宝生流謡曲 岩 船

●あらすじ                www.aizu-noh.aizu.or.jp/2008 kaisetsu.htmlヨリ
*岩船は神々が高天原(日本神話の神々が住む天国)からより下界に下りた時に使われたという船の名です。 季節は秋。所は摂津の国(現在の大阪)住吉の浦。 天皇に仕える臣下(ワキとワキツレ)が、宣旨により住吉の海岸に立つ市に、中国や高麗の宝物を買い取りに来ます。帝の治世が正しく、人々の平和で豊かな暮らしを喜びます。(そこに姿は中国人であるが大和言葉を話す童子(前シテ)が現れます。童子は銀の盆に宝珠を載せています。童子は今の目出度い御代を褒め、めでたい宝珠を帝に献上します。沖の方から岩船が漕ぎ寄せてくる。天は帝の治世が正しく、人々の平和で豊かな暮らしを喜び、天上界の宮殿の宝物を帝に献上するために、この浦に岩船を漕ぎ寄せるところである。 実は、私はその岩船を漕いで地上に降りた天の探女(あまのさくめ)であると童子は言い残し、姿を消します。)今回の薪能では前シテの部分は省かれるので、このシーンはない。
ワキとワキツレが舞台右側に座する。早笛はシテの出る合図となる強く鋭い笛の演奏スタイルである。早笛に合わせて海中に住む竜神(後シテ)が颯爽と登場し、舞働きという動きの激しい舞いをします。手に持っている棒は櫂を表している。 シテは宝を積んだ岩船を八大竜王とともに「えいやえいや」と住吉海岸に岩船を漕ぎます。彼らはおびただしい数の金や銀の宝物を船より降ろします。最後に、この国の万代までの繁栄を寿ぎ海に帰って行きます。実際の舞台ではシテ一人ですが、観客の皆さんは8人の竜神が登場しているシーンを想像してご覧ください。この能は番組の最後に祝言能として演じられることが多く、その場合、前シテの部分は省略されます。今回の薪能では祝言能の演出で演じます。アッと思う間に終演となります。

●宝生流謡本(参考)   外10巻の4  脇能   (太鼓あり)
     季節=秋   場所=摂津国住吉(兵庫県)
     素謡(宝生)  :  稽古順=平物 素謡時間25分 
     素謡座席順    ワキツレ=従者
                シテ=前・童子 後・龍神 ・
                ワキ=勅使 ・

●観能記
「岩船(いわふね)」(喜多流)      
国立能楽堂.  www.artemis.or.jp/sketch/2001/0320.html ヨリ
前シテ/童子・後シテ/龍神:内田 安信 ワキ/勅使:森 常好
ワキツレ/随臣:舘田 善博・梅村 昌功  アイ/所の者:茂山 宗彦
笛:内潟 慶三、小鼓:亀井 俊一、大鼓:佃 良勝、太鼓:助川 治
後見:高林 白牛口二・中村 邦生
地謡:内田 成信・友枝 雄人・狩野 了一・金子 敬一郎・長島 茂・出雲 康雅・香川 靖嗣・大村 定
住吉の浜で宝の市が開かれていて、市で宝を買い取るように命じられた勅使がやってきます。すると宝を持った童子(唐人姿で大和言葉)がやってきて、その龍女の宝珠を大君に捧げると言って勅使に渡します。岩船が来るから〜といって童子は去っていくんだけど、去り際に自分はその岩船を漕ぎ寄せた天の探女(さくめ)だと言って姿を消します。そして龍神に護られて幾万もの金銀宝珠を積んだ天岩船が住吉の岸へ漕ぎ寄せ、あー、めでたし、めでたし。繁栄を寿ぐ祝言の能。
夢のような話ですよね。わたしの家にも天岩船がやってこないかなぁ?いつでもウェルカム〜、なんちゃって。(能の詞章が全部載ってるのでところどころ見ながら聞いてたら、「民豊かなる楽しみを、なにに譬へん秋津洲(あきつす)や、」というところをシテが「・・・伊勢志摩や」と言ったら、その後シテは詰まったりはしてなかったと思うんだけど、後見が少しだけデュエットしてるよう聞こえました。シテと違う声がしてたから。心配したんでしょうかね?全部見比べてるわけじゃないんだけど。
あんまり詞章ばっかり見てると動きを見落としちゃうから〜。 まあ、それにしてもこんなに難解な文章をよくまあほとんど覚えてしまいますよね。シテ、ワキ、地謡、アイ、と、出演者の記憶力ってすごいですよね。で、セリフだけじゃなくて動きも覚えるわけでしょう。詞章を見てると、ただただ感心してしまいます。 童子が勅使に渡した宝珠を勅使(ワキ)が脇に置いたら、近くにいた後列前寄りの地謡の人(ワキに一番近い人)がすっと下げてました。なんでも後見がやるわけではないんですね。更にこの宝珠、地謡が退場するときには、後列一番奥の地謡の人の所に移動してました。いつのまに〜〜〜。
後シテは龍神で、早笛のお囃子で登場します。早笛の所なかなか良いですね。装束は 赤頭、龍の冠を付けていて、とても豪華です。動きも舞働きで見ていて眠くなりません。(^^;初心者にもお勧めの能です。


