そこはかとなく 庭に使者が

いつの間にか訪れている

色彩を忘れた 灰色の朝

むき出しの腕から背中を 湿った冷気がなぞる

木綿の布ではもう拒めない 季節の指先

透明な空気が

重く垂れ込めた空から

憂鬱と 静かな安堵を連れてくる

風が枯れゆく枝を 静かに揺らしている

一緒に過ごした 陽気な夏を

うとりうとりと思い出させては

永い眠りへと誘うよ

赤子を寝かしつけるように

時の葉は 別れを悟り落ちてゆく

ポツリと咲く一輪の ボタン色の秋のバラだけが 

震えながら それを見とどける

庭の隅で目を閉じたまま動かない 子犬

小さな鼓動に そこだけ空気がまるく息づく

小さな腹の下で温かく眠る 砂粒のような蟲

音のない朝

庭では おごそかに季節の営みが続く

冷たい雨を降らせる風が やがてここにも吹くだろう