水底 から





ぷくぷくぷく…水の冷たさ 忘れていた




左右にゆられ 沈んでゆく旅の途中

もがきながら目をあけると 目の前を

ゆっくり水の泡が 上へ 上へとあがっていく

手を伸ばすと 人差し指に ひとつ

とまった 水のあわ 

「ひらがな?」




「そ」…?

暗い底のほうから やってくる 水のあわ

「ば」 …「に」 「そ・ば・に」?




苦しくない 沈みながら 次のあわを待っている

それからは もう 夢中

あわを求めて指先伸ばす

「そ」 「ば」 「に」 「い」 「る」 「か」 「ら」




ソバニイルカラ




もう おそいよ




いつのまにか 水面にいた

…水底から 大きなチカラ わきあがり

漂う何もかも 水面に押し上げたの




…誰が そばに?

ぽかんと広がる波間に揺られた …海風の音だけ 

…それを探して生きろということ?

…会いたい でももう 波はなにも言わない