なべとDNA

気がつくと

なべを磨いていた



どこまでも どこまでも

終わりがない時に 迷い込んだかのように

ふと 父を思い出す

なべはいつもきれいにしろ

怒ったようになべを磨く 父の背中が怖かった

母は ただ

そばで おろおろするだけだった



テーブルに座る後ろ姿は いつも石の壁のようだった

父にとり

磨くものは 何でも良かったのではないか

すべてを忘れて

なべに取り込まれていたかった

それだけだったのではないか



わぁきれい! 無邪気な声を上げてみた

凍りつく台所

父には 必要のない笑顔だったのか

時は流れ せっせと私は手を動かす

なべを磨く

何を背負い 何を抱えていたのだろう

その質問に答える人は

もう いないけど