「『対を成すモノ』第一章〜天国と地獄〜(前編)」
著者:がめがえるさん

プロローグ 〜マザー・ルナ〜

――――私は目を覚ました―――― 何がきっかけなのかは分からないが、それは必然的なことのような気がした。 そして、目覚めた以上、自らのすべきことは決まっている。 ――――システムの実行―――― それのみのために、私は作られ、それを阻止するために、ここに眠らされた。 主と同じ、『人間』に・・・ 地上の全てを焼き払い、無から再生する、このシステムを起動することが、正しいのか 間違っているのかなどということは分からないが、そのようなことは関係無い。 私はあくまでも、それのみのために存在しているのだから・・・

1話

「ユーナ様、大変です!」 重々しい感じの扉が左右に開き、ガガが飛び出してきた。 「ちょっと待ってガーちゃん、今良い所なの・・・」 巨大なおさげが特徴的なマザー・ユーナは、本――おそらく相当古い――のページをめく りながら答えた。 ガガは大きな声で、 「そんなことより!」 「そんなこととは何よ。 これでも仕事してるのよ、し・ご・と。」 ここはヘブンの倉庫。 昔の人間が残した様々な書物が並べられている。 本来ならここがライブラリとされるべきなのだが、今はシステム上のライブラリが本命と された。 ここでユーナは、デコイに脅威になり得る勢力についての資料を探している。 ここにある書物は莫大な量で、とても人力で探しきれるとは思えないのだが、自動で探し てくれるような都合の良い装置は無いのだ。 「な・・・ じゃあ『今良い所なの』って言ったのは何なんですか?」 疑わしそうな目つきでガガは言い放った。 「う・・・」 この一撃でユーナは押し黙る。 それものそのはず、ユーナは古代の物語的な神話を『楽しんで』いたのだ。 物置の整理をしていたら掘り出し物を見つけて、 それにハマってしまった・・・というのと同じである。 当然古き神々に関する資料的価値は無い。 「良いじゃないの! ちょっとぐらい!!」 逆ギレ。 全くもって情けない。 そこへもう一人のマザー、セラがいくつかの資料を持って現れた。 その資料には、共通してこう書かれていた。 ――HELL―― 「何を騒いでいるのだ?」 二人ともセラに気づき、援護を求める。 「あ、セラちゃ〜ん♪ ガガが邪・・」 「な、違いますよ、ユーナ様がサボ・・」 セラがため息をつきながら、 「それで、何が大変なのだ?ガガ」 と言うと、ガガは目的を思い出した。 「あ、そうでした! ヘブン上空に巨大な空間の歪みが・・・!」 この言葉で、二人のマザーは真剣な顔になった。 「で、どこら辺に?」 「サイドエリアの上空です!」 セラは、「そうか」とうなずき、 「ユーナ、この資料を頼むぞ。何かの役に立つかもしれん。 ガガはユーナと共にシャトルの準備をしてくれ」 ユーナはセラの考えがわかったと見え、 「セラ・・・ あなたも気をつけて」 「うむ・・」 数分後、ユーナとガガはシャトルベイにいた。 ユーナがシャトルのドアロックを解除し、ガガはセラから受け取った資料と、もう一つ、 ユーナが持たせた『何か』を持っている。 別にガガだっていつでもシャトルと融合しているわけではない。 「はい、開いたわよ。早く乗って」 「どう言う考えなんですか? それとセラ様は・・・」 ユーナはガガをシャトルに押し込むようにして、 「良いから早く!時間が無いの」 歪みの正体はだいたい分かっている。 しかしユーナは、 (こんなに早く動いてくるなんて・・・) という驚きを隠し切れなかった。 「空間の歪みから、何者かがワープしてきます・・・! これは・・・リーバード?」 シャトルの準備ができたときに、ガガが報告してきた。 シャトルの中には、ユーナ、ガガがいて、そしてどういう訳か、セラの通常端末がある。 「そう・・・シャトルの発射を急いで!」 行き先は・・・地球。

2話

同じ頃、セラは、ワープしてきたリーバードを撃退していた。 そのリーバードは、翼が妙に発達していて、体は・・・いや、これは一様には説明できな い。 全てが全て、奇妙な形をしている。 つまり、『奇形』なのだ。 頭部が巨大なものもいれば、目が多数あるものもいる。 共通しているのは、翼が巨大なこと――それさえも一体一体違う――だ。 まるで、この役目のためだけに造られたかのように。 それらが無数にいるため、その威圧感は物凄い。 そのリーバード達は、戦闘端末のセラを見つけるなり、群がってきた。 (クッ・・・数が多いな) セラがレーザーを放つ。 しかし、それでも一部を薙ぎ払ったに過ぎない。 そして、最も驚異的なのは、その生命力だ。 完全に潰し、爆発を確認しなければ、何度でも立ち上がり、かかってくる。 セラは一人でこのリ―バードの相手をしなければならない・・・ ――――グゥヴァ! 左腕を食いちぎられた。 地に落ちた左腕は激しくスパークしている。 その傷の断面からも食らいついてくる。 (そろそろ潮時か?) セラは、戦い始めてまだ十分程なのに、かなりのダメージを受けていた。 それは、セラが見事にシャトルの『囮』を果たしたということを表している。 ユーナ達の乗るシャトルが地球に到達できねば元も子もない。 既にシャトルの高度はすでに安全圏に達している。 それに・・・セラが離脱するにはもう限界に近づいているのだ。 (雑魚との戦いで死ぬつもりは無い) と、セラは考えている。 セラの人格がその場を離脱し、シャトルの中の通常端末へと移行した次の瞬間、戦闘端末 は周囲のリーバードを巻き込んで爆発を引き起こした・・・

