「聖なる夜にまた逢いましょう」
著者:鯛の小骨さん

1話

カトルオックス島での事件から一ヶ月…
ロック達はよみがえったフラッター号で、
ディグアウト活動を再開していた。

ここはバレルの部屋である。
「バレル博士次はどこに行くつもりなんです?」
博士はさっきから古代文明に関っている文献を読みあさっているみたいだ。
ぼくがコーヒーを博士の机の傍らに置くと博士は顔を上げた。
「おお、ロック。次のディグアウト場所か?それを知りたいなら
ここを見るとええ。」
博士の指差したところを見ると…そこには1つの新聞記事がある。
「えっと、なになに?」
そこにはソーン島という島がケルベロスと呼ばれるリーバードに襲われた事、
そしてそのリーバードの上に乗っていた銀髪、そして赤い目をした少年の事
が書いてあった。

「博士、これは一体どういう事です?」
博士は今開いていた本を閉じるとぼくの入れたコーヒーを飲み始めた。
「さぁのう、わしも長いこと遺跡の研究やら何やらをやっとるが、
リーバードを従える少年、いや人間なぞ初めて聞いたわい。
どうじゃロック、その少年に会いたいとは思わんか?」
ロックはうなずいた。
カトルオックス島の事件から自分の過去につながる何かを探す為に
一つでも多くの遺跡をディグアウトしたかったからだ。

バンッ!!
けたたましくドアが開くと、データとロールちゃんがはいってきた。
「デ〜タ!昨日た・し・か・にあったはずのクリスマス用のケーキ、
どこにやったの!」
「ぼ、ぼぼく知らないよ!どっか他の場所にあるんじゃないかな〜?」
明らかにうろたえている。
ぼくの影に隠れてるところを見ると、また何かしたんだろう。
「ふーんしらを切る気ね… データ…口元に生クリームついてるわよ。」
「!!」
慌てて口元を拭っている。こんな古典的な罠に引っ掛かるなんて、
データの口元にはなんにもついていないのになぁ。
データはあっという間に捕まってロールちゃんに連れ去られてしまった。

「うう、痛いよぅ〜。」
リビングに来るとデータは頭に大きなたんこぶをつくって泣きじゃくっている。
相当しぼられたに違いない。
まぁこれでデータのいたずらぐせも少しは治るといいんだけど。

2話

「あ、ロック?さっきおじいちゃんと何の話ししてたの?
あと、データのこともう許してあげてね。
わたしがた〜っぷり叱っといたから。」
よく見るとデータの顔は目にあざができ唇はたらこだ、
何もそこまでしなくとも、あわれデータ…
「うん、バレル博士とは次のディグアウト場所について話してたんだ。
ソーン島っていう島なんだけど、ロールちゃん知ってる?」
「ソーン島?うーんそれって確かマンダ島の真南にある島だったと思うよ。
確か三つ首の犬が住んでるっていう伝説があって、カリンカ大陸では
三つ首の犬っていうのは地獄の番犬としてケルベロスの名でしられてたはず。」

ぼくが感心しながら話を聞いてると、妙に難しい顔をしているデータが目に入った。
「データ、どうしたんだい?難しい顔して。」
「いやー、ちょっと頭が痛むなぁーなんて思ってさ。いや、何でもないよ。」
「ふーん、…ならいいんだけどね。」
ガチャリ、博士が部屋に入ってくると。ぼくは夕飯の仕度を始めた。
言い知れぬ不安も何かしていると紛れる、その日は早く寝る事にしたが…
ロックの頭からはなぜか『遺跡に近づくな!』という言葉が離れなかった。

「ロック〜、起っきろ〜!ソーン島に着いたよ〜。」
「データ…、ってもう10時?ロールちゃんたちは?」
データがロックのベッドからぴょんと飛び降りると、
「ロールちゃんと博士はロックが余りにも酷くうなされてるもんだから、
しばらくそっとしておこうって二人で先に町を見にいったんだ〜。
起きたら街に来るようにって言ってたよ。」
「そっか、ありがとう。町はどこにあるの?二人を見つけなきゃ。」
「町ならここから北にあるよ、行こうか〜。」

