ひとひらずつの暮らし



日々の暮らしの中で

ただ 息をしているだけなのに

ふと

想いが 熱い何かに行き当たり

その先へ進めなくなるのです

 

咲きほころぶバラをながめていると

花びらの輪郭のゆるやかさにも

にじんでゆく淡い杏色にも

空気に溶け込んだ 香りにも

あなたを思い出してしまうので

もともとの名前があるにもかかわらず

そっと 密かに

そのバラにあなたの名前をつけたりします

 

めずらしく

ゆったりと大きな船に揺られたように

柔らかい眠りとなった昼間すぎに

めざめると

洗いざらしのポケットから

つまみだした砂粒のように

誰かの声が耳の底に残っていました

 

なんだか急にむなしくて

さびしくなり

先のことなど考えず

足元だけを見て

暮らそうと そう心に思いました。

 

先程から 心地よい夕暮れの風が

私をはげまし吹いています。

 

だからまた

ひとひら、ひとひら

無心に花の咲くように

朝を、夕暮れを、迎えようと思います。

 

そのように

暮らしを折りたたんでゆきましょう。