自然居士 (じねんこじ)

●あらすじ
放下僧(ほうかぞう)[大道芸の一種である放下を僧形で演ずる遊芸人]である自然居士は、ある少女が美しい着物と供養を願う書付を差し出すのを目にします。書付には両親の供養のために着物を捧げるとありました。そこへ男たちがやってきて少女を連れ去ります。着物は、少女が身を売って得たものだったのです。居士は少女が連れ去られたと聞き、説法を中止して跡を追い、舟の出る大津に急行します。居士は、着物と引き替えに少女を返すよう求めると、一度買い取った者は返さぬ掟があると断られますが、こちらにも身を売った者を見殺しにできぬ掟があり、自分も少女といっしょに行くしかないと言って舟から下りず、男たちを屈服させます。男たちは腹いせに、評判の舟の曲舞(くせまい)、ささら舞[ささらという和楽器を使った舞]、羯鼓(かっこ)[鼓(つづみ)を横にしたような雅楽の打楽器「羯鼓」を身に付けて撥(ばち)で打ちながらの舞]と、次々に芸を見せることを要求しますが、居士は少女のために拒むことなく演じて見せ、ついに少女を連れ戻すことに成功します。
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●宝生流謡本(参考)   内二十巻の五    四五番目  (太鼓なし)
    季節=不  場所=前・京都雲居寺 後・近江国大津(滋賀県)  作者=観阿弥(室町時代)
    素謡(宝生) : 稽古順=初序   素謡時間=45分
    素謡座席順   ワキヅレ=人商人  
              シテ=自然居士  
              ワキ=人商人   

●解 説@ (じねんこじ)   
『自然居士』は、観阿弥作の能の一曲である。世阿弥の手も入っていると考えられる。仏教の説教者の自然居士が芸尽しによって幼い者を人買いから救う。観阿弥らしい劇的構成が光る能である。
形式  現在能   能柄<上演時の分類>    四番目物   喝食ものの芸尽しもの
現行上演流派    観世・宝生・金春・金剛・喜多
場所 京都の雲居寺境内     近江国琵琶湖畔大津
 京の東山、雲居寺の門前で7日間の説法の最後の日、「このまま途中で止めては今日までの御説法が無駄になるではないか」と云われ、自然居士は決然と言い切った。 『いやいや説法は百日千日きこしめされても、善悪の二つを弁へんためぞかし。』 わが身を人買いに売って得た美しい小袖を、亡き両親の菩提を弔うために献じた少女が、今まさに人買いに連れ去られるに及んで、自然居士は説法を中断、琵琶湖畔まで連中を追いかけ、彼らの乗る舟にすがりつく。小袖を返すからこの娘を戻してほしいと。 「ひとたび売買が成立した人買いには、取り消しが効かないのだ」と言う連中に、「自分で自分の身を大事にしないような者に出会って、もし助けることができない時は、再び僧は自分の庵室には戻らない。」という僧にも厳しい掟があるという。娘を助けてくれないならこのまま一緒に東北までついてゆくと。「命を取るぞ!」とまで脅かされるが舟を下りない。連中はただ返せば無念だから、居士をなぶりものせんと、舞いを舞わせたり、鼓を打ったりを強要する。やがて結局自然居士は娘を取り戻して京にのぼることができたのだった。 自然居士は半僧半俗の姿で仏の教えをわかりやすく民衆に説く、鎌倉時代後期の名僧のひとりだったらしい。でもなんという行動力、なんという説得力。能が終って、私は涙があふれ出てきてしょうがなかった。
能の中の「自然居士」は、喝食および説教者と設定されています。禅寺における階級は、「稚児、喝食、沙弥(しゃみ)、侍者(じしゃ)、蔵子(ぞうす)、首座(しゅそ)、寺の住持」。喝食のあとの沙弥(17・8才〜)とは、剃髪して受戒した一番最初の僧のことです。禅寺では喝食の後は剃髪して沙弥になるか、元服して烏帽子をかぶるかの二通りなのですが、「自然居士」はどちらも選ばず、寺を飛び出して喝食姿のまま、反俗半僧の説教者の道を選んだわけです。
(観世能楽堂にて、シテ 観世清和) 

