孔雀のしっぽ

「大丈夫?」薄目を開けると心配そうに立っている黒い影。
「いや、足首と肋骨が痛い。」もやのかかった片目だけ、やっと開けて見た時計はもう午後3時。カーテンの隙間から傾きかけた心細げな太陽がまぶしく、すこし開いた窓からつめたく乾いた風。心地よく頬にあたる。枕からずり落ちた頬の上に携帯が開いたまま乗っていた。誰にメールを打とうとしていたのだろうか。

ここは居心地悪く、私はどうにか脱出したかった。
それで飛んできた孔雀の青く長い尾っぽを掴んでしまい、空を数度にわたり振り回されていた。あげくに塀の上に止まった孔雀は、必死にしがみつくこの形相を見て、せせら笑いながらお尻を上下にゆすり私を振り落とした。がけっぷちをまた石ころとともに寝巻き姿でごろごろ滑り落ちてゆく。あぁ。

ベランダの日が翳った、コントラストの強い晴天の空と寒いベランダをながめて、「洗濯物をいれなくちゃ。」肩甲骨が左右対称にしくしくする。マスクの中には熱い息がたまって鼻の頭に汗をかく。荒い呼吸を繰り返し、ガラス戸の鍵を開ける。

あ、黒い壁紙が隅っこからはがれてるのに気がついて電話したんだよね。職人さんは朝の9:05か夕の5:45にしか来れないという。「壁のメンテナンスは始業後すぐか、就業間近にしか行えません。どちらにせよ。」
はぁ。「どちらにせよ。」って何のことだろう。壁紙を貼り直してほしいから従うしかない。世の中、弱いものいじめだな。

ひらり、ひらりと一枚ずつ薄紙はがれるように、うとうと、ゆるやかな眠りの波の中を彷徨う。
時たま波間にぽかりと頭が浮かぶから、あたりを見回す。と、どこまでが夢の世界なのだろう。最後の薄紙一枚めくれたら、どこにいるのかな。また孔雀の尾っぽにぶら下がって空から箱庭の町を眺めているかしら。熱い頬は冷風にさらされて真っ赤になっているだろう。