宝生流謡曲 源氏供養

●あらすじ
源氏物語およびその作者である紫式部を供養すること。 架空の物語を作ることは仏教における五戒の一つである「不妄語戒」(嘘をついてはいけない。)に反する事になるとする当時の思想に由来する紫式部が源氏物語という人々を惑わす絵空事を描いたため死後地獄に落ちてしまったとする伝承をもとに紫式部を供養しようとした行動。源氏物語に耽溺したために自身が不幸になったとする思想は1060年ころ著された更級日記の中にすでに現れているが、具体的な行動としては『宝物集』などに現れており、治承(1177年から1180年)・文治(1185年から1189年)のころに始まったとされており、中世には実際に何度か行われている。 上記に由来する物語。作者は不詳。鎌倉時代の成立とされる。写本により『源氏供養』(東海大学図書館桃園文庫蔵本)、『源氏供養草子』(宮内庁書陵部蔵本)、『源氏物語表白』(宮内庁書陵部蔵本)などの異なった表題を持つ。高僧が長年源氏物語に耽溺したため仏の教えに専心出来ないとする女人の依頼により供養するという内容。

●宝生流謡本   内十四巻の五      三番目  (太鼓なし)
  素謡(宝生) : 季節=春  稽古順=入門  素謡時間=46分  場所=近江国石山寺
  素謡座席順   ワキヅレ=住僧
             シテ=前・里女  後・紫式部  
            ワキ=安居院の法印
 
●近松門左衛門による浄瑠璃
三島由紀夫の戯曲 1962年(昭和37年)に「文芸」復刊3号で発表。当初全8作として発表された近代能楽集の9作目として発表されたが、後に「廃曲」として三島自身によって除かれたため[1]、三島由紀夫の生前には単行本への収録も雑誌などへの再録もなく、上演されることもなかったが、同人の死後には1981年(昭和56)7月7日から15日に東京・国立劇場小劇場において演出吉田喜重、出演真帆志ぶき、嵐市太郎、堀内正美、臼井裕二、渡辺喜夫ほかにより上演された。また、「三島由紀夫全集(23)」(新潮社、1974年11月)、「三島由紀夫戯曲全集下」(新潮社、1991年9月)、「批評集成源氏物語 4」(ゆまに書房、1999年5月)、「決定版 三島由紀夫全集(23)戯曲3」(新潮社、2002年10月10日)などに収録されている。なお、本作についてはこのような事情から初出誌以外のテキストが存在しないため、死後に出版された全集などでも他の作品に対しては行われているような初出誌と単行本収録版や文庫掲載版との差異を示すといった本文校訂は一切行われていない。

源氏供養   (能楽作品)。
作者(年代) 世阿弥、金春禅竹など諸説  形式 複式劇能
能柄<上演時の分類>  三番目物  現行上演流派   観世、宝生、金春、金剛、喜多
シテ<主人公> 紫式部 ワキ その他おもな登場人物> 安居院法印澄憲
季節  春    場所  石山寺

●概 要
石山寺へ参詣途中の安居院法印(澄憲)のもとに紫式部の霊があらわれ、自分は源氏物語を書いたが、その供養をしなかったため成仏できないと訴える。法印が石山寺に到着し回向をしていると、紫式部が生前の姿であらわれ源氏物語の巻名を読み込んだ謡にあわせて舞い、実は式部は観世音菩薩の化身であったとあかされる。作者については世阿弥説、河上神主説(以上『能本作者註文』)、金春禅竹説(『二百十番謡目録』)がある。
作品構成
、安居院法印の名のりから石山寺への道行き、紫式部の霊との出会いがあり、石山寺門前の者との問答ののち後段にうつる。法印が石山寺の境内で源氏物語の供養をしていると、紫式部がありし日の姿であらわれる。供養によって紫式部が観世音菩薩の化身であったとあかされ能は終る。序の舞は舞われず、源氏物語を読み込んだ長大な「クセ」があるという三番目物としては異例な形をとる。

