明け方の旅





カーテンが揺れて

ガラス窓から朝がやってくる

夜明け前の舟に戻りたがる私の背を

明るいほうへと 押すよ




だって 長い廊下のさんざめき

朽ちかけた板張りの あの建物の壁には

陽だまりのにおいや

鉛筆ナイフで刻まれた言葉とともに

埃にまみれた笑顔やおしゃべりが 取り残されていたから




彼女たちが広い草はらを てんでに走りまわると

あちこちにスカートの裾が まあるくひるがえり

手をつないで 夢 語り合ったり

でもこの溝を飛べなかった

彼女たちは誰ひとり 私のことは気に留めないから

少し さびしかったよ




握りしめた手の中の

目覚めの国へむかう 汽車の切符が温かい




みんな

ここに置き去りにされたのではないのだね

安心していいんだね

私は 帰るよ また来るからね