コップ

誰かが何かをしてくれるという思いがどうしても消せなくて、いつも誰かが最後は何とかしてくれるという思いが、今度ばかりはそうではない、と始めて思った気がする。なぜなら誰も手の届かない自分すら手の届かないコップの中のことだから。

空を見上げているけれど、自分はコップの底に座っている。
目が覚めたらあたりから心地よい半透明の光が射していた。いつかこんな風に、外からは見られず、でも光があふれるように入る場所に暮らしてみたいと思っていたから。

でも、プラスチックのコップの中だとは。
おかげで空はまあるく切り取られてる。まあるいそら。朝はコップの左端から藍色が溶け出し、オレンジと黄色がにじんでくる。そのうちまるあるい空の左端から朝焼けが見えて、雲がゆっくり横切っていく。時にはカラスやなの解らない鳥達の黒い影が。

日が高く上がった頃、ぱたぱたぱた…とヘリコプターの音。
携帯の電池はもうすぐ切れるだろう。空に何度も電波を送ってみたけれど、空をかける電波はこの9月の心地よい風にうかれて、気ままな遠足に出かけていったみたい。あぁ私も遠足気分で。雨の日は雨にぬれ、晴れた風に服を乾かし。

来るはずのない助けが来るまでここで座っていよう。
夜、まあるいコップの口にちょうど満月の月がはまってしまい、私はとうとう閉じ込められてしまったようだ。「はまってしまったよう」月は金色の輝きでコップの底の私を見て、困ったように笑っていた。話し相手が出来た。もうすこしここにいてよ。お月様。夜の空には月明かりをあびて、少しの曇が鈍く銀色に輝いている。
お月様は帰り道の途中なので「すみませんが、」とやっぱり困った顔をするばかり。