●前 段
【登場人物】  前シテ - 里の女(紫式部の霊) ワキ - 安居院法印 ワキヅレ - 従僧(2人)
供の僧を連れた安居院法印が登場、石山寺の観世音菩薩を信仰していること、これから石山寺に参詣することを述べる。一行は辛崎(唐崎)のあたりで里の女に呼びとめられる。女は自分が紫式部の霊であることを匂わせ、「かの源氏につひに供養をせざりし科(とが)により 成仏できないでいる。どうか弔ってほしい。」と述べる。安居院法印は供養を約束し、里の女実は紫式部の霊は、石山寺で会おうといって消えうせる。

●間狂言 
【登場人物】アイ - 石山寺門前の住人  ワキ - 安居院法印  ワキヅレ - 従僧(2人)
石山寺門前の住人が法印をみつけて、見慣れない方々だがどなたかと問う。法印は自分の身分を述べ、紫式部のことを語ってくれないかと頼む。住人の言うには「紫式部は越中守(史実では越前守)為時の娘、上東門院に仕え、新しき物語を創れと命ぜられてこの石山寺に参籠し、祈願のうえ霊感を得て、まず須磨明石の巻から書き始めました。そののち罪障消滅のため、大般若一部六十巻を自ら書いて納経しました。」とのことである。住人は「ところで、なぜそのようなことをお尋ねになるのです?」と問う。法印は「さきほど若き女性から源氏供養のことを頼まれたのだ」と答えると、住人は「あなた様の貴さを見て式部が言葉を交わしにあらわれたのでしょう。」という。法印一行は、石山寺にて弔いをする。

●後 段
【登場人物】後シテ - 紫式部の霊   ワキ - 安居院法印   ワキヅレ - 従僧(二人)
夜もふけてなお法印たちが供養をおこなっていると、紫の長絹(衣)に緋の大口(袴)姿の女性があらわれ、法印の「紫式部にましますか」という問いに「恥ずかしながらあらわれました」と答える。そして「ありがたいお弔いになんの布施をすればよいでしょう」と感謝の言葉を述べると、法印は「布施などは思いのほか。ただ舞ってください」と言葉をかける。紫式部は手にもっていた願文を法印にわたす。法印たちはその願文を読む。地謡が「そもそも桐壺の、ゆふべの煙速やかに、法性の空に至り、帚木の夜の言の葉は…」と源氏物語の巻名を順に読み込んだ謡を歌い、紫式部はこれにあわせて舞う。「夢の浮橋をうち渡り、身の来迎を願ふべし…」と舞い納め、最後は地謡によって紫式部が実は石山の観世音菩薩であることが明かされ「思へば夢の浮橋も、夢のあひだの言葉なり夢のあひだの言葉なり」という詞章で能は終る。


               
源氏物語関係の謡曲7曲
                                       
小原隆夫記
 コード    曲 目      概        要        場所  季節 素謡時間
内04卷3 玉  葛  初瀬寺ニ参詣僧ガ玉葛ノ妄執ヲ供養  奈良  秋   40分
内05卷4 葵  上  葵ノ上ニ六条ノ御息所生霊トナリ嫉妬  京都  不   37分
内13卷3 半  蔀  雲林院で光源氏と夕顔の霊夢     京都  秋   30分
内14卷5 源氏供養 源氏物語54帖ノ紫式部ヲ供養      滋賀  春   46分
内20卷3 野  宮  葵ノ上ノ後日物語ヲ旅僧ニ語る      京都  秋   55分
外04卷5 須磨源氏 源氏物語の光源氏桐壷         兵庫  春   35分
外09卷3  胡  蝶  一条大宮ニテ胡蝶ノ精舞う        京都  春   35分


(平成23年8月19日 あさかのユーユークラブ 謡曲研究会)