「ひ、ひどい!」
町は廃虚になっていた。辺りの民家は残らず粉々になっている。
「おーいロックや、こっちに来てみぃ!」
「博士!、ロールちゃんもいる!」
博士に、呼ばれて行って見るとそこには何と!
二本の黒く太い線が地面を10数メートルにわたって、
燃やし、焦し、えぐり、溶かしていた、。
そしてその線上に残るものはない…黒き爪痕だ。
「どうやらここを襲ったリーバードはすごく強力な火炎を吐けるみたいなの。
こんな事ができるリーバードを従えるなんて、
一体その銀髪の少年って何者なのかしら。」

3話

ぼくらが辺りを見ているとふと男の声が、
「オイ、てめーら何やってる!」
声の主は大柄で歳は20半ばといった男だった。
どうやら町の人らしい。
「てめーらは新聞、つーものを読まんのか!
そのなりからするとどうやらディグアウターらしいが、
この島はあの三つ首の犬、ケルベロスに襲われてるんだ!そこの状況を見れば
そいつがどんなにヤバイやつかわかるだろう?!やつの炎で町の半分は廃虚になった。
死にたくなければ早々にこの町から立ち去れ!」

男は非常に興奮していた、実際ケルベロスを見たのだろう。
「ほっほっほ、そうは言われてものぉ。
ワシらはこの島の遺跡をディグアウトする為に来たのだしのぉ。
ディグアウターとして引き下がるわけにはいかんのじゃよ。」
「なっ、なんつーじいさんだ…死ぬ気かよ!
その遺跡こそ奴の巣窟なんだ!」
「いやいや、まだワシは死なんよ。のぉロック。」
「えっ(やっぱりぼくなの…)ってそれはぼくにそいつと戦って宝を
ディグアウトしてこいってことですか?」
「そうじゃ、他に誰がおる。何、ロックなら平気じゃよ…たぶん。」

たぶんって…
ケルベロスが残した炎は普通じゃなかった。
同じ炎を吐く犬型リーバード・カルムナバッシュ、
いやあのジュノさえ上回りそうなほどの攻撃力は計り知れなく、
今の自分でも勝てるかどうかわからなかった。

「ふん、そこの青いのそんなに強そうには見えねぇけど。
あいつの炎は一発でももらったら即オダブツだぜ。」
「うーん、おじいちゃん。この人の言う通りかも、いくらロックが強くても
今の装備じゃ分が悪すぎる。炎を防ぐ強力なバリアでもあれば別だけど…」
「ねぇねぇ〜、これは?」
データが手に持っているのは消化…いやアクアブラスターだ。
「データ、だめだよこれじゃあ。そんなすごい炎防げるわけないもの。」
「せっかくもってきたのに〜!」
しょうがないので何も着けて無かった右腕にとりあえず着けておくことにした。

ズシィン!
轟音が辺りに響く。とてつもなく大きな物が作り出すその音は
近づくものが何かいやというほどに明確に伝えていた…

4話

ズシン!「どうやら来たみたいだ、ケルベロスっていうのが。
    ロールちゃんと博士は隠れてて!」
ズシン!「馬鹿かよ青いの!こういうのは逃げるが勝ちだ!」
ズシン!「そうだよロック、今のままじゃ勝てっこないよ!」
………「もう、遅い…」

かの物体はすぐそこまで迫っていた、

ガヴァッッ!

そして三つの首のうち右側と左側の口を大きく開く!
「いけない!みんな逃げろ!」

ズガガガガッ!!!

二本の火柱が地面をえぐりとっていく、想像以上の破壊力。
また二本の黒き爪痕が残る!
「みんなは! …無事か。」
「ロールちゃん、今のうちだ!はやくみんなを連れてフラッター号に逃げて!」
「わかった、ロックも無理しないで…」

「ディグアウターを逃がしはしない…」
ケルベロスの頭の上から暗く重い声が響くとケルベロスは向きを変えた。
「まて!お前の相手はこのぼくだ!」
「威勢がいいな…そんなに死にたいのならこのリーバード・ケルベロスと
俺、ロックマン・ファブネルが黄泉の国へと送ってやる!」
ケルベロスが向き直る、
が、ファブネルはロックを見るなり信じられないという顔をした。

(!?…まさか!生きてらっしゃったのか?そんなはずは無い!
あの方はセラ様と闘い死んだと聞いた。戦ってみれば解るか…?)
一方ロックはファブネルの言った『ロックマン』の言葉に多少の困惑を感じていた。
(この人は…ジュノやぼくの過去に関係がある!?何とか止めて聞きだすしかない!)
そう決めるとロックのさっきまでの恐怖心は消えた。

