船  橋 (ふなばし)

●あらすじ
熊野の山伏が松島平泉へ行く途中、上野国、佐野(現在の群馬県高崎あたり)に着き宿を取ろうとしていると、橋建立の勧進をしている男女(シテとツレ)に会う。男は万葉集にみえる歌にまつわる話、即ち、女のもとに通っていた男が、それを嫌う女の親によって橋の板がはずされているのを知らず、川に落ちて死んだしまったと話し、この物語は自分たちのことだと言い私たちを弔ってほしいと願って姿を消す。山伏が供養をして弔っていると男女の亡霊が現れ、未だに執心の鬼、或いは妄執邪淫の悪鬼となって成仏出来ないでいると訴え、昔の出来事を再現しつつ懺悔するが、やがて山伏の加持祈祷による仏法の力で成仏する

●宝生流謡本    内十四巻の二    四・五番目(太鼓あり)
   季節=春 場所=上野国佐野  稽古順=入門  素謡時間40分 作成者=世阿見九清
   素謡座席順    ツレ=里女           
              シテ=前・男 後・男の霊  
              ワキ=山伏  

●解 説
船 橋(ふなばし)の場所について各地方に各論伝説や史跡など色々名説があるようです。
上野国佐野(高崎市)    下野国佐野(佐野市)
船橋(ふなばし)伝説
 熊野の山伏が連れだって平泉に行く途中、上野の国、佐野で橋建立の勧進をしている男女に会う。
男は万葉集にある歌にまつわる話をする。昔此処に住んでいた男が、川向こうにいる忍び妻のもとに通 っていたが、女の親はそれを嫌い、橋板を外してしまった、それと知らぬ男は橋から落ちて死んでしまったと言うのである。男は、この物語は我々のことであると言って消えてゆく。(中入)。
 山伏が祈祷をしていると、男女の亡霊が現れ、妄執のため成仏出来ぬと嘆き、昔の出来事を再現しつつ懺悔し、行者の法味、効力を受けて成仏する。
 能で謡われる歌は「東路の佐野の船橋取りはなし親し離くれば妹に逢わぬかも」であるが、調べた範囲内では、それに似た歌は次のものしか見当たらない
「上毛野佐野の船橋取り放し親は放くれど吾は放るがへ」 (万葉集巻第十四3420


●史跡船橋(ふなばし)調査                    作成 平成17年12月20日
横須賀 美賀和会 和田完一氏の調査
1. 佐野の船橋 
   群馬県高崎市上佐野町203・畑のみの佐野窪町
   JR高崎駅下車タクシーが便利。運転手のほとんどが知らない。
   上佐野のマンション「サンクタス」と指示。玄関前から軽い坂を下ると橋が見える。
   遺跡はそこから坂を100mほど登ると石垣に囲まれた地に出る。
2.佐野の船橋 
   栃木県佐野市高橋町 渡良瀬川大橋 (国道50号) 
最寄駅としては JR両毛線富田 東武佐野線、田島または渡良瀬
なお、葛生地内秋山川にも「佐野の船橋」があったとされていますが、確認できていません。

●船 橋(ふなばし)その1
 熊野の山伏が連れだって平泉に行く途中、上野の国、佐野で橋建立の勧進をしている男女に会う。
男は万葉集にある歌にまつわる話をする。昔此処に住んでいた男が、川向こうにいる忍び妻のもとに通 っていたが、女の親はそれを嫌い、橋板を外してしまった、それと知らぬ男は橋から落ちて死んでしまったと言うのである。男は、この物語は我々のことであると言って消えてゆく。(中入)。
 山伏が祈祷をしていると、男女の亡霊が現れ、妄執のため成仏出来ぬと嘆き、昔の出来事を再現しつつ懺悔し、行者の法味、効力を受けて成仏する。
 能で謡われる歌は「東路の佐野の船橋取りはなし親し離くれば妹に逢わぬかも」であるが、調べた範囲内では、それに似た歌は次のものしか見当たらない
「上毛野佐野の船橋取り放し親は放くれど吾は放るがへ」 (万葉集巻第十四3420

●船 橋(ふなばし)その2
熊野の山伏が松島平泉へ行く途中、上野国、佐野(現在の群馬県高崎あたり)に着き宿を取ろうとしていると、橋建立の勧進をしている男女(シテとツレ)に会う。男は万葉集にみえる歌にまつわる話、即ち、女のもとに通っていた男が、それを嫌う女の親によって橋の板がはずされているのを知らず、川に落ちて死んだしまったと話し、この物語は自分たちのことだと言い私たちを弔ってほしいと願って姿を消す。山伏が供養をして弔っていると男女の亡霊が現れ、未だに執心の鬼、或いは妄執邪淫の悪鬼となって成仏出来ないでいると訴え、昔の出来事を再現しつつ懺悔するが、やがて山伏の加持祈祷による仏法の力で成仏する

