高いところにいる月は



闇のベールを操るものが

その杖で 気まぐれに 暗黒をひとかきすれば

月もあらわれ 風が起こり 夜空は星で満たされる

 

夜の顔は 漆黒ではなく

天高くにあがった月が 静かに下界を照らしている

 

なんて穏やかな 晴れ渡った夜よ。

ちいさな私がここに立ち

あなたを見上げている事など 気づきはしないだろうが。

 

この大地の存在の ひとつひとつに

優しく濡れた光を ふりそそぐ 

美しい 夜の空の 主(あるじ)よ。

 

今宵、あなたにかしずき 心の全てを打ち明けます(ウソ)

口から流れ出てしまった おろかな言葉達を

かき集めるすべを 教えて下さい。

 

時を巻き戻す 時空のネジを

どうか 空から落としてはくれまいか。

 

昔、自転車で月を追いかけた。

どんなに走ってみても

あなたは 同じ距離だけ遠くに離れて

静かに笑っていた。

 

天空の隅々にまで まなざしをふりそそぎ

銀色の指先を広げる

美しい 夜の空の主よ。

 

どうか私に 時を巻き戻す 時空のネジを

空から落としてはくれまいか。

 

私が歩いてしまった おろかな過去を 

ぬぐい去る すべを 教えて下さい。