「いくぞ!」
二人が同時に叫ぶ。
仕掛けたのはロックが先だった。バスターをケルベロスの三つの顔面に向け撃つ。
しかし重厚な見かけとは違う身軽さで次々とロックのバスターをかわす。
あっという間にロックと距離を縮めると、一瞬身をかがめ鋭い爪でロックを襲った!
ロックは側転でかわすが爪によって吹き飛ばされた土がまた襲ってくる。
「こいつ…なんてスピードとパワーだ!だけど…」

今度は右腕の爪がロックに振り下ろされる、そしてそれをロックが避けると
近くの岩盤に一瞬爪が突き刺さった!
「ここだ!」
ロックはその一瞬の内に、岩に突き刺した右腕の肘関節めがけバスターを…連射!

5話

ケルベロスの右腕はだらんとして動く気配はない。
「ふむ、やはり。ただのデコイではなさそうだ。だがまだ決断には至らぬ。
ここからは本気だ…いくぞ!」

ケルベロスは右腕が使えないとは思えないほどのスピードで突進してくる!
「くっ…なんてバランス感覚だ。1つ足を奪っただけで充分だと思ったのに。」
ケルベロスは真ん中の首を使ってロックがよけた後の地形を次々に粉砕していく。
信じられないほどのパワーだ。

(何とか距離をとって戦わないと。)
ロックはローラーダッシュを指導させて一気に間合いを広げる。
「甘い…!行け!」
ケルベロスの左首の口はすでに赤く光っている。
「まずい……!」

ズッド―(チッ)―ン!!ズズズ…

向こうの丘が崩れていく。
「ヤバイなぁ…ちょっと…くらっちゃったよ…」
ロックの左足は高熱で赤くただれている。
アーマーが無ければ一瞬の内に燃え…いや、消滅していたのだろう。
とはいえもう動ける状態ではなかった。

「ふん、俺の思い違いか…お前はあの方ではなかったのかも知れんな…
しかしお前ほどのディグアウターを生かしておくわけにはいかない。
ここを荒らされるわけにはいかないんだ…俺の一番大切な場所を。
終わりだ…死ね。」
右肩の首の口が大きく開き光り出した…

「くそっ!」
(この人は何か知ってるはず!ぼく自身の過去やジュノ達について。
だからあきらめるわけにはいかないんだ!それに…)
ロックは右腕のアクアブラスターを睨み付けると…
それを取り外し、右首の口をめがけて投げつけた!!
「いっけぇー!」
「最後のあがきか…撃て!ケルベロス!」
ケルベロスが炎を吐く直前、アクアブラスターが右首の眼前に!

炎が発射されアクアブラスターを包み込む…!

シュバアァァァァッッッ!ズッドーーーンッッ!!!........

すさまじい爆発は右首の眼前で起こった。
ケルベロスの右首は力無くうな垂れ、右半身には激しい損傷。
そして、ファブネル本人も血を右肩と顔から流していた。

「…まさかケルベロスの吐く炎の火力を利用して水蒸気爆発
(注*水を急激に熱した時の過剰な膨張によって起こる爆発だよ。)を起こすとは…
ここは退くが、遺跡に来い!もう一度勝負だ!過去と現在の決着をつける為にな…」

6話

「ま、まって!」
ロックが言葉を発した時には
もうファブネルとケルベロスはきびすを返して走り去っていた。

(あのディグアウター、あのなり、目の輝きからして本当にあの方…
トリッガー様かもしれない。ケルベロスや俺にここまでの痛手を負わせるとは…
記憶をなくされていたのか?)

ロックが目を覚ますとそこには見知らぬ天井が広がっていた。
「よかった〜気がついた。」
ロールちゃんはもはや半泣き状態だ。
「ロールちゃん…ぼくは…」
「ものすごい爆発音が聞こえたから急いで駆けつけたらロックが倒れてて、
もうあのリーバードと男の子はいなかったの。それで…」
「急いで担ぎ込んで俺の家で養生してるっつーわけ。
ここは町の北側、奴に襲われなかった所だ。」

部屋の入り口には町の跡で会ったあの男が立っていた。
「あなたは!…うぐっ」
右足がひどく痛む。見ると赤く腫れ上がっているが、あれだけの炎をくらって
この程度ですんでよかったというところだろう。