●解説 能「岩船」:祝言の曲       
壺斎閑話 blog.hix05.com/blog/2009/11/post-1205.html ヨリ 
能「岩船」は筋らしい筋もなく、ただめでたさを寿ぐといった趣向の曲だが、かえってそのことが幸いしてか、祝言の曲としてよく上演される。作者や成立時期はわかっていない。音阿弥が上演したという記録が残っているので、室町時代の中ごろには成立していたと思われる。典拠は万葉集などに見られる天岩船伝説。あめのさぐめが宝を積んだ船に乗って地上に降りてくるという単純な話だ。能では前段で宝の市に玉を持った童子が現れ、これを帝に捧げたいといい、後段では竜神が現れて天下泰平を寿ぐ。前後に必然的なつながりもなく、複式能としては中途半端なところから、観世流や宝生流では、前段を省いて半能として上演する。
以下紹介するのは金春流の舞台。先日NHKが放映したものだ。シテは金春安明が演じていた。
舞台には帝の臣下の一行が現れる。彼らは摂州住吉の浦に宝の市を開き、高麗唐土の宝を買ひとるべしとの帝の命を受けて、住吉へと向かう途中である。


●参考 大須戸「薪能」(おおすどたきぎのう)
        
2003年08月15日 新潟県岩船郡朝日村猿沢 みどりの里(道の駅「朝日」)(お盆の時期)
開場6:00pm-終演9:00pm(無料)雨天:朝日村総合文化会館
2003年の薪能の演目は狂言「針立雷」(はりたてかみなり)と能「正尊」(しょうぞん)です。会場に訪れた300人程の観客は、曇の間から月が時々顔を覗かせる夏の夜空の下で、かがり火に照らされた伝統芸能に、時のたつのも忘れて見入っていました。「大須戸能」は、朝日村・大須戸集落にある「八坂神社」に古くから伝わる伝統芸能です。それは、山形県・庄内藩の「黒川能」の流れを汲むもので150年以上の歴史があります。能が神事として演じられるようになったのは昭和7年からで、1月の山神祭と4月3日の節句に演じられていました。現在では毎年4月3日に八坂神社の能舞台で定期能が、そして8月15日には朝日みどりの里で「薪能」が演じられています。8月15日の「薪能」は、お盆で地元朝日村に帰省する方に楽しんで貰おうと17年前から開催されているものです。もちろん、朝日村以外の方の鑑賞も大歓迎ですので、機会がありましたら訪れる事をお勧めします。「大須戸能」を演じる「大須戸能保存会」は、ドイツでの友好公演などを始めとして、精力的に活動を行っています。
[ アクセス ]
日本海東北自動車道の-中条ICで下りて、R7を村上方面へ、村上を通り過ぎた先にある、R7道の駅「朝日」内

