る。 死んだ妹をつれて 氷水喰べに、 ぼくのわきへ。 色あせたメリンスの着物。 おできいっぱいつけた妹。 ミルクセーキの音に、 びっくりしながら。 細い脛だして 細い脛だして 椅子にずり上がる 椅子にずり上がる 外は濃藍色のたなばたの夜。 肥ったおやじは小さい妹をながめ、 満足気に氷を噛み、 ひげを拭く。 妹は匙ですくう 白い氷のかけら。 ぼくも噛む 白い氷のかけら。 ふたりには声がない。 ふたりにはぼくが見えない。 おやじはひげを拭く。 妹は氷をこぼす。 簾はキラキラ、 風鈴の音、 あたりいちめん 氷を噛む音。 死者ふたり、つれだって帰る、 ぼくの前を。 小さい妹がさきに立ち、 おやじはゆったりと。 ふたりには声がない。 ふたりには声がない。 ふたりにはぼくが見えない。 ふたりにはぼくが見えない。 東一番丁、ブラザー軒。 たなばたの夜。 キラキラ波うつ 硝子簾の、向うの闇に。 「生活の柄」 歩き疲れては 夜空と陸との隙間にもぐり込んで 草に埋もれては寝たのです ところ構わず寝たのです 歩き 疲れては 草に埋もれて寝たのです 歩き疲れ 寝たのですが 眠れないのです 近ごろは眠れない 陸をひいては眠れない 夜空の下では眠れない ゆり起こされては眠れない 歩き 疲れては 草に埋もれて 寝たのです 歩き疲れ 寝たのですが 眠れないのです そんな僕の生活の柄が 夏向きなのでしょうか 寝たかと思うと寝たかと思うと またも冷気にからかわれて 秋は 秋は 浮浪者のままでは眠れない 秋は 秋からは 浮浪者のままでは眠れない 歩き疲れては 夜空と陸との隙間にもぐり込んで 草に埋もれては寝たのです ところかまわず寝たのです 「風」 ほんとのことが 言えたらな 目が見たことを 言えたらな 想ったことを 便りに書けたらな 頭の上を 吹く風よ 仲間が今何をしているのか 聞かせてくれ 彼は 何を 見てるのか もう一人の彼は 何を考えているのか 遠くの彼は誰と 心通じているのか あの人の目は 何を 見ようとしていたのか そんな気持ちが歌に 歌えたらな 優しさが 音に 表せられたらな そしたら 僕は 僕になれるのにな ほんとのことが 言えたらな 目がみたことを 言えたらな 想ったことを 便りに書けたらな 頭の上を 吹く風よ 「系図」 僕がこの世にやって来た夜 おふくろはめちゃくちゃにうれしがり おやじはうろたえて質屋に走り それから酒屋をたたき起こした その酒を飲み終るやいなや おやじはいっしょうけんめい ねじりはちまき死ぬほど働いて 死ぬほど働いてその通りくたばった くたばってからというもの こんどはおふくろがいっしょうけんめい 後家のはぎしり 後家のはぎしり がんばって僕はごらんの通り ひのえ馬のおふくろは おふくろはことし60才 おやじをまいらせた昔の美少女は すごく太って元気がいいが 実は先だって僕にも娘ができた 女房はめちゃくちゃにうれしがり 僕はうろたえて質屋に走り それから酒屋をたたき起こしたのだ 僕がこの世にやって来た夜 おふくろはめちゃくちゃにうれしがり おやじはうろたえて質屋に走り それから酒屋をたたき起こした 「fishing on sunday」 日曜日には 日曜日には あの小川まで のんびりと魚釣りにでも 朝早くから夕暮れまで 糸を下げて一日過ごします 脇にゃ酒でも一本抱きかかえ あの小川まで魚釣りに 日頃の鬱憤を餌にして 糸を下げて一日過ごします あの爺さんは魚釣りの名人だ 糸を引き上げるその時 しわがれ声を押し堪えて 全身に笑みを浮かべてる そして そして 糸を引き上げると すると魔法のように 竿から夕暮れが 辺り一面に広がるではないか 日曜日には 日曜日には あの小川まで のんびりと魚釣りにでも 朝早くから夕暮れまで 糸を下げて一日過ごします 「夕暮れ」 夕暮れの町で ボクは見る 自分の場所からはみだしてしまった 多くのひとびとを 夕暮れのビヤホールで ひとり一杯の ジョッキーをまえに 斜めに座る その目がこの世の誰とも 交わらないところを えらぶ そうやって たかだか 三十分か一時間 雪の降りしきる夕暮れ ひとりパチンコ屋で 流行歌の中で 遠い昔の中と その目は厚板ガラスの向こうの 銀の月を追いかける そうやって たかだか 三十分か一時間 たそがれがその日の夕暮れと 折り重なるほんのひととき そうやって たかだか 三十分か一時間 夕暮れの町で ボクは見る 自分の場所からはみだしてしまった 多くのひとびとを 「いつか」 一度も 逢わない ことだってある すれ違いすらしない ことだってある うずまく グラスの 中に浮かんでいる 自分が 見えるのは いつの日のことか 気がつかないで通り過ぎてゆくのが 一番いい 出逢った 時が 一番いい いつか目が覚めない朝を迎える 日が来る 永い夜は 短い朝に 逢うためにいるのか 通りには想いの 欠片だけが 散らばってまた新しい夜を 迎えている 一度も 逢わない ことだってある すれ違いすらしない ことだってある 「手紙を書こう」 宛名のない 手紙を書こう いつまでもいつまでも世の中を ぐるぐる廻りして還らない 書いたら少しは 望みも湧いて 笑顔の日もくるだろうに 明日を恐がらなくとも 良いだろうに 人生のこと 一人の物語を書こう 愛もあり涙もある 少しでも人々に分かるように 一生かけて 作り上げる 誰にも分かるよな 生きてる手紙を書くのだ 汗で綴る 手紙を書こう 掌がたこでいっぱいになっても 一生かかっても完成しないのを 世の中の人々が 誰でも分る生きてる字で 盲目の人も心の閉った人も かんたんな字で馴染む字で 人々が行けない程 永遠の手紙 宇宙のアポロの道よりも もっとずっと長い手紙を書こう 誰にでも良い 手紙を書こう 長い 長い 手紙 一生かかっても読み終らない |