「だめだよロック!、ぼくが少し治療したけどまだ完全じゃないんだから。」
「青いのあんまり動かない方がいい。おさるさんのおかげで少しはましになったが、
本来ならその足は一生使い物にならないほどの火傷だったからな…
まぁいいか、自己紹介が遅れたが俺の名はラウドだ。
覚えときナ、ロック・ヴォルナット。」
そう言うとラウドは部屋を出ていった。

「ロールちゃん…ぼくはこの足を治したらこの島の遺跡にいく。
あの男の子はぼくを殺せた、なのに殺さなかったのは理由があると思うんだ。
それでその理由を知りたい…じゃなくて知らなきゃならない気がするんだよ。」
「わかった…ロックは一度なにかを決断したら何を言われても止めないもんね。
私、ロックを信じて待ってるよ。」
「ありがとう、ロールちゃん…」
…………
「クスクス、若いねぇ〜。」

「おーい、ロックにロール、じいさんとおさるさん、みんな起きたか〜?
朝飯できたぞ〜。」
「ふぁ〜。ラウドさん…おはようございます。」
ロックがダイニングに来ると、もう既に朝食の料理ができていた。
「これ、全部ラウドさんが用意したんですか?」

7話

「何を驚いとる。当たりまえだ!…と言いたいとこだが正確には
『全部』じゃなくて『ほぼ全部』だ。こいつが手伝ってくれたんでな。」
そう言うとラウドの背後から10歳くらいの小さな男の子がでてきた。
「は…はじめまして、トロイです…」
「はじめまして。ぼくはロック・ヴォルナット、よろしくね。
でもラウドさんに子供がいたなんて驚きましたよ。」
「ん?そうか?」

「おはようございま〜す。」
ロールちゃんと博士が起きてきた。
ラウドは自分の席に腰をかけると、
「おお、ロールにじいさん。よく眠れたみたいだな。
でも昨日ロールの部屋の方から動物の悲鳴が聞こえたと思ったんだが…
何かあったのか?
それとまだあのおさるさんがまだ起きて来てないみたいなんだが。」
「あ…さ、昨夜はちょっと…データはしばらく起きてこないと思いますよ。」
ロールちゃんの笑顔は少しひきつっていた。
その頃のデータはというと茶々を入れた罪で…いや、この掲示板ではふせておこう…

ラウドの作ったご飯を食べ終えかたずけも終えるとラウドが口を開いた。
「ちょっとみんなに話しておきたい事がある。トロイは外に遊びにいってきな。」
トロイは軽くうなずくとそれにしたがった。ラウドはそれを見送ると席に着いた。

「話しておきたい事はいくつかあるがまずはこの事件の経緯に着いて話しておくか。
奴が町に現れたのは4、5日前。だが存在が確認されたのは一ヵ月ほど前だ。」

「奴が発見された場所はこの島唯一の遺跡。
まぁ、普通リーバードは遺跡の中にいるものだし、当然と言えば当然なんだけどな。
でもおかしいんだよ。この島唯一遺跡、しかもその中はたいして広くないし
つい最近発見されたわけでもない。
だから今まで見つからなかった方がおかしいんだ。
その上リーバードは遺跡の番人、何故今まで出てこなかったと思う?」
ラウドはそう言うと立ち上がり引き出しから二枚の写真を持ってきた。

一枚は赤ん坊を抱いた女性。
もう一枚は遺跡の壁、
そしてそこにはロックがカトルオックス島のクローサーの森のサブゲート
で見た古代文字がびっしりと並んでいた。
「答えは簡単。奴は封印されていたんだ、その壁の向こうにな。
そしてその封印をといた大馬鹿ヤロウがそこの女。トロイの母であり俺の妹だ…」

8話

ラウドは二枚の写真を元の引き出しに戻した。
「妹の名はカリン、考古学者さ。」

「カリンじゃと!?」
突然博士が声を上げた。
「知ってるのか?じいさん。」
「ああ、よぉ知っておる。なんせ教え子の一人だったからのぅ。
彼女は古代文字に関しては天才じゃった。
その道の専門家が頭をひねるようなものでも
彼女はあっという間に解読してしまうんじゃからの。」

