スライス
 
 
 
 
 

それは静かな時間

薄暮がせまりいつものようにカーテンをひいて

台所のシンクの前で

みずみずしい真冬の大根をスライスする

ただスライスする

 

古い記憶のページをめくるように

キャロルキングのささやくような歌声

 

やめてと 大根が

でも手を止めずスライスし続ける

丸々と太った大根を すべて

オレンジの人参も 一緒におまけ

 

山盛りのスライス

いく筋かオレンジ色が

大地に埋まっていたはずの

白い固まりによりそい

私を見つめた

 

生きるのに許可は要らない

死ぬのにも許可は要らない

豚 トリ 野菜も一緒

 

どんな風が吹こうと

雪が降っても寒い日でも 晴れても

私であることは変えられない

握りしめる

不安定な でも

存在する事実

 

時の神様には なんの許可も要らないけど

時の行く末を受け止めるのは

ひとりにひとりぶんのチカラだけ

この手のひらと身体だけ

だからいただきます 山盛りのスライス 

チカラをもらいます

食べる事はきっと生きること

感謝をこめて