●解 説A      
「自然居士」の改作   −世阿弥の自然居士ー
世阿弥は観阿弥の時代に演じられていた詞章をカットしてしまいました。その詞章は世阿弥の著書、「五音」に残されているのですが、それには自然居士が自分の生い立ちを述べ、寺院体制からドロップアウトして隠遁者となり、そののち説教僧となったと詳しく説明しています。この内容は実在の自然居士からの立像なのです。しかし観阿弥は実在のひげを生やした風狂者の自然居士を喝食の少年僧に再生しました。さらに世阿弥は「五音」に残されている詞章をカットすることによって、「自然居士」の能本を喝食の少年僧にふさわしい内容に改作することに成功したのです。この部分は少年が言うにはふさわしくない難解な内容を含んでいます。それはもともと実在した年配者の自然居士のことを書いてあるのですから、難しくて当たり前なのです。これによって主人公の自然居士を、喝食の少年僧で演じるという矛盾が解決したわけです。しかも世阿弥は稚児を経験しています。その美しさがもてはやされた事も体験しています。能「自然居士」に稚児の姿を現し、稚児を演じることに大きな意味があったのです。『児姿は幽玄の本風なり』 (青葉乃会の座談会のテーマ)
実際の稚児が幽玄ならば、大人が稚児になってその幽玄を演じる、ここに能「自然居士」の面白さがあると思うのです。世阿弥が改作した「自然居士」は今日まで伝承されてきています。
観阿弥が演じた「自然居士」は(世阿弥がカットした詞章を再現した自然居士)は、昭和45年に観世寿夫先生が銕仙会例会で上演されたのがきっかけで、それ以後、観阿弥の「自然居士」は『古式』とか『古演出』との名称で何度となく試演されています。      観世流能楽師・柴田稔

●解 説B
歌舞芸能を取り入れながら説法をする「放下」と呼ばれる異端の宗教者。自然居士(じねんこじ)はそのような存在で、南北朝時代の日本に実在したと言われています。さて、京都東山の雲居寺の修復造営のために、自然居士は7日間の説法を行い寄付を集めています。そこへ両親の供養に、と美しい小袖を持った少女が現われます。少女のけなげな心映えに皆涙しますが、そこへ人買い商人が来て少女を連れ去ってしまいます。少女は自分を売って小袖を手に入れていたのです。自然居士は周囲の反対を押し切って少女の救出に向かいます。小袖を返すから少女を帰せと、自分の命さえかえりみない勢いに人買い商人はもてあまし、では恥をかかせてやろう、と芸尽くしをするように言います。もともと歌舞芸能に秀でた自然居士。見事に演じ、少女を連れて帰るのでした。
自然居士がつける面は、「喝食」という若い男性の面だそうです。目元涼しげで魅力的ですね。
「今の女は善人、商人は悪人、すは、善悪の二道ここに極まりたり」というセリフが決然としていて素敵です。子役の女の子は舞台上でのあまりにも長い待ち時間に眠くなったのか、舟を漕ぎ出しました。まさか、演技?とも思ったのですが、前に倒れそうなほどになり、ちょっとハラハラしました。大人でも眠くなるくらいですから、無理もありませんね
国立能楽堂では、前の席の背に字幕が出るようになっているので助かります。ボタンを再度押すと英文も出ます。でも最前列には当然ないんですよね?私は脇正面の3列目くらい。とても見やすい位置でした。                      
20081213 国立能楽堂 普及公演

(平成21年2月20日 あさかのユーユークラブ 謡曲研究会)


               自然居士  (じねんこじ)     (太鼓なし)

      季 不定   所 前 京都雲居寺 後 近江国大津    素謡時間 45分
  【分類】四五番目
  【作者】世阿弥元清   
  【登場人物】前シテ:自然居士 ワキ:人商人 ワキズレ:人商人

         詞 章                            (胡山文庫)