「そうか…でもじいさん、妹はそこにある古代文字を解読しちまった為に
奴を目覚めさせそして…殺されたんだ。
俺は今でも思い出す。その開かれた壁面の側に描かれた
『遺跡に手を出せば殺す』という《血》文字をな。」
ラウドの手は震えていた。
「俺は奴への復讐を考えたが、トロイがいたからな。
もし俺が死ねば父を亡くしていたあいつは一人になってしまう。
だから俺は復讐をあきらめた。」
……………

「おっと悪ぃ。ちょっと話がとんじまったかな…
じゃ、今度は奴が町に現れるまでの経緯を話すぞ。
遺跡の血文字の話は町中に知れた。
だからしばらくは遺跡に近づく奴はいなかったんだ。
それにうちの島は貿易も結構盛んで遺跡の宝に頼らんでも充分生活できるからな。
でも問題はおめーらみたいな旅のディグアウターだったんだよなぁ。
そいつらにとっては人が立ち入らない遺跡の方が都合が良いし、
リーバードが危険であればあるほどそこにある宝は極上だっていう
根拠の無い話が当たり前だからな。もう何を言っても聞かなかった。
そしてその遺跡から戻ってきたディグアウターは誰もいない…
奴が襲ってきたのは最後のディグアウターが遺跡に入った翌日。
目的は脅し、あいつは住民に避難する余裕を与え、町の住民全てのまえで
町の半分を廃虚にした。様子は知ってのとおり。あのすさまじい光景は
外からのディグアウターも遺跡に近づく事を止めさせたんだ。」

9話

「その後に来たのがぼく達ですか?」
「そうだ。でもお前達はそれでも遺跡に挑戦しようとするし、
その後現れた奴には深手を負わせた。だから俺は全てを話す気になったし…」

ラウドは一息つくと天井を見上げ、
そしてしばらくするとロック達の方に向き直った。
「いや、もうハッキリと言おう。ロック、お前に奴を倒してほしい。
奴はまた悲劇を生み出す。それは止めなきゃならない。」
「わかりました。もともとラウドさんに何も言われなくとも
行くつもりでしたし。大丈夫です!
足のけがもデータのおかげで今日一晩寝れば完治すると思いますから。
明日にもその遺跡に行こうと思います。」
「ありがとうロック…
まぁとりあえず話は終わりだ。今日これからは自由にしてくれ。」

そう言うとラウドは席をたち、自分の部屋へと戻っていった。
「ラウドさん、何かやりきれないって感じだったね。」
「うん…」
ロックはラウドが部屋に入る直前に右手から血を流しているのを見つけていた。
見ただけで心までもが痛くなるような傷だった。

「ロック、私これから開発部屋であの炎に対抗するものを作ってみるから
フラッター号に戻るね。」
「わしはちょっとこの町の図書館に出かけてくるわい。」
二人が去るとロックは借りていた自分の部屋に戻り
足の様子をひととおり確認すると横になった。
「そういえばデータはどうしたんだろう…」

「呼んだ〜?」
寝返りを打つと目の前にはデータ!
「データ、いつからいたの?」
「たった今だよ〜。ところでロック、ついに遺跡にいくみたいだね〜。
足のけが、治すよ〜。」
データはもう右足に手を当てている。そして、ポゥと柔らかな光が足を包み込む。
データがいつもしてくれる回復の仕方だ、痛みがどんどんひいていく。
「ロック…ぼくも行く…」
データが突然放った一言に、ロックは何も言わずただ力強くうなずいた。

次の日の夕方、ロックはすでに遺跡の前に立っていた。
足は完治し、右腕にはロールちゃんの夜なべの成果が取り付けられている。
遺跡は大きな口を開け小型リーバードの赤い目がロックを誘う。

「データ、ちゃんと捕まってて!」
ロックは遺跡の中へと走り出した。

10話

この遺跡内では外部との通信が不可能なのはラウドから聞いていた、
なので自分の力で遺跡の様子を探らなければならなかった。
遺跡の中は入り口から延々と続くまっすぐな道から
いくつもの道が枝分れしている構造になっている。
ロックはどこまで続くのかわからないまっすぐな道をいけるところまでいく事にした。

ザコリーバードを倒しながら奥へ進んでいくと、
小一時間ほどしたところで少し大き目の扉に出くわした。

静かに扉を開けるロック。
部屋を見渡すとなんと入り口とは反対の壁に
ラウドに見せてもらった写真と全く同じ古代文字が一面にかかれていた。

「この奥にファブネルはいるよ。」
とデータが言うと、壁が動き出した。そして壁の轟音と共に聞こえる人の声…

「お待ちしておりました、ロックマン・トリッガー様。」
壁の轟音が止むと目の前には大きな空間が広がっていた。
そして一体のリーバード。
「ケルベロス…!!…ファブネルはどこだ!?」
辺りを見回すがファブネルと思しき人物は見当たらない。

