鸚鵡小町 (おうむこまち)

●あらすじ
能 宝生流 鸚鵡小町は百歳に及ぶ老残の小野小町(シテ)に、帝(みかど)から哀れみの歌が下賜される。「雲の上はありし昔に変らねど見し玉簾(たまだれ)の内やゆかしき」。小町は「内ぞゆかしき」と一字をかえるだけの鸚鵡返(おうむがえ)しの返歌に、かつての才気をみせ、勅使(ワキ)の求めに応じて和歌の道を語り、昔をしのぶ舞を舞う。小町が人に物を乞(こ)う生活の悲惨さを背景にしながら、温雅な叙情を漂わせる。『関寺小町』『檜垣(ひがき)』『姨捨(おばすて)』の三老女に次ぐ秘曲として、重く扱われる。      
[ 執筆者:増田正造 ]Yahoo!百科事典の写。

●宝生流謡本      内十一巻の三     三番目      (太鼓なし)
    季節=春   場所=近江国関寺辺   作者=
    素謡稽古順=奥伝   素謡時間=60分 
    素謡座席順   シテ=老女 小町
                ワキ=新大納言行家


                
小野小町関係 5曲
                                         
小原隆夫調べ
 コード    曲 目     概           説        場所   習順  季節 謡時間
内02巻4 卒都婆小町 老女小野小町が卒都婆を僧に語る 山城国  奥伝  不   62分
内11巻3 鸚鵡小町 老女小町鸚鵡返しで和歌を返歌     近江国  奥伝  春  60分
内16巻4 通 小 町 深草少將恋人のもとに99夜通う     山城国  初奥  秋  35分
内17巻3 関寺小町 老衰ノ小町ヲ関寺ニ招キ慰メル        近江国  三老  夏
外06巻3 草 紙 洗 小野小町ト大伴黒主ノ和歌くらべ     京都   初序  夏  50分

●観能記@
国立能楽堂「鸚鵡小町」  
2010年9月26日 (日) 金剛流
おととい、国立能楽堂で「鸚鵡小町」を見て来ました。「すし屋」の維盛のセリフに出てくるでしょう。ずっと気になっていたんですね。維盛をお勤めになる俳優さんは、当然「鸚鵡小町」をご存じだと思いますが、観客としても、もう何年も歌舞伎を見ているのだし、ちょっとステップアップしてみようか…なんて。あまり上演されない演目なんです。国立能楽堂の主催公演では初上演だそうです。能は何度か見たことがありますが、正直言って、あまり感動したことがありませんでした。しかし、この度の「鸚鵡小町」には、大変強く深く感動いたしました。能でも文楽でも歌舞伎でも、1度見ただけで「つまらなかったから、もう見ない」とか言わないでほしいんですね。映画だってテレビ番組だって、面白いものと詰まらないものがあるでしょう。個人的な好き嫌いもありますから。「鸚鵡小町」には、小野小町が登場するんですよね。「あの小野小町が、実はまだ生きていて、あなたの目の前にやって来る!」という話なんです。「小野小町に会ってみたい」と思っている人のための演目。会いたいと思っていない人には、全然面白くないと思う。能って、バレエみたいに回るわけではないし、シルク・ドゥ・ソレイユみたいに跳ねるわけじゃないし、橋掛かりをヨロヨロ歩いてくるだけで何分もかかって、外国人には分からないんじゃないかと思いますよ。フランス人には分かるんですか?ドナルド・キーン氏は、下手な日本人より日本の古典に通じている人ですから、例外なんじゃないでしょうか。日本文化には素晴らしいものがたくさんありますが、和歌もその1つ。小野小町の歌は、学校で必ず習うでしょう。「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」…掛詞を教えるときの代表作ですよね。その小町が、業平の舞を舞うわけです。折句の代表作「唐衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」を詠んだ業平です。こんなすごい設定ってあるのでしょうか。2人は歌のライバルでしょう。「起きもせず寝もせで夜を明かしては春の物とてながめ暮らしつ(業平)」…つまり「ながめ」の掛詞で張り合った間柄でしょう。私はあまりの美しさに涙が出ました。「和光の光、玉津島」ああ、なんて美しいんだろうねえ。その瞬間、日本文化の頂点が垣間見えたのですよ。こういう作品は、「業平の舞の袖、思ひ廻らすしのぶ摺」という詞章のところで、パッと「しのぶの乱れ限り知られず」などの古歌が思い浮かばないと面白くないと思うのですね。もう少し、能を見る機会を増やそうかと思う今日この頃。

