土 蜘 (つちぐも)

●あらすじ
病床にあった源頼光の元へ、侍女の胡蝶が典薬頭からの薬を持って見舞いに来る。胡蝶は心細くなっている頼光を励まして退場する。そこへ誰とも分からない怪僧が現れ、古歌を詠じるや、頼光に蜘蛛の糸を投げかける。頼光が枕元の太刀を抜いて斬りかかると、その怪僧は姿を消す。
 掛け付けて来た独武者に頼光は一部始終を語る。武装した独武者は流れた血を追って、古塚に行き当たる。それを数人の従者とともに崩していると、塚の内より土蜘蛛の精が現れる。土蜘蛛の精は蜘蛛の糸を投げかけ独武者たちを苦しめるが、独武者はついに斬り伏せ首を落として都へ帰る。

●宝生流謡本      外十四巻の二     切能    (太鼓あり)
    季節=夏   場所=前・京都 後・大和国葛城山   作者=
    素謡稽古順=平物   素謡時間=35分 
    素謡座席順    ツレ=従 者
              ツレ=小 蝶
              シテ=前・僧  後・土蜘の精
               ワキ=独武者
              ツレ=源 頼光

●宝生流宗家Interview   宝生流二十代宗家 宝生和英(かずふさ)26歳。若き宗家が目指すもの─
【みたか弥生能】「土蜘(つちぐも)」 2011年 3月5日(土) 15:00開演 出演 宝生 和英外
Q東京藝術大学の邦楽科を卒業後、宗家を襲名されて2年が経ちましたが、お気持ちの変化はありましたか?
A大学時代は学業も遊びも満喫していましたが卒業してからは、それまでの10倍20倍、能楽の稽古を積んでいます。その上で社会人としても一人前にならなければなりません。右も左もわからない不安の中、稽古や勉強に精一杯励み走り続けている状況なので、この2年はあっという間でした。
Q宝生家は室町時代から続く歴史ある家柄です。幼い頃から能楽に親しんでこられたと思いますが、初舞台の思い出は?
A大抵、能楽を習い始めるのは3歳頃からが多いのですが、私は6歳頃からでした。初舞台は「西王母」という女神の出てくる話で、その時は桃を持って出てくる侍女の役でしたが、舞台上で居眠りをしてしまい…。父に怒られましたね。
Qみたか弥生能へも子役の頃からご出演いただいておりますね。
A初めは小学校高学年の頃に「望月」という演目で、親の仇を討つために奮闘する子どもの役を演じましたが少し失敗をしてしまいまして、ここでもやはり怒られた思い出があります。 その後も、“後見”や“仕舞”という公演を陰ながら支えるような役どころで出演させていただきました。
Q宗家のご成長ぶりを楽しみにしている方もいらっしゃると思います。今回は主役を演じられますが、土蜘の見所・あらすじを教えてください。
A大江山の鬼退治でも有名な武将・源頼光が病に倒れ、今日か明日の命というころ、ある真夜中に僧侶に化けた土蜘がやってきます。異変に気づいた頼光は、正体を現した土蜘に切りかかり、深手を負わせ逃げられてしまいます。後を追う部下たちに、様々な術で襲い掛かる土蜘ですが、最後には力を合わせて戦った武者たちが勝利する、というお話です。「土蜘」といえば蜘蛛の巣です。土蜘の精が、蜘蛛の糸をばっと投げかけるのですが、これがうまく飛び散りますと、大変キレイな場面になります。出演者が多いのも特徴です。侍女の小蝶とその従者、また、家来の武者の中には金太郎としても有名な坂田公時や臆病者の武者がおり狂言の方が演じて下さる (後略)

●源 頼光(みなもとのよりみつ)
 源氏の棟梁。父は源満仲。謡曲では「ライコウ」と読みますが、本来は「よりみつ」と読むのが正しい。四天王を引きつれ数々の鬼退治伝説で知られ、能では『土蜘蛛』のほかに『大江山』『羅生門』にも登場します。 謡曲「満仲」の子方 美女丸が成人した方(頼光)か?
 史実では藤原摂関家に仕えた軍事貴族で、火事で焼けてしまった藤原道長邸の再建時に家具調度類の一切を献上したという記録があります。頼光邸から道長邸まで、調度が運び込まれる行列を見る人垣ができたというから、超ド級の富豪だったわけです。
 ちなみに能『鵺』『頼政』に登場する鵺退治で知られる源頼政は、頼光の子孫です。