「俺はここです、トリッガー様。」
「ケルベロスが…喋った?」
「これが俺の本当の姿でありケルベロス本来の役目…
正体は戦闘専用の端末ボディ、俺が扱う事で真の力が発揮されるものです、
トリッガー様。」
「君もぼくの事をそう呼ぶのか…
ジュノも言っていたけどそれがぼくの本当の名前なんだね。」
「ジュノ様にもお会いになったのですね、そのとおりです…
そして俺はあなたに仕えていたイレギュラーハンターの一人。
…そろそろ始めましょうか…?」
「まって!君は大切な場所を荒らされるわけにはいかないと言っていた。
それに過去に決着をつけるとも、いったいどういうこと?」
「今答える必要はありません!…私に勝てたら教えましょう。」

言い終えるとケルベロスは低く構えた。
ロックはデータを肩から下ろし、意を決してバスター構える。
赤き瞳の覚悟、碧の目の決意、二つの信念の激突が始まる。

ラウドは窓辺に立ち、
先ほど引っ張り出してきた一つの大きく古めかしい箱を見つめていた。
「もうこの蓋を開けることはしないと決めていたのにな…」
その手にはかすかな日の光にきらめく小さな鍵がつままれている。

11話

ラウドはそれを箱の鍵穴に差し込み、ゆっくりと蓋をあける…
ギィィィ…

「ただいま…」
開いたのは箱だけではなかった、玄関からトロイがラウドの方を見つめている。
「おう、トロイ。今帰ったのか。」
………………
「トロイ、これから俺は遺跡にいってくる。なに、すぐ戻ってくるさ。
夕飯はもうできてるからロールちゃんとじいさんの二人と一緒に先に
食べててくれよな。」

「すぐ戻ってくるなんてウソだ!」
泣きながら叫ぶトロイを見てラウドは戸惑う、
しかしラウドは一度ゆっくりと目をつむり、そしてまたゆっくりと目を開けると
トロイの肩に手を置いてこう言った。

「トロイ、俺はどうしてもいかなきゃならない。
俺は自分の復讐を諦めきれなかったためにロックにそれを押し付けてしまった、
あいつがあの遺跡に行くのをいいことに利用したんだ。
それは俺の心の弱さからきたことだ、そのままにしちゃいけない。
だから俺は遺跡に行く、けじめは自分でつけなきゃならない!」

ラウドは箱の中の古めかしくもまだ静かな輝きを放つ
漆黒のアーマーを手に取り、脚、胴、腕、そして頭と順に装備していった。
そして最後にバスターを取り付け、玄関のドアの前に立つ。
「『父さん』…」
一呼吸置くトロイ。
「母さんは…帰って来なかったんだ。『父さん』は帰って来る?」
その男は笑って言う。
「ああ、必ず帰ってくる。」
彼の姿は夜の闇に吸い込まれていく、それを見送るトロイの目には
もう涙は浮かんでいなかった。

「行きます!」
ズドォッッ!!
ケルベロスがいきなり地面をえぐるようにして殴り付けると、
衝撃波が地面を砕きながら襲ってきた!ロックは横へ飛び回避する。
しかし眼前にはもう既にケルベロスは迫っていた。
「くぅっ!」
放たれた爪を紙一重でかわすが噛み付かれ真上に放られた!
ケルベロスは炎の発射体勢ににもうすでに入っている。
ロックの体を灼熱の炎が包み込んだ…

12話

ズガァァァァン!!!

