チョコレート


 

その人は

暖かい 透明のベールをくれた

私を安心させてくれた

寒い夜

足を動かし 探し当てた毛布のように

ありがとう 元気になったから

一歩 前に出るよ

風の中に 冬の訪れを感じた日

ふてくされて手を突っ込んだポケットの中に

思いがけず探り当てた 毛布の切れ端

 

―――ありがとう

橋のたもとで 走り去る車を見送った

びょうと 風が頬をかなぐったから 

わざとナナメにまなざしを切った。

怒ったように。 ついでにもう 振り返らないと決めた。

ザワザワと 新しい私を祝福している 

河原のススキやクマザサ

ここから歩いて帰ろう

そっと分けてくれたチョコレートのひとかけらが

まだおなかの中で暖かい

 

私はこんなに早く歩くことが出来たろうか?

好きな流行り歌のフレーズ 何度も繰り返しつぶやいて

誰が見ていても 大丈夫

人は知らない

暖かい 透明のベールを 私がまとっている事

初冬の午後はみじかいね 早く帰ろう

そして ひとりぶんの紅茶を沸かそう

 

―――ありがとう