(平成22年5月21日 
あさかのユーユークラブ 謡曲研究会)


◎祝言の曲としてよく上演される。作者や成立時期はわかっていない。音阿弥が上演したという記録が残っているので、室町時代の中ごろには成立していたと思われる。
 典拠は万葉集などに見られる天岩船伝説。あめのさぐめが宝を積んだ船に乗って地上に降りてくるという単純な話だ。
 能では前段で宝の市に玉を持った童子が現れ、これを帝に捧げたいといい、後段では竜神が現れて天下泰平を寿ぐ。前後に必然的なつながりもなく、複式能としては中途半端なところから、観世流や宝生流では、前段を省いて半能として上演する。


    岩 船  

        脇能(太鼓あり)  外十巻の一   
        シテ 前・童子 後・龍神        季 秋
        ワキ 勅 使                所 攝津国住吉

   次第
ワキ   「げに治まれる四方の国。げに治まれる四方の国。関の戸さゝで通はん。
ワキ詞  「そも/\これは当今に仕へ奉る臣下なり。さても我が君賢王にましますにより。
      吹く風枝を鳴らさず民戸ざしをさゝず。誠にめでたき御代にて候。
      さる間摂州住吉の浦に。始めて浜の市を立て。高麗唐土の宝を買ひとるべしとの宣旨に任せ。
      唯今津の国住吉の浦に下向仕り候。
ワキ   「何事も。心に叶ふ此時の。心に叶ふ此時の。ためしもありや日の本の。
      国豊なる秋津洲の波も音なき四つの海。高麗唐土も残なき。御調の道の末ここに。
      津守の浦に着きにけり。津守の浦に着きにけり。

そこへ童子姿のシテが現れる。童子面をかぶり、長い黒髪を垂らし、手には大きな玉を持っている。

シテ   「松風も。のどかに立つや住吉の。市の巷港出づるなり。
シテサシ「それ遠満十里の外なれども。こゝは処も住吉の。神と君とは隔なき。
      誓ぞ深き瑞籬の。久しき世々の例とて。こゝに御幸を深緑。
      松にたぐへて千代までも正しき君の御旅居。いづくも同じ日の本の。もれぬ恵ぞ有難き。
下歌   「いざ/\市に出汐の月面白き松の風。
上歌   「伊勢島や汐干に拾ふたま/\も。汐干に拾ふたま/\も。待ちえにけりな此御代に。
      鸚鵡の玉鬘かゝる時しも生れ来て。民豊なる楽を何に譬へん秋津洲や。
      高麗唐土も隔なき。宝の市に出でうよ。宝の市に出でうよ。

臣下たちは童子の姿を不思議に思いつつ、その手に持っている玉はどんな玉なのかと聞く。同時は天下泰平を寿ぐ徴として、これを帝に捧げるために持参したのだという。
 臣下が玉の名を尋ねると、童子は「宝珠の外に其名は無し、心の如しと思しめせ」と応える。自分たちの好きなように名づけよという意味なのであろうが、それを臣下たちは「名におふ如意宝珠」と解釈する。そういう名の名高い玉があったと信じられていたのだろう。

ワキ詞  「不思議やなこれなる市人を見れば。姿は唐人なるが。声は大和詞なり。
      又銀盤に玉をすゑて持ちたり。そも御身はいかなる人ぞ。
シテ詞  「さん候かゝる御代ぞと仰ぎ参りたり。又是なる玉は私に持ちたる宝なれども。
      余りにめでたき御代なれば。
      「龍女が宝珠とも思し召され候へ。
シテ詞  「これは君に捧物にて候。
ワキ詞  「ありがたし/\。それ治まれる御代の験には。賢人も山より出で。
      聖人も君に仕ふと云へり。然れば御身は誰なれば。かゝる宝を捧ぐるやらん。
      「委しく奏聞申すべし。
シテ詞  「あらむつかしと問ひ給ふや。唐土合浦の玉とても。宝珠の外に其名は無し。
      これも津守の浦の玉。心の如しと思しめせ。
ワキ   「心の如しと聞ゆるは。さては名におふ如意宝珠を。我が君にさゝげ奉るか。
シテ   「運ぶ宝や高麗百済。
ワキ   「唐船も西の海。
シテ   「檍が原の波間より。
ワキ   「現れ出でし住吉の。
シテ   「神も守りの。
シテワキ 「道すぐに。
地    「こゝに御幸を住吉の。神と君とは行合の。目のあたりあらたなる。君の光ぞめでたき。