突如炎を吐いていたケルベロスの左首が爆発した!
「ばかな!何が起きたと言うのだ!」

炎が止みロックがいた所にはバリアに包まれたロック自身がいた。
ロックは地面に降り立つ。
「やはり一筋縄では行きませんね、俺の炎を破ったのはあなたが初めてです。」
「ある人がぼくの為に作ってくれたぼくの切り札だ。
シールドで防御しつつレーザーで相手を攻撃できる。」
「なるほど、それで俺の炎の中を通して攻撃してきたわけですか。
もう俺の炎は通用しないでしょう。
でも、それだけの機能ならエネルギー消費も激しく長時間使えないはずです。
あと三,四発が限度でしょう?なら…!!」

ケルベロスは地面を爪でカッカッと鳴らすと猛突進してきた!
ロックの弾はケルベロスの体に食い込んでいくが突進は止まらない。
それどころかケルベロスの体は赤く変色!
突進スピードは更に増していく。
(避けきれない!)
ロックはバリアを展開、それにケルベロスの牙がぶつかりバチバチと音を立てる。
そしてケルベロスの胴体へ狙いを定めたレーザーが放たれた!
しかしその刹那、ケルベロスはロックを突き放す!

ドヒュウッッ…

空しくも空を切るレーザー、残りあと二発。
ケルベロスは既にロックから離れ、また突進する為の体勢をとる。
ヒット&アウェイと言ったところか、確実にこちら消耗を狙っている。
「おおおおおおっっ!!!!」
二回目の突進!しかしその時もロックのレーザーが当たる事はなかった。

ケルベロスのスピードはもはや尋常ではない、普通にやってもレーザーはおろか
連射の効くバスターでも捕らえるのは難しいだろう。
どうにかして動きを止めないと勝ち目はなかった。
しかしふと、ある考えがロックの頭に思い浮かぶ。
動きを止める為の最善の策だった。
ケルベロスはもう次の攻撃態勢に入っている。
レーザーのエネルギーは残り一発、次が最後の衝突になる。
そう確信した。

ケルベロスが突進してくる。
その赤い姿はケルベロス自身が火球の様でもあった。
ロックはレーザーを正面に構えケルベロスを待ち受ける。

13話

バリバリバリッッ!!
三度目の衝突。
ロックの張ったバリアとケルベロスの牙がはじけるような音を立てている。
そして…

「う、動けん!!」
バリアはロックではなくケルベロスを包み込んでいた!
ケルベロスは爪でバリアを引き裂こうとしているがそれが破れることはなかった。

「これで…」
レーザーの銃口にエネルギーが集中していく…
「どうだー!!!!」
最後の一撃が放たれる!

バリアの中は光り輝き、稲妻が走っている。
その光は激しくケルベロスの姿は見えない。

バチンッッ!
はじける音と共にバリアはガラスのように割れ、光が部屋全体を包み込んだ!!!

ロックの特殊武器はもうボロボロだった、右腕からも血が流れ出している。
ひざをつくロック、最大出力のレーザー攻撃は、反動、溢れ出たエネルギーなどで
ロックの体にも軽くはないダメージを与えていた。
「ケ、ケルベロスは!!……」

ケルベロスは体全身に多大なダメージを受けていた。
装甲はほとんど剥がれ落ち、左首の顎は外れてなくなり、その爪は砕かれ、
もう立つことはかなわないだろう、地に伏した状態でこちらを見ていた。
そう、『見ていたのだった。』
今にも消えそうなものの赤き目は確かに輝きを持ってロックを見つめていた。
ロックは重い体を引きずるようにしてケルベロスに歩み寄る。

「ハア…ハア…、ぼくの…勝ちだ…」
ケルベロス、いや、ファブネルは口を開かなかった。
「約束だ、教えてくれ、君が隠しているぼくと戦ったその理由を。」
「約束…そうですね、お話しましょう。」
ファブネルは思ったよりもハッキリとした口調でこういった。
そして言い終えるとケルベロスの体からひとかたまりの光が現れロックの目の前で
人の形を形成、ファブネル(人間型)になった。しかしその体も傷ついている。

「すいません、この姿の方が話しやすいと思ったので。
あなたはイレギュラーハンターの長でもあったのですが、
この地球のいくつかの島を司制官として管理もしていました。
その島の一つがここソーン島です。
あなたが姿を消す直前、俺はあなたから一つの任を受けました。それはこうです。」

14話

「『ソーン島の司制官はロックマン・トリッガー不在の間
ロックマン・ファブネルが務めること。』
そしてあなたは続けて俺とある約束をしました。
『デコイを殺さない。』とね。
俺にとってあなたの言葉は誰よりも重かった、
だから俺の一番大切な場所はここなんです。
しかしその任は果たされることはありませんでした。」