●観能記A  宝生流
  シテ 近藤乾之助  ワキ 宝生閑
  地謡 藤井雅之 金井雄資 朝倉俊樹 今井泰行 小倉敏克 三川泉 高橋章 大坪喜美雄
  笛  一噌仙幸 小鼓 曽和正博 大鼓 柿原崇志
ワキは久しぶりにみる宝生閑だ。 最後に一枚だけ残っていた席が正面最前列、ワキ柱寄りだったので閑さんが俺をめがけて歩いてくるようでいい気分だが、なんとなく哀愁を漂わせているような感じがした。 シテ、近藤乾之助が幕から出てくる。黒い男笠(上がとんがっている山笠)にネズミ色の水衣、老女の面、杖をついてゆっくりゆっくり、歩くというより這うように、進んでいるのか、その場で揺れているのか分からないくらい。幕を出て一メートルも歩かないうちに見所の方を向いて、両手をふらっとあげて前に降ろし、しばらくたたずむ。そしてまた、カタツムリのように100年の時を反芻してでもいるかのように歩いてくる。 身はひとり、我は誰をか松坂や 絞り出すようにして謡いだすまで10分近くは無言で歩いてきた。 お囃子だけが切々とときに激しく100歳の小町の心の内を伝える。そしてむかしは芙蓉の花たりし身なれども。今は藜じょうの草(あかざ)となる。顔ばせは憔悴衰へ肌へは凍梨の梨のごとし。杖つくならでは力もなし。人を恨み身をかこち。泣いつ笑うつ安からねば。物狂と人は云ふ。と身の上を語り、よろめき、座り込み、再び立ち上がり、首をちょっと前に突き出して立ちつくし、都路に出て物を乞ふ 新大納言行家(ワキ・勅使)が帝からの歌を渡すと「老眼だから読めないので読んでください」と頼む。 かつて業平が玉津島で舞った法楽の舞いを所望される。木賊色の狩衣に風折烏帽子、業平の装束になって舞う。舞う、というよりとぼとぼとよろめき歩いているようなのはそういう演技なのか、近藤師の82歳という年齢がそうさせるものか。舞の途中でへたり込み、じっと俯いて息を整えているようでもあり己が老いを覗きこんでいるようでもある。そして立ちあがり これぞこの。積もれば人の老ひとなるものを。かほどに早き光の陰の。時人を待たぬ習ひとは白波の。あら恋しの昔やな。  そして杖にすがりてよろよろと。立ち別れ行く袖の涙。立ち別れ行く袖の涙も関寺の。柴の菴に帰りけり。110分と云う予定であったが実際にはもう少し早めに終わったような気がする。 陰々滅滅、外は雨、涙雨。 能は演技が終わって、そのあと役者や地謡、お囃子のすべての人が退場して初めてほんとのおしまいになるからそれまで拍手をしないで余韻を味わっているのがマナーだ。 最初はちょっと間が空くようで妙な感じだったが馴れると好いもので、たまにクラシックのコンサートに行って終わるや否や「ブラボー!」と叫ぶのが、うるさくて野暮に思う。そういうことを知らなくて直ぐに拍手しても周りがシーンとしているから直ぐに間違いに気づくのだ。が、この日は全然気がつかずにひとりで延々と拍手している人がいた。つられて自信なげに拍手した人もいた。どこにもKYはいる。                   
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あさかのユーユークラブ 謡曲研究会 平成23年2月18日(金)