源 頼光関係謡曲 4曲
小原隆夫調べ  
コード 曲 目 概 説 場 所 季節 素謡 習順
内07巻2 鵺 京都御所のぬえ退治 源 頼政 兵庫 秋 37分 入門
外04巻2 羅 生 門 源 頼光家来羅生門の鬼退治 京都 春 22分 平物
外14巻2 土  蜘 源 頼光(948-1021) の家来土蜘蛛退治 京都 夏 23分 平物
外15巻5 大 江 山 源 頼光大江山ノ鬼退治 京都 夏 35分 入門

●歴史伝説参考資料  つちぐも  土蜘蛛
古代,ヤマト王権の勢力に従わない在地土着の首長ないし集団を呼んだ名称。土雲とも書く。その内容については土窟に住む農民説,蝦夷説,国津神説,などの諸説がある。土蜘蛛の所伝は大和をはじめ,東は陸奥から西は日向におよぶ広範囲にみられ,ヤマト王権の征討伝承の中に抵抗する凶賊として登場し,土窟に穴居して未開の生活を営み,凶暴であるとして異民族視されている。
征討伝承は《古事記》《日本書紀》にあり,常陸,豊後,肥前の各風土記や摂津,越後,肥後,日向諸国の同逸文にも各地土着の土蜘蛛の記事がみえる。
《日本書紀》神武即位前紀は土蜘蛛の身が短く手足が長いとしており,同景行紀では石窟に住み皇命に従わなかったとある。また《常陸国風土記》は土窟に穴居したとし,《摂津国風土記逸文》にもつねに穴居することから土蜘蛛と賎称したとする。しかし,これらの習俗はむしろ土蜘蛛の名から作られたものか。      
佐藤 信 記

●会津能楽堂の演能記   観世流
於、会津能楽堂 平成21年行事の記録 秋季演能会 2009年11月1日(日) ,入場無料
能「土蜘蛛」観世流では土蜘蛛(宝生流では土蜘) 音楽(お調べ)のあと、地謡、囃子方、後見が舞台に入り、、頼光とツレも入る。そこへ笛の合図で小蝶が橋掛かりを進んでくる。いよいよ能が展開する。 源頼光は近頃病がちになっていた。肩にかけた布は床に臥せっていることを表す。一畳台は寝所・住居を表わす。 頼光の侍女小蝶は朝廷の典薬頭(薬局長官)が調剤した薬を持って頼光の御所に戻り頼光に面会する。観客の撮影、 小蝶は「病は苦しいものだが、治療により恢復するものだ。」と頼光を力づける。頼光の謡が聞かせどころだ。 小蝶の退場と入れ違いに、夜中、伏せっている頼光の枕元に一人の僧が現れ、一の松のところで蜘蛛を暗示する。 僧は土蜘に変化(へんげ)し千筋の蜘の糸を吐き出し頼光を苦しめる。  (中略) 
中入りの後、ワキの服装に注目。こちらは戦姿 ワキは他の武者を引連れ、血を辿って大きな塚の前にたどり着く 武者達が塚を崩すと、この曲では激しい戦いの中、鬼神が大鼓・小鼓・太鼓・笛のみで演奏される「舞働(まいばたらき)」を舞う。激しい戦いの後、鬼神は首を切り落され、武者達は喜び勇んで都に帰る。

(平成26年2月22日 あさかのユーユークラブ 謡曲研究会)


                   土  蜘

         (つちぐも)    外14巻の2      (太鼓あり)
         季 夏      所 前:京都 後:大和国葛城山  素謡時間 23分
  【分類】切 能 (    )
  【作者】            典拠:
  【登場人物】前シテ:僧、 後シテ:土蜘の精     ワキ:一人武者
             ツレ:小蝶     ツレ:住者    ツレ:源 頼光   

         詞 章                   (胡山文庫)