                                   2008/8/1更新
◎概 要
石山寺へ参詣途中の安居院法印(澄憲)のもとに紫式部の霊があらわれ、自分は源氏物語を書いたが、その供養をしなかったため成仏できないと訴える。法印が石山寺に到着し回向をしていると、紫式部が生前の姿であらわれ源氏物語の巻名を読み込んだ謡にあわせて舞い、実は式部は観世音菩薩の化身であったとあかされる。作者については世阿弥説、河上神主説(以上『能本作者註文』)、金春禅竹説(『二百十番謡目録』)がある。

        源氏供養          三番目(太鼓なし)  
 
         ワキヅレ 住僧
         シテ    里女                 季 春 
         後シテ  紫式部
         ワキ    安居院の法印           所 近江国石山寺

ワキ、ワキツレ二人、(次第)
     「衣も同じ苔の道。衣も同じ苔の道。石山寺に参らん。
ワキ 詞「これは安居院の法印にて候。我石山の観世音を信じ。常に歩を運び候。
      今日もまた参らばやと思ひ候。
ワキ、ワキツレ
  道行「時も名も。花の都を立ち出でて。
ワキヅレ「花の都を立ち出でて。
ワキ、ワキツレ
  道行「嵐につるゝ夕波の。白河表過ぎ行けば。音羽の瀧をよそに見て。
     関の此方の朝霞。されども残る有明の。
     影もあなたに鳰の海実に面白き景色かなげに面白き景色かな。
  下歌「さゝ波や志賀唐崎の一つ松。
     塩焼かねども浦の波立つこそ水の煙なれ立つこそ水の煙なれ。
シテ 詞「なうなう安居院の法印に申すべき事の候。
ワキ 詞「法印とは此方の事にて候ふか何事にて候ふぞ。
シテ  「我石山に籠り。源氏六十帖を書き記し。亡き跡までの筆のすさみ。
   詞「名の形見とはなりたれども。かの源氏に終に供養をせざりし科により。
     浮む事なくさむらへば。然るべくは石山にて。源氏の供養をのべ。
     我が跡弔ひてたび給へと。此事申さんために。これまで参りて候。
ワキ 詞「これは思もよらぬ事を承り候ふものかな。
     さりながら易き間の事供養をばのべ候ふべし。さて誰と志して廻向申し候べき。
シテ 詞「まづ石山に参りつゝ。源氏の供養をのべ給はゞ。其時我も現れて。
     「共に源氏を弔ふべし。
ワキ  「嬉しやそれこそ奇特なれ。いで源氏を書きしは。
シテ  「恥かしや此身は浮世の土となれども。
ワキ  「名をば埋まぬ苔の下。
シテ  「石山寺に立つ雲の。
ワキ  「紫式部にてましますな。
シテ  「恥かしや。色に出づるか紫の。
地   「色に出づるか紫の。雲も其方か夕日影さしてそれとも名のり得ずかき消すやうに失せにけりかき消すやうに失せにけり。
                                                   (中入)
ワキ  「さて石山に参りつゝ。念願の勤事終り。 
     夜も更方の鐘の声心も澄めるをりふしに。
ワキツレ「ありつる源氏の物語。誠しからぬ事なれども。
ワキ  「供養をのべて紫式部の。
ワキツレ「菩提を深く。
ワキ  「弔ふべきなり。
ワキ、ワキヅレ二人 待謡
     「とは思へどもあだし世の。
ワキヅレ「とは思へどもあだし世の。
ワキ、ワキヅレ二人
     「夢にうつろふ紫の。色ある花も一時の。あだにも消えし古の。
     光源氏の物語。聞くにつけてもそのまこと頼少なき心かな頼少なき心かな。
後シテ 一声
     「松風も。散れば形見となるものを。思ひし山の下紅葉。