詞 章
      
鸚鵡小町
                                         
季三月>
       ワキ>大納言行家
       シテ>小野小町

ワキ  詞「これは陽成院に仕へ奉る新大納言行家にて候。扨も我が君敷島の道に御心を懸けられ。
      普く歌を撰ぜられ候へども。叡慮に叶ふ歌なし。
      こゝに出羽の国小野の良実が娘に小野の小町。彼はならびなき歌の上手にて候ふが。
      今は百年の姥となつて。関寺辺に在る由聞し召し及ばれ。帝より御憐の御歌を下され候。
      その返歌により。重ねて題を下すべきとの宣旨に任せ。
      唯今関寺辺小野の小町が方へと急ぎ候。
シテ一セイ「身は一人。我は誰をか松坂や。四の宮河原四つの辻。いつ又六つの。巷ならん。
   サシ「むかしは芙蓉の花たりし身なれども。今は藜じょおの草となる。
      顔ばせは憔悴と衰へ。膚は凍梨の梨の如し。杖つくならでは力もなし。
      人を恨み身をかこち。泣いつ笑うつやすからねば。物狂と人は言ふ。
   上歌「さりとては。捨てぬ命の身に添ひて。/\。面影につくも髪。
      かゝらざりせばかゝらじと。昔を恋ふる忍寐の。夢は寐覚の長き夜を。
      飽きてはてたりな我が心/\。
ワキ  詞「いかにこれなるは小町にてあるか。
シテ   「見奉れば雲の上人にてましますか。小町と承り候ふかや何事にて候ふぞ。
ワキ   「され此程はいづくを住家と定めけるぞ。
シテ   「誰留むるとはなけれども。唯関寺辺に日数を送り候。
ワキ   「実に/\関寺は。さすがに都遠からで。閑居には面白き処なり。
シテ   「前には牛馬の通路あつて。貴きも行き賎しきも過ぐ。
ワキ   「後には霊験の山高うして。
シテ   「しかも道もなく。
ワキ   「春は。
シテ   「春霞。
地  上歌「立出で見れば深山辺の。/\。梢にかゝる白雲は。花かと見えて面白や。松風も匂ひ。
      枕に花散りて。それとばかりに白雲の色香おもしろきけしきかな。
      北に出づれば湖の志賀辛崎の一つ松は。身の類なるものを。東に向へばありがたや。
      石山の観世音瀬田の長橋は狂人の。つれなき命のかゝるためしなるべし。
シテ  詞「かくて都の恋しき時は。柴の庵に暫し留むべき友もなければ。便梨の杖にすがり。
      都路に出でてものを乞ふ。
    詞「乞ひ得ぬ時は涙の関寺に帰り候。
ワキ   「いかに小町。さても今も歌をよみ給ふべきか。
シテ   「我いにしへ百家仙洞の交たりし時こそ。事によそへて歌をもよみしが。
      今は花薄穂に出で初めて。霜のかゝれる有様にて。浮世にながらふるばかりにて候。
ワキ   「実に尤も道理なり。帝より御憐の御歌を下されて候。これ/\見候へ。
シテ   「何と帝より御憐の御歌を下されたると候ふや。あらありがたや候。
      老眼と申し文字もさだかに見え分かず候。それにて遊ばされ候へ。
ワキ   「さらば聞き候へ。
シテ   「いかにも高らかに遊ばされ候へ。
ワキ   「雲の上は。
シテ   「雲の上は。
ワキ   「雲の上は。ありし昔にかはらねど。見し玉だれの。内やゆかしき。
シテ  詞「あら面白の御歌や候。悲しやな古き流を汲んで。
      水上を正すとすれど歌よむべしとも思はれず。
    詞「又申さぬ時は恐なり。所詮この返歌を唯一字にて申さう。