胡蝶 次第上 浮き立つ雲の行くへをや。/\。風のこゝろにまかしらん。
    サシ上 これは頼光の御内に仕へ申す。胡蝶と申す女にて候。
        詞「さても頼光例ならず悩ませ給ふにより。典薬の頭より御薬を持ち。
         唯今頼光の御所へ参り候。いかに誰か御入り候。
従者    詞「誰にて御座候ふぞ。
胡蝶    詞「典薬の頭より御薬を持ち。胡蝶が参りたるよし御申し候へ。
従者    詞「心得申し候。御機嫌を以つて申し上げうずるにて候。
頼光  サシ上 こゝに消えかしこに結ぶ水の泡の。浮世に廻る身にこそありけれ。
          げにや人知れぬ。心は重き小夜衣の。恨みん方もなき袖を。かたしきわぶる思かな。
従者    詞「いかに申し上げ候。典薬の頭より御薬を持ち。胡蝶の参られて候。
頼光    詞「此方へ来れと申し候へ。
従者    詞「畏つて候。此方に御参り候へ。
胡蝶    詞「典薬の頭より御薬を持ちて参りて候。御心地は何と御入り候ふぞ。
頼光    詞「昨日よりも心地も弱り身も苦みて。今は期を待つばかりなり。
胡蝶 カカル上 いや/\それは苦しからず。病うは苦しき習ながら。療治によりて癒る事の。
         例は多き世の中に。
頼光    上 思ひも捨てず様々に。
地     上 色を尽して夜昼の。/\。境も知らぬよそほひの。時の移るをも。
         覚えぬほどの心かな。げにや心を転ぜずそのまゝに思ひ沈む身の。
         胸を苦しむる心となるぞ悲しき。
                (土蜘蛛)一声
シテ    上 月清き。夜半とも見えず雲霧の。かゝれば曇る。心かな。
       詞「いかに頼光。御心ちは何と御座候ふぞ。
頼光    詞 「不思議やな誰とも知らぬ僧形の。深更に及んでわれを訪ふ。
         その名はいかにおぼつかな。
シテ     詞「愚の仰候ふや。悩み給ふも我がせこが。来べき宵なりさゝがにの。
頼光 カカル上 くもの振舞かねてより。知らぬといふに猶近づく。姿は蜘蛛の如くなるが。
シテ     詞「かくるや千条の糸条に。
頼光    上 五体をつゞめ。
シテ    上 身を苦しむる。
地     上 化生と見るよりも。/\。枕にありし膝丸を。抜き開きちやうと切れば。
         そむくる所をつゞけざまに。足もためず薙ぎ伏せつゝ。
         得たりやおうとのゝしる声に。形は消えて失せにけり。/\。
               僧中入り 早鼓
独武者   詞「御声の高く聞え候ふ程に馳せ参じて候。何と申したる御事にて候ふぞ。
頼光    詞「いしくも早く来たる者かな。近う来り候へ語つて聞かせ候ふべし。
     物語「偖も夜半ばかりの頃かたよ。誰とも知らぬ僧形の来つて我が心ちを問ふ。
         何者なるぞと尋ねしに。我がせこが来べき宵なりさゝがにの。
         蜘蛛の振舞かねてしるしもといふ古歌を連ね。我に千条の糸を繰りかけしを。
         枕にありし膝丸にて切り伏せつるが。化生の者とてかき消すやうに失せぬ。
         これと申すもひとへに剣の威徳と思へば。今日より膝丸を蜘蛛切と名づくべし。
         なんぼう奇特なる事にてはなきか。
独武者   詞「言語道断。今に始めぬ君の御威光剣の威徳。かた%\めでたき御事にて候。
         また御太刀つけのあとを見候へば。けしからず血の流れて候。此血をたんだへ。
         化生の者を退治仕らうずるにて候。
頼光     詞「げにげにいしくも申す者かな。さらば急いで退治候へ。
独武者   詞「畏つて候。
              一声 早鼓 ワキ中入り
独武者立衆 上 土も木も。我が大君の国なれば。いづくか鬼の。やどりなる。
独武者   上 其時独武者彼の塚に向ひ。大音あげていふやう。これは音にも聞きつらん。
         頼光の御内に其名を得たる独武者。いかなる天魔鬼神なりとも。
         命魂を断たん此塚を。
地      上 崩せや崩せ人々と。呼ばはり叫ぶ其声に。力を得たる。ばかりなり。
地   ノル上 下知に従ふ武士の。/\。塚を崩し石をかへせば塚の内より火焔を放ち。
         水を出すといへども大勢崩すや古塚の。怪しき岩間の陰よりも鬼神の形は。
          顕れたり。
後シテ   上 汝知らずやわれ昔。葛城山に年を経し。土蜘蛛の精魂なり。
       詞「猶君が代に障をなさんと。
   カカル上 頼光に近づき奉れば。却つて命を断たんとや。
独武者   上 其時独武者進み出で。
地     上 其時独武者進み出でて。汝王地に住みながら。君を悩ます其天罰の剣にあたつて。
         悩むのみかは命魂を断たんと。手に手を取り組みかゝりければ。
         蜘蛛の精霊千条の糸を繰りためて。投げかけ/\白糸の。
         手足に纏り五体をつゞめて。倒れ臥してぞ見えたりける。
             舞働き
独武者  下 然りとはいへども。
地     下 然りとはいへども神国王地の恵を頼み。
         かの土蜘蛛を中に取りこめ大勢乱れ。かゝりければ。
         剣の光に少し恐るゝ気色を便に切り伏せ/\
         土蜘蛛の。首うち落し喜び勇み。都へとてこそ。帰りけれ。


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