地   「名も紫の色に出でて。
シテ  「見えん姿は。恥かしや。
ワキ  「かくて夜も深更になり。鳥の声をさまり。
   詞「心すごきをりふし。灯の影を見れば。さも美しき女性。紫の薄衣のそばを取り。
     「影の如くに見え給ふは。夢か現か覚束な。
シテ  「うつろひやすき花色の。かさねの衣の下こがれ。紫の色こそ見えね枯野の萩。
     もとのあらまし末通らば。名乗らずとしろし召されずや。
ワキ  「紫の色には出でずとあらましの。言葉の末とは心得ぬ。紫式部にてましますか。
シテ  「恥かしながらわが姿。
ワキ  「その面影は昨日見し。
シテ  「姿に今もかはらねば。
ワキ  「互に心を。
シテ  「おきもせず。
地   「寝もせで明かす此夜半の。月も心せよ。石山寺の鐘の声。夢をも誘ふ風の前。
     消えしはそれか灯の光源氏の。跡とはん光源氏の跡とはん。
シテ  「花染衣の色かさね
地   「むらさき匂う.袂かな。
シテクリ「それ無常といつぱ。目の前なれども形もなし。
地   「一生夢の如し。誰あつて百年を送る。槿花一日唯おなじ。
シテサシ「こゝに数ならぬ紫式部。頼をかけて石山寺。悲願を頼み籠り居て。
     此物語を筆に任す。
地   「されども終に供養をせざりし科により。妄執の雲も晴れ難し。
シテ  「今逢ひ難き縁に向つて。
地   「心中の所願を発し。一つの巻物に写し。無明の眠を覚ます。
     南無や光源氏の幽霊成等正覚。
  クセ「抑桐壷の。夕の煙すみやかに法性の空に至り。
     箒木の夜の言の葉は終に覚樹の花散りぬ。空蝉の空しき此世を厭ひては。
     夕顔の露の命を観じ。若紫の雲のむかへ末摘花の台に座せば。
     紅葉の賀の秋の落葉もよしや唯。たま/\。仏意に逢ひながら。
     榊葉のさして往生を願ふべし。
シテ  「花散る里に住むとても。
地   「愛別離苦の理りまぬかれ難き道とかや。
     唯すべからくは生死流浪の須磨の浦を出でて。四智円明の。
     明石の浦に澪標いつまでもありなん唯蓬生の宿ながら。
     菩提の道を願ふべし。松風の吹くとても。
     業障の薄雲は晴るゝ事更になし。秋の風消えずして。
     紫磨忍辱の藤袴。上品蓮台に心を懸けて誠ある。
     七宝荘厳の。真木柱の本に行かん梅が枝の。匂に移る我が心。
     藤の裏葉におく霜の其玉鬘かけしばし朝顔の光頼まれず。
シテ  「朝には栴檀の。
地   「蔭に宿木名も高き。官位を。東屋の内に籠めて。
     楽栄を浮舟に喩ふべしとかやこれも蜻蛉の身なるべし。
     夢の浮橋を打ち渡り。身の来迎を願ふべし。南無や西方弥陀如来。
     狂言綺語を振り捨てゝ紫式部が後の世を。助け給へともろともに。
     鐘打ち鳴らして廻向も既に終りぬ。
地ロンギ「実に面白や舞人の。名残今はと鳴く鳥の。夢をも返す袂かな。
シテ  「光源氏の御跡を。弔ふ法の力にて。我も生れん蓮の花の宴は頼もしや。
地   「実にや朝は秋の光。
シテ  「夕には影もなし。
地   「朝顔の露稲妻の影。何れかあだならぬ定なの浮世や。
  キリ「よく/\物を案ずるに。よく/\物を案ずるに。紫式部と申すは。
     かの石山の観世音。仮にこの世に現れて。かゝる源氏の物語。
     これも思へば夢の世と。人に知らせん御方便げに有難き誓ひかな。
     思へば夢の浮橋も。夢の間の言葉なり夢の間の言葉なり。


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