●万葉集の歌とは、
万葉集 巻十四 相聞 3439/3420 であります。
原本は「可美都気努佐野乃布奈波之登利波奈之於也波左久禮騰和波佐可禮賀倍かみつけぬさぬのふなはしとりはなしおやはさくれどわはさかれがへ」です。
 上つ毛佐野となっているので、高崎市の船橋遺跡をご紹介します。
橋は碓氷川を合流し、利根川へ流れる「烏川からすがわ」に架かっています。烏川は、倉渕町鼻曲山の東麓の烏石と呼ばれる嘴状の黒色岩石から発していることにゆらいしています。

●佐野船橋史跡                      
 栃木県の船橋は、上野国と下野国の境である、渡良瀬川にあるので上野国側から行くと、「上つ毛佐野」となるとも考えられるので、捨て難いところがあります。地名の起こりはどちらも奈良時代のようです。しかし、「佐野の船橋」は、交通の要衝度からみると、やはり高崎の佐野でしょうと思われます。

●金剛流 船 橋 曲の概要
 熊野の山伏ワキ が平泉へ行く途中、上野の佐野を通りかかり、橋建立の勧進をしている男シテと女ツレに出会いました。男は万葉集にみえる歌にまつわる話として、川を挟んで住む男と女が船橋を渡り、会う瀬を楽しんでいたが、双方とも長者の両親は二人の結婚に反対し、ある時会う瀬を妨げようと橋の板をはずしてしまいました。それとも知らず渡ろうとして、男は川に転落、溺死してしまいました。女も恋人はまさしく来ていたはずと、橋を渡ろうとしてこれまた転落、溺死してしまいました。男女の亡霊は成仏できないことの嘆きを、昔の出来事を再現しつつ懺悔をし、山伏の祈祷により成仏しました。

 平成20年8月22日(金) あさかのユーユークラブ 謡曲研究会


               船 橋   (ふなばし)
         季  春      所 上野国佐野        素謡時間  四十分
  【分類】四・五番目物 
  【作者】世阿弥元清 典拠:万葉集「上野佐野の舟橋取り放し親は離くれど我は離れず」ヨリ
  【登場人物】前シテ:里男、後シテ:男の霊  ツレ:里女   ワキ:山伏

   詞章                                (胡山文庫)

ワキ次第  上 山又山の行く末や/\雲路のしるべなるならん。
ワキ    詞「これは三熊野より出でたる客僧にて候。我未だ松島平泉を見ず候ふ程に。
        此春思ひ立ち松島平泉へと急ぎ候。
    道行上 幾瀬渡りの野洲の川。/\。彼の織姫の契り待つ。
        年に一夜はあだ夢の。醒が井の宿を過ぎ。膽吹おろしの音にのみ。
        月の霞むや美濃尾張。老を知れとの。心かな老を知れとの心かな。
シテツレ一声上 法に依る。道ぞと作る船橋は。後の世かくるたのみかな。
シテ  サシ上 往事渺茫として何事も。見残す夢の浮橋に。
シテツレ  上 なほ数添へて船ぎほふ堀江の川の水際に。寄るべ定めぬあだ波の。
        浮世に帰る六つの道。遁れかねたる。心かな。
     下歌 恋しきものを古の跡はる%\と思ひやる。

   (小謡 前の世の ヨリ  渡さばや マデ )

     上歌 前の世の。報のまゝに生れ来て。
ツレ    上 報のまゝに生れ来て。
シテツレ  上 心にかけばとても身の。生死の海を渡るべき。船橋を作らばや。
        二河の流はありながら科は十の道多し誠の橋を。
        渡さばや誠の橋を渡さばや。
シテ    詞「いかに客僧。橋の勧に入りて御とほり候へ。
ワキ    詞「見申せば俗體の身として。橋興立の志。返す%\もやさしうこそ候へ。
シテ    詞「これは仰とも覚えぬものかな。かならず出家にあらねばとて。
        志のあるまじきにても候はず。まづ勧に入りて御通り候へ。
ワキ    詞「勧には参り候ふべし。さて此橋はいつの御字より渡されたる橋にて候ふぞ。
シテ    詞「萬葉集の歌に。東路の佐野の船橋取りはなしと。
        よめる歌の心をば知し召し候はずや。
ツレ    上 いやさように申せば恥かしや。身の古も浅間山。
シテ    詞「漕がれ沈みし此河の。
シテツレ  上 さのみは申さじさなきだに。苦おほき三瀬川に。
        浮ぶ便の船橋を。渡してたばせ給へとよ。
ワキ    詞「げに/\親しさくればの物語。さては古りにし船橋の。主を助けん其ためか。
シテ    詞「殊更これは山伏の。橋をば渡し給ふべし。
ワキ    上 そも山伏の身なればとて。取り分け橋を渡すべきか。
シテ    詞「さのみな争ひ給ひそよと。役の優婆塞葛城や。祈りし久米路の橋は如何に。
ツレ カカル上 たとふべき身にあらねども。我も女の葛城の神。
シテ    詞「一言葉にて止むまじや、唯幾度も岩橋の。
ツレ カカル上 など御心にかけ給はぬ。
シテツレ  上 さりながらよそにて聞くも葛城や。夜造るなる岩橋ならば。
        渡らん事もかたかるべし。
地     下 これは長き春の日の。長閑けき船橋に。さして柱も入るまじや。
        徒らに朽ち果てんを造りたまへ山伏。