シテ    詞「今日の居士が説法満参とふれてあるか
                シカ/\
シテ    詞「いで/\説法演べんとて。しかも所は雲居寺月待つほどの慰に。
         始めんと。導師高座にあがり。発願{ほつぐわん}の鉦}打ち鳴らし。
       下 謹み敬つて白{まう}す。一代教主釈迦牟尼宝号。
         三世の諸仏十方の薩たに申して白{まう}さく。
         総神分{そうじぶ}に般若心経
                シカ/\
シテ    詞「何と幼き者の諷誦{ふじゆ}文を上げたると申すか。
                シカ/\
シテ    詞「やがて披いて見うずるにて候。敬つて申す受くる諷誦のこと。
         三宝衆僧の御布施{おんふせ}一裹。右志す所は。
   カカル下 二親精霊頓証菩提の為。身代衣一襲{ひとかさね}。三宝に供養し奉る。
         かの西天の貧女{ひんぢよ}が。一衣{いちえ}を僧に供ぜしは。
         身の後の世の逆善。今の貧女は親の為。
地     上 身の代衣恨めしき。/\。浮世の中をとく出でて。
         先考{せんかう}先妣{せんぴ}諸共に。
         同じ台{うてな}に生れんと読み上げ給ふ自然居士墨染の袖を濡らせば。
        数の聴衆も色々の袖を濡らさぬ人はなし袖を濡らさぬ人はなし。
ワキ    詞「かやうに候ふ者は。東国方の人商人{ひとあきびと}にて候。
        我此度都に上り。数多人を買ひ取つて候。又幼き者を買ひ取りて候ふが。
        昨日少しの間暇{いとま}を乞ひて候ふ程に。やりて候程に。未だ帰らず候。
        受け給わし候へば。彼の親の追善とやらん申して候ひつる程に。
        説法の座敷にあらうずると存じ候。自然居士の雲居寺に御座候ふ程に。
        立ち越え見うずるにて候。や。さればこそこれに候。
        あの高座近き幼き者にて候。急ぎつれて御入り候へ。
ワキツレ  詞「心得申し候。
                ワキ詞狂言
シテ    詞「何と唯今の幼き者を荒けなき男が二人来りて引きたると申つか。
                シカ/\
シテ    詞「偖汝は何と推量してあるぞ
                シカ/\
シテ    詞「居士はちつと水量申して候。唯今の女は親の追善の為に。
         我が身を小袖に代へ諷誦に上げたると存じ候。
         さあらば唯今の荒けなき者は人商人なるべしし。 
         偖いづ方へ行かうぞるぞな
                シカ/\
シテ     詞「ああ暫く。汝が行くならば。既に喧嘩に及ぶべし。
         居士此小袖を持ちて行き。
         彼の者と代へて連れて帰らうずるはかに。
                シカ/\
シテ    詞「いや/\説法には道理を演べん為なり。今の女は善人。
         商人{あきびと}は悪人すは。善悪の二道こゝに極まりたり
       下 今日{けふ}の説法これまでなり。願以比功徳普及於一切。
         我等与衆生皆共成{がとうよしゆじやうかいぐじやう}。
地     上 仏道修行の為なれば。身を捨て人を助くべし
ワキワキツレ上 今出でて。其処{そこ}ともいさや白波の。此舟路をや。急ぐらん。
シテ    上 舟無くとても説く法の。
地     上 道に心を。留めよかし。
シテ     詞「なう/\其・御舟{おんふね}へ物申さう。
ワキ     詞「これは山田矢橋渡舟{わたしぶね}にてもなきものを。
         何{なに}しに招かせ給ふらん。
シテ    詞「我も旅人{りよじん}にあらざれば。渡{わたり}の舟とも申さばこそ。
         その御舟へ物申さう。
ワキ     詞「さて此舟をば何舟{なにぶね}と御覧じて候ふぞ。
シテ    詞「其人買舟{ひとかひぶね}の事ざうよ。
