項 羽  (こうう)

●あらすじ
草刈りたちは、偶然来合わせた老人の渡し船に、便船を求めた。すると老人は船賃はいらないから乗りなさいという。やがて対岸についた時、老人は草刈りに船賃の代わりに背負っている籠の中にある虞美人草がほしいと言う。理由を尋ねると、この花は項羽の后虞氏を埋めた塚に咲いた花であると答え、項羽と漢の高祖の戦いの末、高祖に破れた項羽こそが自分であると明かし、弔いを頼み消えていった。 その夜、草刈りの夢の中に矛を持った項羽と虞美人の霊が現れ、華やかだった昔を偲ぶ。そして虞氏が身を投げ、項羽が矛の柄で探すも虚しく、再び戦の場へ戻り、悲憤の末の自刃までを再現してみせる。

●宝生流謡本      外三巻の一    四五番目    (太鼓あり)
    季節=秋   場所=唐土鳥江野   作者=世阿弥   素謡時間=30分
    素謡稽古順=平物   素謡座席順   シテ=前・老翁  後・項羽
                             ワキ=草刈男

●項羽の説明 「史記」を題材とする、世阿弥作の能です。
項羽は、四面楚歌の故事を題材にした滅多に上演されない稀曲 です。楚の王・項羽と漢の王・劉邦の戦いの結末部分の能 です。 敗北した楚の覇王・項羽は漢軍に突撃し敵となった朋友・呂馬童 に自分を殺すよう嘆願するが、結局自ら首を切り落として絶命。周囲を信用せず非情の限りを尽くし人を殺し続けたため部下に裏切られ寵姫に死なれた暴君。自身が死んだ理由は幽霊となっても理解していなかったという  常に傍らに寄り添っていた寵姫・虞美人の死骸を埋めた塚から赤いヒナゲシが生えたという伝説がある為、ヒナゲシの別名は、美人草 という。


       (古代中国関係謡曲 18曲)
                                       
小原隆夫調べ
 コード    曲 目      概            説     場所  季節  素謡   習順
内04巻1 鶴   亀  唐の玄宗帝新年春の節会事始め   唐国   春   10分  平物
内08巻3 楊 貴 妃  玄宗皇帝ノ愛妃ノ魂パクヲ探す      唐国  秋   55分  初奥
内12巻5 猩   々  猩々ガ親孝行ノ高風ニ福ヲ与える    唐国  秋   10分  平物
内16巻2 是   界  是界坊ノ野心比叡山ノ僧ニ打砕カレル   京都  不   32分  入門
内16巻3 芭   蕉  唐ノ帝芭蕉ヲ愛シタ 芭蕉ノ精僧ニ語ル   唐国   秋   70分  中奥
内16巻5 天   鼓  帝ニ奉セシ天鼓ハ 王伯王母ガ鳴ラス   唐国  秋   45分  初奥
内19巻5 唐   船  日本子ト 迎ニ来タ唐子ノ 情ケト帰国   福岡   秋   50分  初奥
内20巻1 邯   鄲  濾生が夢 50年の栄賀も一炊の夢  唐国   不   38分  初序
外03巻1 項   羽  虞美人草ト項羽ノ物語り         唐国   秋   30分  平物
外05巻1 西 王 母  桃ノ精 御代ヲ寿ぐ             唐国   春   22分  平物
外06巻1 咸 陽 宮  秦ノ始皇帝 宮殿ニ燕国ノ刺客ニ襲ワレル 唐国   秋   23分  入門
外06巻5 石   橋  大江定基ガ出家唐デ修行 (連獅子) 唐国   夏   25分  初序
外10巻5 鐘   馗  鐘馗ノ悪魔退治              唐国   秋   20分  平物
外13巻3 昭   君  美女昭君ノ異国ニ亡クナリ父母ニ嘆く  唐国   春   45分  中序
外13巻4 三   笑  三賢人ノ談笑               唐国  秋   25分  入門
外14巻1 枕 慈 童  700年前ノ周王ニ使エタ仙家ノ慈童ニ逢ウ 唐国   秋   20分  平物
外15巻1 張   良  張良黄石公ノ沓ヲ取リ兵法ヲ学ぶ    唐国   秋   25分  入門
外16巻1 皇   帝  玄宗皇帝寵妃楊貴妃ヲ助ける     唐国   春   27分  入門

●観能記  
後場の鏡の間の一幕である。出端の囃子に合わせて、後シテ項羽とツレ虞美人が幕の内で出を待つ。シテには後見が鉾を持たせており、ツレはその後ろに控えている。ツレは、通常ならば小面などの女面をかけるが、本作品のツレは面をかけていない。このことから、ツレを演じているのは少年であることが予想される。少年期の時分には、一時的な花「時分の花」があると世阿弥は語り、その言葉を借りれば「童形なれば、何としたるも幽玄」なのである。本図が描かれたのは明治31年で、画中に見えるほとんどの人物は散切頭になっている。蝉丸と同じく緊張感に包まれた鏡の間であるが、衝立にもたれかかり、楽しげに演者の出を見つめる人物は対照的である。

