浅い春に

せっかく私が買った 白いユリの花束を嫌い

あなたは 「廊下へ出して頂戴、」といいました

それは昔

あなたがつけた 私の名前を

私が嫌だと 言ったからでしょうか



そんなことを思ったのは

今日のこのうす黄色い風が いつかの春の繰り返しで

私はあなたの目のなかで 息をしていて

あなたの歴史は そのまま 私の歴史であったと

情けない春の夕暮れ時に ふと 

気づいたからです



それは 小さく 衝撃でした

でもすぐに思い返したのです

あの梅の木の下で あなたは

しゃがみこみ アスファルトに散る紅色の花びらを

黙って拾い集めていました

私はただ おどおどと見つめているだけでした 

ですが 遠いあの日 やはりあなたはお勝手で

割れたお皿のカケラを いつまでも拾い集めていたのです



もうすぐ あの紅梅のつぼみが またほどけます

あなたはまた今年も 歩みを止め 花びらを拾うでしょうか

今の私は 少しずつ その歴史から後ずさりして

そしてそのうち 振り向きざま 一直線に駆け出して 

ずっと ずっと

遠くまで走っていってしまおうと

乾いた2月の曇り空をみあげて

出来もしない そんな空想に浸っています