鳥は北の地を想う


 

夕闇せまり 山影に日が沈むころ

つばさを折られた鳥が ひとり

石の上に乗っている

そうすれば 遠い故郷が

見えるというのだろうか

 

波打ち際でたたずむ鳥に

もうおかえりと

浜辺の小さな黄色い花がつぶやくが

羽をたたんで

波打ち際を 行ったり来たり

途方にくれる。

 

もう帰れない

うなずくように 首を振りふり

自分に言い聞かす

思い出す 北の地 ふるさとの事

 

やがて 月がのぼり

水平線に一本の光の道ができる

遠い誰かに届けと 悲しい声が細く長くひびく

 

一輪の山百合が 群れから離れ

崖の岩の上に うつむいて咲いている

崖の上に咲けば 少しでも早く

あなたの帰る姿が

見えるというのだろうか

 

もう来ない きっと来ない

そう繰り返し

谷間から吹き上げる風に

首を振りふり 待っている

 

やがて 凛と咲く姿は 地に消えて

悲しみは 涙雨となり 土へと返る

山から里へ 今年も雪下ろしの風が吹く