●金春会「項羽」に向けて|  金春流能楽師・山井綱雄の〜日々去来の花〜
「金春会定期能」。私の流儀・金春(こんぱる)流の主催する能公演です。 ここで、能3番のトメ(能では、トリ、ではなく、トメという)で、能「項羽」のシテ(主役)を勤めます。「項羽」は、滅多に上演されない、いわゆる「稀曲」です。私の師匠・80世宗家・金春安明先生ですらまだ舞ったことのない「シロモノ」です。 私は昔に、奈良在住の金春流のご分家・金春穂高さんが東京で修行されていた時に「項羽」を舞われたときに、ツレをやらせて頂きました。 この時に、穂高さんの舞を稽古能の時から拝見していて、「項羽」にしかない、オリジナリティーを感じていて、面白いなあ、いつかは舞いたい、と実は密かに思っていました。 味方に裏切られ、有名な「四面楚歌」の状況になり、愛妻・虞氏は絶望のあまり自害。その状況の全てを、怒り・悲しみ、それでも武人としての誇りを最後まで貫き通した項羽。 項羽の最後は、敵軍となった朋友・呂馬童(りょばどう)の手柄とさせるために、自分を殺すように言いますが、呂馬童がためらい、ならばと、項羽自ら首を斯き切り、左手で首を差し出し、立ったまま絶命した、という壮絶なものであったようです。 武士の悲哀というか、そういういわゆる「修羅物」的な色が強い作品だと感じます。 虞氏を失って、遺体を捜すような型、味方に裏切れて、敵陣へ突っ込んで悲しみを怒りに変えて剛腕を発揮する最後あたりは、この能にしかないオリジナリティーがあるなぁと感じます。 おっとっと、今日の出来事を書こうと思っていたのに、色々と余計なことを書いてしまいました。
 (中略)
その稽古の後、この「項羽」の前半場面で、秋の花を造花で使うのですが、何せやったことがあまりない曲なので(苦笑)、その「項羽」用の造花がうちの宗家一門に無く、四谷の「東京堂」という造花屋さんに買いに行ってきました。 (舞台に使う大道具・小道具は基本シテを舞う自分で調達、というのが能の世界の基本常識です。この辺は、劇団の方と似ている感覚ですね。自然に、勝手に、大道具さん小道具さんがいて用意してくれる、という世界では能の場合ありません。意外に思われるかもしれませんが。そもそも、大道具・小道具さんは能楽師が兼用しています。ちなみに今度の造花、ワキという役の人が持つ小道具なのですが、それもシテ方で用意するものなのです。)
この時期に、秋の造花があるのか?という懸念があったのですが(こんな時期に秋の能をやるのが間違いだったか・・・汗)、四谷の「東京堂」には、すごい種類の造花が!!しかも、混んでいる!
宗家伝来の型付けには、「萩、キキョウ、野菊、ススキ、美人草(ひなげし)」の5種類を使うように書かれているのですが、丁度萩だけ無く、それ以外は全て手に入れました。
型付けには、色の指定はないので、あとはセンス!!の問題。
華道家になったつもりで、店に連れっていって下さった先輩の高橋忍さんと選びました。どうなったかは、本番の舞台のお楽しみです。
   
流派:金春流   作者:不明 分類:5番目物  上演時間:約80分

(平成21年1月23日 あさかのユーユ0クラブ 謡曲研究会)


             項 羽 (こうう)  (太鼓あり)

         季 秋      所 :唐土烏江野  素謡時間 30分
  【分類】四五番目 (    )
  【作者】世阿弥元清   典拠:
  【登場人物】前シテ:老翁、後シテ:項羽 ワ項羽 ワキズレ:住僧

         詞 章                  (胡山文庫)