ワキ     詞「あゝ・音{おと}高し何と/\。
シテ    詞「道理々々。よそにも人や白波の。音高しとは道理なり。
         人買と申しつるは。其舟漕ぐ櫂の事ざうよ。
ツレ カカル上 艪には唐艪{からろ}といふ物あり。人買と云ふ櫂{かい}はなきに。
シテ    詞「水の・煙{けぶり}の霞をば。一霞{ひとかすみ}二霞{ふたかすみ}。
        一汐{ひとし二汐{ふたしほ}なんどといへば。
   カカル上 今漕ぎ初むる舟なれば。一櫂舟{ひとかいぶね}とは僻事か。
ワキ    詞「実に面白くも述べられたり。さて/\何の用やらん。
シテ    詞「これは自然居士と申す・説経者{せつきやうじや}にて候ふが。 
        説法の・場{には}をさまされ申す。恨申しに来たりたり。
ワキ カカル上 説法には道理を述べ給ふ。
      詞「我等に僻事なきものを。
シテ    詞「御{おん}僻事とも申さばこそとにかくに。本{もと}の小袖は参らする。
        舟に離れて叶はじと。裳裾を波に浸しつゝ。舟ばたに取りつき引きとゞむ。
ワキ    詞「あら腹立{はらたち}やさりがら。衣{ころも}に恐れて得は打たず。
        これも汝が科{とが}ぞとて。艪櫂{ろかい}を持つて散々{さん%/\}に打つ。
シテ    詞「打たれて声の出でざるは。若し空しくやなりつらん。
ワキ カカル上 何しに空しくなるべきと。
シテ 上 引き立て見れば。
ワキ    上 身には縄。
地     上 口には綿{わた}の轡{くつわ}をはめ。泣けども声が。出でばこそ。
シテ    詞「あらいとほしの者や。やがて連れて帰らうずるぞ心安く思ひ候へ。
ワキ    詞「なう自然居士舟より御上り候へ。
シテ    詞「彼の者を賜はり候へ。舟より下りやうずrにて候。
ワキ    詞「参らせたうは候へども。我等が中に堅き大法の候。
シテ    詞「其の御法は候。
ワキ    詞「かようの者を買ひ取つて。二度もとの手へ返さぬ法にて候ふ程に。
         得参らせ候まじ。
シテ    詞「委細承り候。又我等が中にも 堅き大法の候。
ワキ    詞「其の御法は候
シテ    詞「かやうに身を徒らになす者に行き逢ひ。助け得ねば。
         二度庵室へ帰らぬ法にて候とにかくに。其方{そなた}の法をも破るまじ。
         まつた此方{こなた}の法をも破られ申すまじ。所詮此舟に便船し。
         彼の者う連れてお下りある、奥陸奥の国へ下るとも。御舟よりはおりまじく候。
ワキ    詞「舟より御{おん}おりなくは拷訴{がうそ}をいたさう。
シテ    詞「拷訴とは。
ワキ    詞「命を取らう。
シテ    詞「もとより捨て身の行ちつとも恐るまじ。命を召され候へ
ワキ    詞「いや此自然居士にはつたと持て扱うて候ふよ。先ずかう渡り候へ。
ワキツレ  詞「これは御帰しなうては叶ひ候ふまじ。    何事にて候ふぞ。
ワキ    詞「我等も左様に存じ候さりながら。この上は散々嬲{なぶ}つて帰さうずるにて候。
ワキツレ  詞「尤もにて候
ワキ    詞「なう/\自然居士急いで舟より御{おん}上り候へ。
シテ    詞「いや/\聊爾{れうじ}には下りまじく候。
ワキ    詞「何の聊爾の候ふべ急いで御{おん}上り候へ。
シテ    詞「や。船頭殿{せんどうどの}のお顔の色こそ直つて候へ。
ワキ    詞「いや/\ちつとも直らず候又。これなる舟子の申され候ふは。
         今度始めて都へ上りて候ふが。自然居士の舞{まひ}の事を承り及びて候。
         ひとさし舞うて御{おん}見せ候へ。
シテ    詞「総じて居士は舞まうたる事はなく候。
ワキ    詞「あら御偽を仰せ候。一年{ひととせ}今のごとく説法御述べ候ひし時。
         いで聴衆の眠{ねぶり}覚さんと。高座の上にて一さし御舞有りしこと。
         奥までも其聞え候。唯一さし舞うて御見せ候へ。
