海風の記憶 長い桟橋の向こうに低く灰色の雲が 幾重にも重くかさなる秋の休日 大股で歩く背中を追いかける 古いタイヤの間に さざ波がいくつも寄せて 白い波頭は 小声で波の歌をつぶやいていた 湿った海風が髪を乱し 冷えた指先ふるえる 私の足音 聞こえているのに
紺色のセーターに追いついたところで 言葉はなく 風向きが変わると 海の向こうから 高速道路の引きずるような低い音 ここに居場所はない と そんな何度も突きつけないで わかっているから
ソファでうたたねしていたら 10月の曇り空 湿った風が鼻をかすめた あぁこれは あの時の桟橋の 不思議だね まだ私はここにいる 萩のまあるい葉が頷いて 紅色の花が揺れてこぼれた 季節はまた秋 記憶は 湿った海風つれて何度でも窓を叩く キーボードの指先 灰色の午後が貼り付いて離れない |