ワキ  次第上 ながめ暮らして花に又。/\。宿かる草を尋ねん。
ワキ    詞 「これは烏江の野辺の草刈にて候。今日も草を刈り唯今家路に帰り候。
     下歌 野辺は錦の小萩原刈萱まじる烏江野に。
     上歌 草刈るをのこ心なく。/\。花を刈るとや思草。
         家づとなればいろ/\の。草花の数を刈りもちて。
         帰れば跡は秋暮れて。枯野にすだく虫の音も花を惜むか心あれ。/\。
ワキ    詞 「便船を待ち向へ越さうずるにて候。
シテ、 サシ上 蒼苔路滑かにして僧寺に帰り。紅葉声乾いて牡鹿鳴くなる夕まぐれ。
         心も澄める面白さよ。
   一セイ上 秋ごとに。野分を船の追風にて。
地     上 荻の穂かくる露の玉。
ワキ    詞 「なう/\その船に乗らうずるにて候。
シテ    詞 「おふ召され候へ。さて船賃は候。
ワキ    詞 「われら如き者の船賃参らせたることはなく候。
シテ    詞 「いやいつもは何とも候へ。唯今は船賃なくばこの船に叶ひ候ふまじ。
ワキ    詞 「さらば上の瀬へ廻らうずるにて候。
シテ    詞 「それはともかくもにて候。なう道理は申しつ船に召され候へ。
ワキ カカル上 乗りおくれじと草刈は。もとの渚に立ち寄れば。シテ「とく
シテ    上 とく乗り給へとさし寄する。
地     上 露刈りこめて秋草の。/\。
         葉ごとに影やどる月をや船に乗せつらん天の河たな渡りして七夕の。
         たな渡りして七夕の。年に一夜は心せよ秋風吹けば波の音。
         湊に近き蜑小船。水音なしにゆく船の水馴棹をさゝうよ水馴棹をさゝうよ。
シテ    詞「船が着いて候御上り候へ。
ワキ    詞「心得申し候。
シテ    詞「さて船賃は候。
ワキ    詞「又船賃と仰せられ候ふよ。其為にこそ向ひにて申し定めて候ふに。
         何とて聊爾なる事をば承り候ふぞ。
シテ    詞「いや船賃と申せばとて別の子細にても候はゞこそ。
         それ程多き草花をなど一本賜はり候はぬぞ。
ワキ    詞 「あら優しや。いづれにても召され候へ。
シテ    詞「さらばこの花を賜はらうずるにて候。
ワキ    詞「不思議やなこれ程多き草花の中に。何とて其花を撰つて召され候ふぞ。
シテ    詞「さん候これは美人草と申して。故ある花にて候。
ワキ    詞 「あら面白や美人草とは何と申したる謂にて候ふぞ。
シテ    詞「昔項羽の后虞氏と申せし人の。身を投げ空しくなり給ひしを。
         取り上げ土中につきこめしに。その塚より生ひ出でたる草なればとて。
         美人草とは申し候。
ワキ    詞 「さらば項羽高祖の戦のやうを。御存じ候はばそと御物語り候へ。
シテ    詞 「語つて聞かせ申し候ふべし。
     物語 「さても項羽高祖の戦。七十余度に及ぶといへども。
         一度も項羽はうち負け給はず。ある時項羽の兵心変りし。
         却つて項羽をばせめければ。虞氏は思ひに堪へかねて。
         いかゞはせんと伏し給ふ。又望雲騅といふ馬は。
         一日に千里を駈くる名馬なれども。主の運命尽きぬれば。
         膝を追つて一足も行かず。その時項羽はちつとも騒がず。
         馬よりしづ/\と下り立つて。やあいかに呂馬童よ。
         我が首取つて高祖に奉り。
   カカル上 名を揚げよやと呼ばはれども。
地     下 呂馬童は。恐れて近づかず不覚なる者の心かな。これ見よ後の世に。
         語り伝へよといひあへず。剣を抜いてあへなくも。
         われと我が首を掻き落し呂馬童にあたへその侭。この原の露と消えにけり。
         望雲騅は膝を折り。黄なる涙を流せば。さのみ語れば我が心。
         昔に帰る身の果。今は包まじ我こそは。
         項羽が幽霊現れたり跡弔ひてたび給へ跡弔ひてたび給へ。
                 中入り
ワキ 待謡上 様々に。弔ふ法の声立てゝ。/\。
         波にうきねの夜となく昼ともわかぬ弔の。般若の船のおのづから。
         その纜をとく法の。心を静め声をあげ。一切有情。殺害三界不堕悪趣。
                 出羽
後シテ   上 昔は月卿雲客にうちかこみ。今は樵歌野田の月。爛体霧深し。古松下の影。
地     上 苔紛々として旧名を埋む。
シテ    上 紫の雲間横ぎるいでたちは。
地     上 天つ少女の。調かな。
    ノル上 各々伎楽を奏しつゝ。/\。夢の黄楊櫛弾く琴琵琶の。
         四面の鬨の声を上ぐれば又執心の攻め来るぞや。あら苦しの苦患やな。
ツレ  ノル下 虞氏は思ひに堪へかねて。
地     下 虞氏は思ひに堪へかね給ひて高楼に昇りて落つるはさながら涙の雨の。
         身を投げ空しくなり給へば。
                 ハタラキ
シテ    上 項羽は虞氏が別と我が身の。
       詞 「なりゆく草葉の露諸共に。消えはてし悲しさ。思ひ出づれば剣も鉾も皆投げ捨てゝ。
         身をだくばかりに口惜しかりし。夢物語ぞ。哀なる。
シテ  ノル下 あはれ苦しき瞋恚の焔。
地     下 あはれ苦しき瞋恚の焔の立ちあがりつゝ。味方を見れば。
         高祖に属して寄せ来る波の。荒き声々聞けば腹立ちいで。
         物見せんとみづからかけ出で敵を近づけ。取つては投げ捨て。
         又は引き伏せ捻首とりどりに恐ろしかりける勢なれども運尽きぬれば烏江の野辺の。
         土中の塵とぞ。なりにける。


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