シテ    詞「それは狂言綺語にて候ふ程に。さやうの事も候ふべし。
         舞を舞ひ候はゞ彼の者をたまはり候ふべきか。
ワキ    詞「先づ御舞を見て。其時の仕儀{しぎ}によつて参らせ候ふべし。
         折ふしこれに烏帽子の候。これを召して一さし御舞ひ候へ。 
             物着
シテ     詞「面々な余りつれなう渡り候。
ワキ     詞「何のつれなう候ふべき。
シテ    上 志賀辛崎の一つ松。
地     上 つれなき人の。心かな。
             中之舞
ワキ    詞「余りに舞が短かうて見足らず候よ
シテ    詞「さあらば舟の起を語って聞かせ申し候べし。
    サシ上 ここに又蚩尤{しいう}といへる逆臣{げきしん}あり。
地     上 彼を亡ぼさんとし給ふに。烏江{おおがう}といふ海を隔てゝ。攻むべき様もなかりしに。
    クセ下 黄帝の臣下に。貨狄と云へる士卒あり。ある時貨狄・庭上{ていしやう}の。
         池の面{おもて}を見渡せば。折節秋の末なるに。
         寒き嵐に散る柳の一葉{ひとは}水に浮みに。又蜘蛛といふ虫。
         これも虚空に落ちけるが其一葉の上に乗りつゝ。
         次第々々にさゝがにのいとはかなくも柳の葉を。吹きくる風に誘はれ。
         汀{みぎは}に寄りし秋霧{あきぎり}の。
         立ちくる蜘蛛の振舞げにもと思ひそめしよりたくみて舟を造れり。
         黄帝これに召されて。烏江を漕ぎ渡りて蚩尤を安く亡ぼし。
         御代を治め給ふ事。一万八千歳{いちまんはつせんざい}とかや。
シテ    上 然れば舟のせんの字を。
地     上 きみにすすむと書きたり。
         さて又天子の御舸{おんか}を龍舸{りようか}と名づけ奉り。
         舟を一葉と云ふ事此御宇より始まれり。又君の御座舟を。
         龍頭鷁首{りようどうげきしゆ}と申すも此・御代{みよ}より起れり。
ワキ    詞「我等が舟を龍頭鷁首と御祝ひ祝着申して候。
         とてものことにさゝらを摺つて御{おん}見せ候へ。
シテ    詞「さらささらを賜はり候へ。
ワキ    詞「折ふし船中{せんちう}に竹が候はぬよ。
シテ    詞「さあらばささらの起りを語つて聞かせ申し候べし。
       上 かの仏の難行苦行し給ひしも。一切の衆生をたすけんためぞかし助けん為なり。
         居士もまたその如く。身を谷下{こくか}に砕きても。彼の者をた散りしを。
         それさゝらの起を尋ぬるに。東山に在る僧の。扇の上に木の葉のかゝりしを。
         数珠にて。さらり/\と払ひし時よりも。さゝらといふ事始まりたり。
         居士もまたその如く。ささらのこには百八の数珠。さゝらの竹には扇の骨。
         おつ取り合はせこれを摺る。
   カカル上 処は志賀の浦なれば。
地      下 さゝ波や/\。志賀辛崎の。松の上葉{うはば}をさらり/\とささらのまねを。
         数珠にてすれば。さゝらよりなほ手をも摺るもの。今は助けてたび給へ。
ワキ     詞「とてもの事に鞨鼓{かつこ}を打つて御見せ候へ。
シテ    詞「散々に御なぶり候程に。此上はふつつとなぶられ候まじ
ワキ    詞「此上は安藍なしに連れて御入り候
地     上 もとより鼓は波の音。寄せては岸をどうとは打ち。天雲迷ふ鳴神{なるかみ}の。
         とゞろとどろと鳴る時は。降り来る雨ははら/\はらと。
         小笹{をざさ}の竹の。簓をすり。狂言ながらも法{のり}の道。
         今は菩提の岸に寄せくる。船の内より。ていとうと打連れて。
         共に都に上りけり/\。


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