3話

この日のカトルオックス島は島全体が実に良く晴れていた。 このカードンの森も例外ではない。 そこには、一人の青年がいた。 その青年は、肩にかかるほどの長さの髪と、漆黒の目を持っている。 彼は、カードンの森の比較的太い木に寄りかかって、ノートパソコンのような機械――お そらくこの地上の物ではない――のキーボードを打っている。 (良い天気だ・・・) ピアノを弾くような手付きで。 (こんなものかな・・・) やがて手を止め、その機械が処理を終えるのを待つ。 が、銀色の髪がかかった彼の耳には、エラーを示す音が入ってきた。 (送信不可能・・・どういうことだ・・・?) わずかに表情を曇らせる。 その直後彼は、結論を出した。 (これは、ヘブンに何かあったのか?) そうとしか考えない。 機械の故障や、自分のミスということを考えることは。 その機械は外部が破壊されない限り故障することは無いし、自分もミスをするようには作 られてはいない。 そういう確信が彼にはあった。 彼が機械に打ち込んでいたのは、『新任司政官』に関する報告書だ。 前の司政官であったロックマン・ジュノは、イレギュラー化され、更にそれを処分したの は同じくイレギュラーとして認識されているロックマン・トリッガーである。 そのトリッガーは当時、デコイのロック・ヴォルナットとされていたため、話がややこし くなり、新任の司政官を決定するのにここまで時間がかかってしまった。 (ま、ややこしくしたのは僕自身なんだけど・・) 彼は、ロックマンシリーズの管理人『ハイド』。 ユーナが察した通り、トリッガーの処分を実行しようとしたロックマン・ジークに警告を 出したのは、管理人であるハイドだ。(前作参照) しかしハイドは、ロックマンシリーズの管理人である立場上、秩序を守るために、トリッ ガーを処分させなければならないはずである。 その彼がトリッガーの処分を阻止した理由は、過去にマスターが、ハイドに告げた言葉に ある。 ―――トリッガー君は、最も完成に近いロックマンシリーズだ                    彼を死なせてはならない――― たとえ一等粛正官といえど、それほど特別だとはハイドは思わない。 しかしマスターのこの言葉が妙に引っ掛かっている。 (どういうことだったのかなぁ・・・最も完成に近いって) それを確かめたいために、ハイドはトリッガーを生かしているといっても良い。

4話

このあたりで彼の思考は停止された。 「あのー・・・」 見知らぬ少女に声をかけられたのだ。 その子は比較的動きやすそうな赤系のアーマーを着ている。 おそらく正面のダンジョンから今出てきたディグアウターであろう。 しかし初心者なのだろう。まだ幼さが残っている。 「何かな?」 「すいませんが、男の人が、ここに来てませんか? ひょろりとしてて、眼鏡かけた人なんですけど・・・」 ハイドは機械をたたみ、立ち上がりながら答える。 「いや・・見てないな」 「あ、そうですか・・。 迎えに来てくれるって言ってたんだけどなぁ」 後半は独り言である。 ハイドはふと思いついて、訊いてみる。 「ところで君は、ロック・ヴォルナットという人を知っているかい?」 その言葉を聞いた少女は、驚いたように、 「え?ロックお兄ちゃんを知っているの?」 (おやおや・・・ロックお兄ちゃんか・・・) ハイドは心の中で微笑した。 「ああ、知っているとも。結構詳しくね」 少女の知っているロックとは少し違うけど。 「ふぅん・・・友達?」 「ん・・ちょっと違うね」 第一、ロックの方はハイドを知らない。 「まぁ、仕事上の付き合いかな」 決して間違ってはいない。 「じゃあ、お兄さんもディグアウターなの?」 「それは違うね」 今度はきっぱりと言った。 少女は首をかしげて、 「・・良く分からない」 「だろうね」 ここで、少女の方から話を切り替えた。 「ねぇ、ロックお兄ちゃんに会いに行くことって、ある?」 ハイドは少し考えてから、 「ああ、近いうちにあるだろうね」 (ヘブンに異変が起こったということは、『アレ』が復活するのも近いということだろ う。 それならば、二人のマザーは、地球に降りてくるはずだ。戦力を求めて・・・ 『アレ』が地上に封印されている限り、戦いの舞台は地球になる。 そうなれば、彼は否応無く巻き込まれていくことだろう。 ヘブンの粛正官として生まれた宿命として・・・ そして僕もあの、イレギュラーと化した『片割れ』を処分するために、行かなくてはなら ない) 「どうしたの?」 しばらく考え込んでいたハイドの顔を見上げながら少女が言った。 「いや、何でもない。ところで君の名前は?」 人に名を訊くときは自分から名乗るという礼儀(?)を無視してハイドが訊く。 「私はねぇ、アイラっていうの」 「そうか・・・良い名前だよ」 恥ずかしそうにアイラは、「ありがとう」と言いながら、何かを考えるように顔をうつむ ける。 「そうだ!」 アイラが顔を上げ、 「今から手紙を書くからロックお兄ちゃんに・・・」 と、ここまで言った時アイラは、既にハイドの姿が消えていることに気づいた・・・