「なぜ?」
ロックはファブネルの言葉を受け止めた上で尋ねた。答えるファブネル。
「それは俺があなたに封印されたからです……
戸惑っていますね、無理もありません。
俺もすぐにはトリッガー様の真意がついこの間まで解らなかったのですから。
でも封印がとかれ、一人のデコイが俺の前に現れたとき全てを察し……」

「殺したんだな…」
声のする方を二人が見ると、ラウドがバスターを構えて入り口に立っていた。
「ラウドさん!どうしてここに!?」
「よくも…俺の妹を…そのおかげで残されたものがどんなに悲しんだか!」
ラウドの手は震えている、敵を前に我を失っていた。
そしてバスターを構えなおし、発砲しようとする! ファブネルが目を閉じ、覚悟を決めると…

「兄さん!!」
その一言は時を止めた。
声の主は確かにロックがラウドの見せてくれた写真の女性だった。
側にはなぜかデータが寄り添っている。
「カリン…一体これはどういう…ことだ?」
ラウドはバスターを下ろす。

「それはぼくが説明するよ。いいね、ファルー。」
「何故その名を…お前は一体何者だ?」
データは一度笑いかけたが、ファブネルには何も言わずに話し出した。
「ラウドさん、それにロック。見ての通りカリンさんは死んじゃいない。
ファブネルは誰も殺しちゃいない。
ファブネルはロックとの約束を果たしていたのさ。
ロックがファブネルを封印した理由は
この島の人々とファブネル本人を守る為だったんだ。
司制官の主な仕事は遺跡の宝の保護と初期化、つまり人々との敵対。
あの約束と矛盾してしまうんだ。
仕事を無視すれば命令違反の反逆者、約束を破れば人が死ぬ。
それを止めるため、まだ言えないけどもう一つファブネルを守る為に
ロックは封印を実行したんだよ。」

15話

「それをある程度理解し、ロックの意思を尊重したファブネルは殺さずに
カリンさん達をコールドスリープで眠らせていたんだ。」

一間あくと、今度はロックが口を開いた。
「でもそれじゃぼくとファブネルの戦った意味がないんじゃ…」
「そんな事はありません。
俺は正直素直にはあなたとの約束を果たそうとは思ってませんでした、
ですがその時のあなたの目は本物だった。
私は悩みました、デコイとは何者か、どう接するべきなのかとね。
答えを出す為にはあなたと戦いその意志の強さを確かめるのが一番良いと
俺は思ったんです。そして答えは見つかりました、
俺はこの身が尽きるまであなたとの『約束』を貫きます!」
「ファブネル…ありがとう。」
ロックの目には悲しみから来るものではない涙が浮かんでいた。

「よし!一段落したし、帰ろうロック。」
「え、でもデータまだカリンさん以外の人がまだ眠っているんじゃ…」
「そんなのとっくに逃がしたよ〜
ってそんな事いって昔の仲間と別れるのが名残惜しいんでしょ。
大丈夫、またあえるさ〜」
そういうとデータはファブネルの下へ走りより、彼の傷ついた体を治し始めた。
そして瞬く間に彼の傷を癒すと何事か彼に囁き、再びロックの下へ戻ってきた。
ロックは微笑んでいる彼の姿を見て安心し、
先に部屋を出たラウド達兄弟の後を追った。

ロックが部屋を出ると、突然巨大な地響きが起こりファブネルの部屋は
例の古代文字の壁によって再び封印されていった…

16話

夜遅く、ラウドの家に帰ってきたロック達は無事と『クリスマス』の夜を祝う。
ロールやトロイにとって大切な人の生還は
この上ないクリスマスプレゼントになったことだろう。

ふと、ロックが思い出したようにデータに聞く。
「ねぇデータ、ファブネルと別れる時最後になんて言ったの?」
「うーん、まだロックにはやり残した事があるからもう少しだけ封印されて
ほしいって言ったんだ。」
「ホントに?」
「うん、ホントホント。」
データはクリスマスケーキをがっつくのに夢中で上の空のようだった。
なのでロックももう深くは追求せず。自分もケーキを食べる事にした。

一人部屋に立つファブネル。
目の前の扉が再び開く時、今度は平和な地上へ歩み出していける事を願いながら、
彼はデータから伝えられた言葉を思い出していた。

「再びあなたと会えたこの日があなたとの出会いの日だったとは……
また…逢いましょう。」

聖なる夜に響く鈴の音、喜びの歌。

I wish you a MerryChristmas!
From everyone for evryone………


transcribed by ヒットラーの尻尾