   (小謡 所はおなじ ヨリ  給ふべき マデ )

地     上 所はおなじ名の。/\。佐野の渡の夕暮に。
        袖打ち拂ひて御通あるかの篠懸の。頃も春なり河風の。花吹き渡せ船橋の。
        法に往来の道作り給へ山伏。峯々廻り給ふとも。
        渡を通らでは。いづくへ行かせ給ふべき。
ワキ    詞「さて/\萬葉集の歌に。東路の佐野の船橋取り放し。
        又鳥は無しと二流によまれたるは。何と申したる謂にて候ふぞ。
シテ    詞「さん候それについて物語の候。語つて聞かせ申し候ふべし。
      語「昔此所に住みける者。忍妻にあこがれ。處は川を隔てたれば。
        此船橋を道として夜な夜な通ひけるに。二親此事を深厭ひ。橋の板を取り放す。
        それをば夢にも知らずして。かけて頼みし橋の上より。
        かつぱと落ちて空しくなる。
シテ    下 妄執と云ひ因果と云ひ其まゝ三途に沈みはてゝ。
        紅蓮大紅蓮の氷に閉ぢられて。
地     下 浮ぶ世もなき苦の。海こそ有らめ川橋や磐石に押され苦を受くる。
    クセ下 さらば沈みも果てずして。魂は身を責むる。
        心の鬼となりかはりなほ恋草の言茂く。邪婬の思に焦がれ行く船橋も古き物語。
        誠は身の上なり我が跡弔ひてたび給へ。

   (独吟 夕日漸く ヨリ  なりにける マデ )

シテ    上 夕日漸く傾きて。
地     上 霞の空もかきくらし。雲となり雨となる。中有の道も近づくか。
        橋と見えしも中絶えぬ。こゝは正しく東路の。佐野の船橋とりはなし。
        鐘こそ響け夕暮の空も別に。なりにけり空も別になりにけり。
           中入り
ワキ  待謡上 ふりにし跡を改めて。/\。三寶加持の行に五道の罪も消えぬべき。
        法の力ぞ有難き法の力ぞありがたき。
ツレ カカル上 いかに行者有難や。徒らに三途に沈みし身なれども。法の力か船橋の。
        浮ぶ身となる有難さよ。
後シテ   上 如何に行者我はなほし。此妄執の故により。浮びかねたる橋柱の。
        重き苦患者を見せ申さん。泣く涙。雨と降らなん渡り川。
        水まさりなば帰り来るかに。
地     上 かへれやかれれあだ波の。
シテ    上 柱を戴く磐石の苦患。
地     上 これこれ見給へ浅ましや。
ワキ カカル上 痛はしやいまだ邪婬の業深き。其執心を振り捨てゝ。なほ/\音を懺悔し給へ。
ツレ    詞「「何事も懺悔に罪の雲消えて。真如の月も出でつべし。

   (囃子 五障の霞の ヨリ  なりにける マデ )

シテ    上 五障の霞の晴れがたき。春の夜の一時。胡蝶の夢の戯に。
        いで/\姿を見え申さん。
ツレ    上 「よしや吉野の山ならねど。これも妹背の中川の。
シテ    詞「橋のとだえの有りけるとは。いさ白波の夜ごとに。
ツレ    上 通ひ馴れたる浮船の。
シテ    上 共にこがるゝ思妻。宵々に。

   (囃子 宵々に ヨリ  なりにける マデ )

シテ    下 宵々に。通ひ馴れたる。船橋の。さえ渡る夜の。月も半ばに更け静まりて。
地     上 人も子に臥し丑三つ寒き。
        川風も厭はじ逢瀬の向の岸に見えたる人影はそれか。心うれしや頼もしや。

   (仕舞 互にそれぞと ヨリ  なりにける マデ )

地     上 互にそれぞと見みえし中の。/\。橋を隔てゝ立ち来る波の。
        より間の橋か鵲の。行き合ひの間近くなり行くまゝに。
        放せる板間を踏みはづしかつぱと落ちて沈みけり。
シテ    上 東路の。佐野の船橋。とりはなし。親し。さくれば。妹に逢はぬかも。
シテ  キリ下 執心の鬼となつて。
地     下 執心の鬼となつて。共に三途の川橋の。橋柱に立てられて。
        悪龍の、気色に変り。程なく生死娑婆の妄執。邪婬の悪鬼となつて。
        我と身を責め苦患に沈むを行者の法味功力により真如法身の。
        玉橋の真如法身の玉橋の浮める身とぞなりにける浮める身とぞなりにける。


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