童子は市の盛んな様子をほめ、そこをめざして多くの船が集まってくるさまを寿ぐ。

ロンギ地 「千代までと菊売る市の数々に。菊売る市の数々に。
      四方の門辺に人さわぐ。住吉の浜の市宝の数を買ふとかや。
シテ   「春の夜の一時の。千金をなすとても。喩はあらじ住吉の。松風値なき金銀珠玉いかばかり。
地     「千顆万顆の玉衣の。浦ぞ津守の宮柱。
シテ   「立つ市館かず/\に。
地     「籬もつゞく片そぎの。
シテ   「みとしろ錦綾衣。
地    「頃も秋たつ夕月の。影に向ふや淡路潟。
シテ   「絵島が磯は斜にて。
地    「松の隙行く捨小舟。
シテ   「寄るか。
地    「出づるか。
シテ   「住吉の。
地    「岸うつ浪は茫々たり松吹く風は切々として。蜜語かくやらん。
      その四つの緒の音を留めし潯陽の江と申すとも。これにはよもまさじ面白の浦の景色や。

そのうち岩船がやってくると告げる。岩船が宝の船であることは、臣下たちも良く知っている。そこで何故そのような船が市に来るのかと聞くと、童子は自分こそはあのあめのさぐめなのであり、いまこの代の太平を祝うために、岩船を招き寄せたのだと答え、嵐とともに天上に去っていく。

シテ詞  「又岩船のより来り候。
ワキ詞  「そも岩船のより来るとは。御身は如何なる人やらん。
シテ詞  「げに旅人はよも知らじ。天も納受喜見城の。宝を君に捧げ申さんと。天の岩船雲の波に。
      高麗唐土の宝の御船を。
      「唯今こゝに寄すべきなり。
地     「今は何をか包むべき。其岩舟を漕ぎよせし。天の探女は我ぞかし。
      飛びかける天の岩船尋ねてぞ。秋津島根は宮柱住吉の松の緑の空の。
      嵐とともに失せにけり。嵐とともに失せにけり。

来序中入 間狂言が岩船の故事を改めて紹介したあと、龍神に扮した後シテ画現れる。龍神はあめのさぐめに岩船を引かせながら、自分は勇壮な舞を舞って、天下泰平を寿ぎ、めでたしめでたしとなる。

地     「久方の。天の探女が岩船を。とめし神代の。幾久し。
後シテ  「我はまた下界に住んで。神を敬ひ君を守る。秋津島根の。龍神なり。
地     「或は神代の嘉例をうつし。
シテ    「又は治まる御代に出でて。
地     「宝の御船を守護し奉り勅もをもしや勅もをもしや此岩船。
    働
地    「宝をよする波の鼓。拍子を揃へてえいや/\えいさらえいさ。
シテ   「引けや岩船。
地    「天の探女か。
シテ   「波の腰鼓。
地    「ていたうの拍子を打つなりやさゞら波経めぐりて住吉の松の風吹きよせよえいさ。
      えいさらえいさと。おすや唐艪の。おすや唐艪の潮の満ちくる浪に乗つて。
      八大龍王は海上に飛行し御船の綱手を手にくりからまき。汐にひかれ波に乗つて。
      長居もめでたき住吉の岸に。宝の御船を着け納め。数も数万の捧物。
      運び入るゝや心の如く。金銀珠玉は降り満ちて。山の如くに津守の浦に。
      君を守りの神は千代まで栄ふる御代とぞ。なりにける。


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