5話

「これって・・・どういうこと?」 ロールは、今目の前で起きている光景に、驚きの色を隠すことができなかった。 「さぁ・・・」 ロックもリアクションにおいて、ロールとさほど変わりはない。 「・・・」 データでさえもいつもの踊りを止め、不自然な格好でその光景を眺めていた。 バレルは、旧友と会っているとかいって、ここにはいない。 ここは、現在の地球一面積の大きい海洋、デュラック洋のド真ん中にある島だ。 半径2000kmの範囲には、島というものが全くない。 その上空にロック達のフラッター号がホバリングしている。 それはさておき、ロックたちの目の前で起きている現象とは・・・ ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ 「木が・・割れた」 樹齢何千年とも見当がつかない程の大樹が、雷の直撃を受けたかのように真っ二つに割れ たのだ。 島の地表の殆どを覆い尽くしていたその木の根が、太い幹が、島の中央から見事に割れ た。 自然にはこんなことが起きるはずが無い。 そして、案の定、これは自然に起きたことでは無いことは確かだ。 「ねぇ、ロールちゃん。あれ!」 パックリと割れた木の根元から、大穴が覗いていた。 その穴のサイドには、機械的な扉の様な物が僅かに見える。 おそらく、今までロックされていたのだろう。 そのロックが外れたため、扉が開き、その上に根を張っていた大樹を倒したのであろう。 そして、その暗い大穴の中には、明らかに人の手で作られたとわかる、階段が見える。 それは、遺跡への入り口とも思えた。 こう考えることができる。 何者かが、その遺跡への入り口を外部から発見することの出来ないように、大樹で封印し たのかもしれない。 オーバーに考えれば、『それ』を封印するために、この島は作られた・・・ともいえる。 第一、こんな孤立した小さな島で、このような大樹が成長できることからしておかしいの だ。 ここで『封印した』と決め付けて考えるのは、早とちりだとも言えよう。 しかし、その穴からは、不吉な空気が流れ出ていて、『封印した』という表現を使いたく もなるような雰囲気だ。 ロック達も、その穴が危険だということを感じていた。 「どうしようか・・・」 どちらとも無く言った。 しかし・・・彼らはディグアウターである。 好奇心に勝つことが出来ず、その穴のディグアウトを決意した。

6話

「なんだか不思議な構造・・・」 ロックが身軽に木を下っていき、その穴の階段に足をかけようとした時、ロールが通信機 で伝えた。 それを要約すると以下のような感じだ。 基本的に、幅3m程の螺旋階段状になっている。 それはカトルオックス島のメインゲートよりも遥かに曲線的で、かなり深いところまで続 いていく。 そして階段の真ん中は穴になっていて、多分一番下まで続いている・・・のだという。 ロックは、階段に沿って降りていくことに決めた。 真ん中に飛び降りていった方が早そうなのだが、下に何があるかがわからない状況ではか なり危険だと考えたからだ。 それに、分かれ道や宝箱を見逃すかもしれない。 今までの遺跡とは、構成している物質が違うようだった。 壁は完全に真っ黒、階段はまるで絨毯が敷いてあるかのように真っ赤で、共につるつるし た外見なのだが、滑らない。 「何だろう・・・妙な所だ」 ロックは、何の気無しに言葉を発した。 ロックの右手には、特殊武器『レーザーガトリング』完成型が装着されている。 ロールが作ったオリジナルに、ヘブンの技術を導入して、エネルギー面の負担を軽くした ものだ。 始めのうち、ロックは慎重に、真紅の階段を一段ずつ下りていく。 だが、何段下りても何も無いとなると、段々飽きてきた。 既に三百段程来ている。 ここまで来て、何も変わった様子は無い。 上には、入り口の光が小さく見えている。 (ここであそこが閉まったらどうなるんだろう・・・) という、入り口が見えているからこその恐怖が軽く沸いてきたりもした。 そう考えると、早くディグアウトを終わらせたくなり、足取りも早くなる。 ローラーダッシュまでは使っていないが、いつしか勢い良く走っていた。 その事に気づいた直後、通信機から、 「ロック、レーダーに中型リーバードの反応! 気をつけて!!」


transcribed by ヒットラーの尻尾