ワキ  詞「不思議の事を申者かな。それ歌は三十一字を連ねてだに。心の足らぬ歌もあるに。
      一字の返歌と申す事。これも狂気の故やらん。
シテ  詞「いやぞといふ文字こそ返歌なれ。
ワキ   「ぞといふ文字とはさていかに。
シテ   「さらば帝の御歌を。詠吟せさせ給ふべし。
ワキ   「不審ながらも指し上げて。雲の上はありし昔にかはらねど。見し玉だれの。
      内やゆかしき。
シテ  詞「さればこそ内やゆかしきを引きのけて。内ぞゆかしきとよむ時は。
      小町がよみたる返歌なり
ワキ   「さて古もかゝるためしのあるやらん。
シテ   「なう鸚鵡返といふことは。
地  上歌「この歌の様を申すなり。帝の御歌を。ばひ参らせてよむ時は天の恐もいかならん。
      和歌の道ならば神もゆるしおはしませ。貴からずして。高位に交はるといふこと。
      たゞ和歌の徳とかや/\。
地  クリ「それ歌の様をたづぬるに。長歌短旋頭歌。折句誹諧混本歌鸚鵡返。廻文歌なり。
シテ サシ「なかんづく鸚鵡返といふこと。唐土に一つの鳥あり。
地    「その名を鸚鵡といへり。人のいふ言葉を受けて。即ちおのが囀とす。
      何ぞといへば何ぞと答ふ。鸚鵡の鳥の如くに。歌の返歌も。かくの如くなれば。
      鸚鵡がへしとは申すなり。
   クセ「実にや歌の様。語るにつけ古のなほ思はるゝはかなさよ。されば来し方の。
      代々の集の歌人の。その多くある中に。今の小町は妙なる花の色好み。歌の様さへ。
      女にて唯弱々とよむとこそ家々の。書伝にも記し置き給へり。
シテ   「和歌の六義を尋ねしにも。
地    「小町が歌をこそ唯事歌のためしに。引くのみか我ながら。美人の形も世に勝れ。
      余情の花と作られ。桃花雨を帯び。柳髪風にたをやかなり。
      紫笋はなほ動きほこり梨花は名のみなりしかど。今憔悴と落ちぶれて。
      身体疲瘁する小町ぞ。あはれなりける。
ワキ  詞「いかに小町。業平玉津島にての法楽の舞をまなび候へ。
シテ  詞「さても業平玉津島に参り給ふと聞えしかば。我も同じく参らんと。
      都をばまだ夜をこめて稲荷山。葛葉の里も浦近く。和歌吹上にさしかかり。
地    「玉津島に参りつゝ。/\。業平の舞の袖。思ひ廻らす信夫摺木賊色の狩衣に。
      大紋の袴の稜を取り。風折烏帽子召されつゝ。
シテ   「和光の光玉津島。地「廻らす袖や。波がへり。序ノ舞「。
シテ   「和歌の浦に。汐満ち来れば。かたを浪の。
地    「芦辺をさして。田鶴鳴き渡る鳴き渡る。
シテ   「立つ名もよしなや忍音の。
地    「立つ名もよしなや忍音の。月には愛でじ。
シテ   「これぞこの。地「積れば人の。
シテ   「老となるものを。地「かほどに早き光の陰の。時人を待たぬ。習とは白波の。
シテ   「あら恋しの昔やな。
地    「かくてこの日も暮れて行くまゝに。さらばと云ひて。行家都に帰りければ。
シテ   「小町も今は。これまでなりと。
地    「杖にすがりてよろ/\と。立ち別れ行く袖の涙。立ち別れ行く袖の涙も関寺の。
      柴の菴に。帰りけり。


鸚鵡小町
www.kanazawa-bidai.ac.jp/~hangyo/utahi/text/yo104.txt - キャッシュ ヨリ抜粋


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