忘れてしまわぬように

浅い春の曇りの街は

みえない何かに 覆い尽くされてるみたい



暖かで細かな水の粒子が

湿り気となって 優しく包んでくれるから

人はなんだか 足元の歩幅も狭くなる



いつもよりほんの少しミルクが多すぎたコーヒー

飲んだ時のように 頭が重く

どんより どんより 胃にたまる



視界が狭く感じるのも 遠くが霞んで感じるのも

春の気配が 灰色のもやとなって

この街に流れ込んでいるせい



すれ違いざまの挨拶も 聞こえづらいです

こんな日は 音が伝わりにくいのね

くぐもった声で 誰かの会話が でも知らん顔



ぱたぱたぱた 飛行の練習でしょうか

ヘリコプターが いつまでも頭上を旋回しています

からかわれているような 監視されているような

それとも何事か 非常事態でしょうか

足が前に動きません



浅い春の曇り空

過去の記憶がにじみ出して

街も どこか夢見がち



回転翼の回る音も 早熟の土鳩の嘆き声も

オブラートかかった耳には

やけにのんびり 響きます